第441話 ルナ・フォルモントのアドバイス
街の中を、満とルナ・フォルモントは並んで歩いて、家へと戻っていく。よりにもよって、車で来ていた面々が先にそれぞれ帰っていってしまったのだからしょうがない。
とはいえ、満がこうやって街の中でルナ・フォルモントと一緒に歩いているというのは、実に新鮮な状況だった。
「ルナさん」
「なにかの、満」
ある程度中心部から離れたところで、満はぽつりとルナ・フォルモントに話しかける。特に動じることもなく、ルナ・フォルモントは満の呼び掛けに返事をしていた。
「なんか、こうやってルナさんと並んで歩いているのって不思議な感じがしますね」
「そうか。満からするとそういう感覚になるということか。妾はずっと一緒に歩いている気分だったから、あんまりそうは感じないのう」
満が照れくさそうに話をすると、ルナ・フォルモントはなんとも意外だなという反応を示していた。なんとも意識が違い過ぎるというものである。
「ルナさんは、僕が起きている時でも意識があるからじゃないですか。僕の方はルナさんが表に出ている時には意識がないんですよ?」
「ふむ。そういえばそうだったのう。なんとも、妾たちの気持ちの持ちようがそれだけ違っていたということか」
満の言い分を聞いて、ルナ・フォルモントは腕を組みながらこくこくと頷いているようだった。
その動きが止まったかと思うと、ルナ・フォルモントは満に対して質問を投げかけることにしたようだ。
「のう、満」
「なんですか、ルナさん」
「舞と環が話をしておったが、おぬしはあいどるとやらになるつもりはないのか?」
「あ、アイドルなんて、そんな……」
改めてな質問に、満は反応に困っているようだった。
ところが、ルナ・フォルモントは攻勢を緩めることはなかった。
「満はあばたぁ配信者こんてすとやら、なんかの世界大会にも出ておる。それに、学校の生徒の前でも歌っておったではないか」
「そ、それは、まあ、確かにそうなんですけど……」
ルナ・フォルモントの指摘に、満はたじたじといったところである。実例を挙げられて話されると、事実ゆえに否定できないのである。
「あれだけ人前に慣れておるのだ。あいどるとやらも、悪くはないとは思うがな」
「うううう……。でも、僕はアバ信、アバター配信者がしたかっただけなんですよ。やっぱり、アイドルは何か違うと思うんですよね」
「そうか……。妾はもったいないとは思うが、満がその様に思うのなら、妾はそこまで強く勧めはせん」
ルナ・フォルモントは満のアイドル路線を強く推してはいるようだが、当の満はかなり渋った様子を見せている。あまりにも困ってしまっているようなので、ルナ・フォルモントもさすがに無理強いはよくないと判断したようだった。
だが、強く勧めないといっただけで、別に諦めているようではない感じである。
「うう、将来の進路のひとつとして、考えておきます」
「うむ。今はそれでよかろう。だが、中学の三年間があっという間だったように、高校の三年間も油断はならん。気がつけば卒業ということもあり得るから、気を引き締めておくとよいぞ」
「分かりましたよう」
ルナ・フォルモントに諭された満は、ちょっと不満そうな顔を見せながらこくりと頷いていた。
そうやって話し込んでいる間に、満たちは目的地に着いてしまったようだ。
「あれ、僕の家が先なんですか?」
満は自分の家が見えてきたことに、ちょっとばかり驚いているようだった。
「当たり前であろう。妾は何百年も生きる真祖の吸血鬼ぞ。見た目こそ子どもだが、立派な大人だ。ならば、幼い満を家まで送っていくのは当然であろう」
「ルナさん、意外と律儀だなぁ」
ルナ・フォルモントの主張を聞いた満は、なぜか笑いだしてしまう。なにせ、今の自分の姿とルナ・フォルモントの姿はほとんどが一緒だからだ。分かっていても同い年のように見えて、満は笑いだしてしまったのである。
「まったく、妾のことを子ども扱いするでないぞ」
「あたっ!」
満はルナ・フォルモントからデコピンを食らわされて、額を擦っている。
「とりあえず、満はこれからを考えて普通に過ごせ。舞と環のことは妾が受け持つからの。何か情報が入れば、妾から伝える。果報は寝て待てというのだろう?」
「は、はい。ルナさん、ありがとうございます」
仲介をする気満々のルナ・フォルモントの態度に、満は背筋を伸ばしてしっかりと返事をしている。本当にルナ・フォルモントに頼る気満々といったところである。
その満の姿を見て、ルナ・フォルモントの方もどことなく安心したようだった。
「それでは、妾は芝山家に戻るからな。満、これからの自分の人生、しっかりと考えるのだぞ」
「はい、ありがとうございます、ルナさん」
言うだけ言いきると、ルナ・フォルモントは芝山家に向けて歩き出す。満に背中を向けたまま、左手を上げて左右に振って別れの挨拶をしていた。
満はその姿を見送りながら、ルナ・フォルモントからの贈られた言葉を改めてかみしてめているようだった。
高校生活が始まって一か月。今後の満は一体どのような道に進むというのだろうか。
ルナ・フォルモントはそのことが楽しみなのか、歩きながら楽しそうに微笑んでいたのだった。




