第45話 間もなく一か月
「こんばんれに~」
水曜日の夜、満はいつものように真家レニの配信を見ている。真家レニの配信は水・金・日の週3回行われており、こないだの水曜日に一回休んだくらいで、このペースを守り続けている。
今日の真家レニの配信は、イラストだった。やはり何か特技があるというのは、配信者にとって強みとなるようだった。
真家レニの配信を見ながら、満は自分は何が得意なのかを考えてしまう。何気なく生活してきたという経緯もあって、本当によく分からないのだ。
満は考え事をしながらも、真家レニの配信を凝視している。
今回真家レニが描いているのは、人気アニメのキャラクターだった。
相変わらず、アタリもつけずにどこから描いているんだとつっ込まれまくっている。
『ホントいつ見ても草』
『なんで足から描いてるんですか』
『それでいて全体のバランスが崩れないから怖いよな』
『ホント、いつ見ても神すぐる・・・』
リスナーたちのコメントもいつも通りだった。
この超絶変態技巧が真家レニの人気のひとつなのは間違いないだろう。
なにせ、完成したイラストはいつもの通り今にも動き出しそうな躍動感にあふれているのだから。
「はいはーい、完成でーっす。今はやりのヒロインを描いてみました。やっぱり可愛いですね」
『おお、可愛い』
『太ももサイコー』
『ホンマレニちゃんは絵がうまいなぁ』
レニの言葉を受けて、リスナーたちもいろいろとコメントを書いている。一部ちょっと変わったコメントはあったものの、ほぼレニを褒める内容のようだった。
「今回のイラストもPAICHATに上げておきますので、ゆっくり見て下さいね~。では、本日はここまでです。おつレニ~」
『おつレニー』
『おつレニ~』
いつものように配信が終わるかと思ったのだが、配信が切れていない。一体どうしたのかと、満は首を傾げた。
「ごめんなさい、ひとつ言い忘れてました」
『おっ』
『ついに箱所属か?』
『なんだなんだ』
なにか申し訳なさそうな感じの声だ。
「来週はルナちの一か月記念ですよね」
『レニちゃんが目をかけている個人勢の新人か』
『レニちゃん、ルナち好きだよなぁ』
「はい、好きですよ~。レニちゃんの今のイチ押し!」
真家レニにこういわれて、満は思わず顔を真っ赤にしてしまう。自分の操るアバターのことで自分のことじゃないとしても、憧れからそんな事を言われればドキッとしてしまうものなのだ。
「そんなルナちですが、来週は活動開始一か月ですね。どんな企画をしているのか分かりませんが、楽しみですよ」
『たしかに』
『ワイも今イチ押しのアバ信じゃ』
なんということだろうか。真家レニとそのリスナーたちから大量の期待を押し付けられてしまっている。
モニタの前で、手に冷や汗握る満なのである。
「ものは相談ってことで、あとでルナちにDM送っときます。受けてもらえたら嬉しいかな」
リスナーたちは楽しみだというような内容を大量に書き込んでいる。それを見た満は、ますます顔を青ざめさせていく。
「というわけで、これで本当に配信終わり! また金曜日にお会いしましょう、おつレニ~」
『おつレニ~』
『おつレニ~』
本当に配信が終わったようで、画面には『配信は終了しました』の文字が出てくる。
自分が配信したわけではないというのに、満は緊張から身震いをしてしまっていた。
(いやいやいや、なに勝手な事言ってくれちゃってるの、レニちゃん?!)
満は本気で頭が痛くなってきてしまった。
頭を抱えていると、チャンネルの通知にぽこんとフラグが立っていた。
まさかなと思いつつも、満は通知欄を開く。
「ああ、やっぱりかぁ……」
通知欄を開いた満はがっくりと項垂れていた。
真家レニからの通知が届いていたのだ。
『やっほ~、ルナち
来週水曜日の配信ですが、そちらのご都合がよければでいいので、コラボしませんか
活動一か月の節目を、レニちゃんと一緒にお祝いしましょう』
コラボ配信のお誘いだった。
配信の最後を聞いていて嫌な予感はしていた満だったが、まさにその予想通りのことをぶつけられてしまったのだった。
(どうしようっかな、これ……)
満は頭を抱えた。
一か月記念の配信なのだから、できれば自分のアイディアでどうにかしたかった。
とはいえ、自分の特技は見出せない。自分がアバター配信者を目指したきっかけで、バズった原因でもある真家レニからの提案だ。今回ばかりは彼女のご厚意にあずかることに決めたのだった。
満からすれば、面倒な配信内容を考えずに済みそうなのである。少々面倒な相手ではあるものの、渡りに船といったところだった。
(うん、せっかくの申し出だから、レニちゃんにお任せしちゃおう)
満は結局、登録一か月記念の配信の内容を、真家レニに放り投げることにしたのだった。そのための返信を満はカタカタと打ち込んでいく。
意外に光月ルナガチ勢になっている真家レニ。そんな彼女に任せてしまって、一体どうなってしまうというのだろうか。
気が軽くなったのはいいものの、その結果がどうなるかなんていうのは満はまったく想像していなかった。
真家レニへの返信を送った満は、満足した表情で学校の支度を終えて眠りに就いたのだった。