第443話 吹っ切れたかな?
ルナ・フォルモントからはイリスと環の二人からの伝言が伝えられる。この内容については、話をしているルナ・フォルモントもあんまり理解ができていないようだった。
それというのも、ルナ・フォルモントとしても初めてな内容ばかりだからだ。真祖の吸血鬼とはいえ、長らく自分の領域で閉じこもっていたので、知らないことが多いというわけなのである。
「まあ、こんなところだのう。妾に説明を求められても、妾でも分かる部分が少ない。助言できるとしても、吸血鬼の眷属にされながらも、その支配から逃れて生きた連中のことくらいだからな。すまんな、役に立てんで」
「いえ。ちょっと分かっただけでも十分です。むしろ、ルナさんが今仰ったことの方が参考になりそうですね」
「うん? 妾の話がか?」
満の反応を聞いて、ルナ・フォルモントはちょっと意外に感じたみたいである。その顔は不思議そうな表情をしている。
「はい。吸血鬼の支配を逃れた眷属という話ですね。つまり、気持ちの持ちようということなんですよね?」
「ああ、そのことか。まあ、そうともいえる。自分を強く持つことで、吸血鬼からの支配を逃れたという話だからな。まあ、妾の血の支配はそんな簡単に逃れられるものではないがな。末席の吸血鬼だから、そのようなことが起きる」
「ふむふむ……」
ルナ・フォルモントの話を聞いていて、満はこくこくと何度ともなく頷いている。
「まあ、退治屋なんてものの一部は、そういった連中がいても不思議ではあるまいて。妾たち怪異と同じような力を持ち合わせておるのだからな」
ルナ・フォルモントは、腰に手を当てながらなんとも不愉快そうな表情をしている。おそらくはグラッサによって封印されたことを思い出しているからだろう。
真祖だと言っているからには怪異の中でもトップクラスの実力の持ち主だ。そのルナ・フォルモントですらも封印されてしまったのだから、不機嫌にもなるというものである。
「過ぎたことだし、いつまでも恨み節を言うておるのは妾らしからぬな。それよりも妾としては満の将来のことを気にかけておる。せっかく持っておる能力だし、うまく付き合う方がいいだろうて」
「そうですね。アバ信を続けるにも声変わりの影響で、この変身能力には頼らざるをえませんからね」
「だのう。妾が聞いてみても、やはり満の声は少し低くなっておる。今の時代なら、機械とやらでいくらでもいじれるだろうが、満は地声にこだわっておったようだし、この方がいいのだろうな」
「はっ!」
ルナ・フォルモントが何気に放った言葉に、満は何かに気が付いたようである。
「そっかぁ、ボイスチェンジャーという手があったんだ……」
満は、なにやらショックを受けているようだった。
「なんだ、完全に失念しておったのか。まったく、満は何かと抜けておるのう……。まったく、そんなことではこれから思いやられるぞ。しっかりせい」
予想していなかった満の反応に、ルナ・フォルモントは完全に呆れている様子だった。まさか、思い至っていなかったとは思わなかったからだ。
とはいえ、こういった抜けた感じのある方が満らしいなと納得してしまっていた。
「とりあえず、今日のところの妾からの話はこれくらいだな。舞と環はまだ調査を続けてくれておるようだから、続報が届いたらまた連絡をしよう」
「はい。ありがとうございます、ルナさん」
「うむ。だが、気にするでないぞ。これでも一時期体を共有しておった仲なのだからな。これからも、満の頑張りを見させてもらうぞ」
「分かりました。僕、頑張りますね」
ルナ・フォルモントからの励ましを受けた満は、笑顔で両手の拳を握りながら返事をしていた。その無邪気な笑顔に、ルナ・フォルモントもすっかり顔が緩んでしまうのだった。
満は、ルナ・フォルモントと小麦の父親に見送られながら、元気よく家へと帰っていく。
走っていく後ろ姿を見守りながら、小麦の父親はルナ・フォルモントに声をかける。
「あなたは、思った以上にお優しい方ですよね」
「まあな。昔はそうでもなかったのだが、やはり、しばらく一緒におったというのが影響しておるのかのう。満のことは、まるで自分ごとのように感じてしもうてな」
「そうですか。情に絆されたといったところですかね」
「多分のう。だが、不思議と悪い気はせんぞ、こういうのも」
小麦の父親と話ながら、ルナ・フォルモントは誇らしげに笑っていた。そこには、かつては人々を恐怖に陥れていた怪異の姿はなかった。
「まったく、今のあなたと昔に出会っていたら、惚れていたかもしれませんね」
「おいよせ。冗談でもそんなことを言うでない。グラッサに半殺しにされてしまうわい」
小麦の父親が冗談交じりに笑っていると、ルナ・フォルモントは本気で慌てているようだった。そのくらい、ルナ・フォルモントにとってグラッサは怖い相手のようだった。
「はははっ、冗談ですよ。私はグラッサ一筋ですからね」
「まったく、この惚気が……」
すっかり肝を冷やしたルナ・フォルモントは、小麦の父親に対して文句をこぼしていた。
なんにしても、満が少々吹っ切れたようだったので、ルナ・フォルモントはほっとしていていた。
満がこの先どのような道に進むのか。その様子を楽しみにしながら、ルナ・フォルモントは家の中へと入っていったのだった。




