第442話 あっという間に一か月
ゴールデンウィークから時間が過ぎ、季節はあっという間に梅雨の時期を迎える。
そう、時期は六月の下旬に差し掛かっていた。今年の梅雨入りは平年並みらしい。
「うわぁ……。体がだるいよう……」
学校にやって来ていた満は、教室の中で完全にへばっている。
なにぶん気温が高いこともあって蒸し暑いということがある。ただ、これだけならいいのだが、満はルナ・フォルモントの影響もあってか、流水が少し苦手になっているのだ。そのため、このだらけっぷりなのだ。
「満くん、大変そうね」
「うん、やっぱり、ルナさんの影響だと思うんだよね。あの頃から梅雨が苦手になってるんだもんさ……」
机に突っ伏したまま、満は香織に愚痴をこぼしていた。
満のあまりにもつらそうな姿に、香織もちょっと困ってしまっているようである。
「はあ、あとひと月くらいの我慢かぁ。大丈夫かな、僕……」
「我慢しかないよね」
不安そうにしている満にも、香織はかける言葉がなかったようである。
結局、このような状態のまま梅雨の時期は過ごすしかなかったようだった。
満たちがそろって放課後の下校をしている時だった。
「あっ、ごめん。なんか着信があるみたいだ」
満のスマートフォンが鳴り出し、慌てて電話に出ようとしている。
一緒に帰る香織と風斗は、その場に止まって満の電話に付き合っているようだ。
「あっ、ルナさん。どうしたんですか、こんな時間に」
どうやら電話の相手はルナ・フォルモントのようである。
満と過ごしている間に、ルナ・フォルモントもだいぶ現代の機器に慣れたようで、スマートフォンもこのようにしっかりと使いこなしているのである。
通話の中で、満の表情はころころと変わっていっている。風斗と香織はその様子をじっと見つめている。
やがて通話を終えた満は、二人の方を見てちょっと明るい表情を見せていた。
「ルナさんからの電話だったか。なんだったんだ、用事は」
「うん、どうやら調べ物をしてくれていたイリスさんたちからの連絡があったみたいなんだ。だから、僕は途中で芝山家に寄ることになったよ」
「そうか。まっ、しょうがないな。満にとっちゃ重要なことだもんな」
「うん、ごめんね」
「気にすんな。満の元気の方が大事だからよ」
満は風斗と香織に話をすると、二人と別れて芝山家へと向けて自転車を走らせていく。
芝山家に到着した満は、玄関の前で自転車を降りてインターホンを鳴らす。
「すみません、空月満です」
『おっ、来おったか。今すぐ出るから、ちょっと待っておれ』
満が呼び掛けると、ルナ・フォルモントが応対をしていた。
しばらくすると玄関が開き、そこにルナ・フォルモントが姿を見せる。以前に着ていたゴスロリっぽい衣装ではなく、普通の洋服のようだった。
「自転車はそこに停めておくといい。カッパは玄関にかけるところがあるから、そこを使っておくれ」
「あっ、わざわざすみません」
満はお礼を言いながらも、ルナ・フォルモントの方をじっと見つめている。さすがに凝視をされればルナ・フォルモントだって気が付くというものだ。
「どうした、満。妾に何かついておるか?」
「いえ、なんだか服装に見慣れなくて……」
「ああ、これか。小麦が着ておったおさがりではあるが、似合っておるであろう? さすがに居候の身であるからな、あまり迷惑をかけたくないのだよ」
「ルナさんって、本当に律儀ですね」
「妾とて、一般常識くらいは身につけておるわ。だてにいんたぁねっととやらに封印されてはおらんぞ」
満がおかしそうに話をしていると、ルナ・フォルモントの方も笑って答えていた。
ともかく、満はルナ・フォルモントに招かれて家の中へと入っていく。
「おや、満くんじゃないか。いらっしゃい」
「あ、お邪魔します」
「ふむ。ルナさん、お話をするなら小麦の部屋を使って下さいね」
「分かっておる。妾がそんなことも分からぬと思うたか、小童が」
「ははっ、これは手厳しい」
小麦の父親とちょうど出くわして挨拶をする満。
小麦の父親がちょっと注意をすると、ルナ・フォルモントは少々不機嫌そうに言い返していた。さすがは長い時間を生きる吸血鬼である。空気を読むのはお手の物らしい。そこに指摘が入ったものだから、不機嫌になったようだった。
そんなわけで、適当な飲み物を用意して、ルナ・フォルモントは満と一緒に小麦の部屋へと移動していく。
大学に通っていて不在にしているとはいえ、今はルナ・フォルモントが使っているらしく、部屋の中はきちんと整理整頓をされていた。
「ルナさんって、結構きれいにされるんですね」
「当たり前であろう。長く生きているといい加減になると思うでないぞ。第一、ここは小麦の部屋だ。ならば、いつ戻ってきてもいいように使うものであろう?」
「本当に律儀ですね」
「まったく、みんなして妾を何だと思っておる……」
満の反応に、思わずふて腐れてしまうルナ・フォルモントである。
ひとまず、部屋の真ん中に折り畳みのテーブルを出し、満とルナ・フォルモントは向かい合うように座る。
くいっと用意したココアを口に含むと、ルナ・フォルモントは満の方へとじっと睨むように目を向けていた。
「それでは、今日の本題に入るとしようかの」
「はい」
ルナ・フォルモントに言われ、満は背筋をピンと伸ばして返事をしている。
イリスと環からあったとされる報告とは一体どのようなものなのか、満は息をのんでルナ・フォルモントの言葉を待った。




