第437話 何があっても平常運転
「みなさま、おはようですわ。光月ルナでございます」
『おはよるなー』
『おはよるな~』
とんでもない提案を食らった日の夜のこと、満はいつものように土曜日の配信を始めていた。
ショックのせいで危うく告知ポストをし損ねそうになったものの、どうにか今日も無事に配信にたどり着けていた。
そんなわけで、満は光月ルナとして振る舞っている。
「世間的にはゴールデンウィークの真っ盛りでございます。みなさま、いかがお過ごしでしょうか」
『仕事』
『サービス業に休みはなし』
『ふふふ、有休もぶち込んで休みを満喫中よ』
『ギルティ』
『カレンダー通りだなぁ』
光月ルナが問い掛ければ、リスナーたちからは様々な反応が返ってきた。
ところが、半分くらいは仕事だという答えだった。みんなお疲れ様だなと心の中で思う光月ルナなのである。
「あらら、大変そうな方々ばかりですね。それでしたら、僕の配信でも楽しんでほっこりしていって下さいませ」
『助かる』
『ほっこり助かる』
『ルナちは女神やでぇ』
「ふふふ、僕は吸血鬼ですよ?」
一部のリスナーの反応に、光月ルナは笑顔で返している。
「えっとですね。ゴールデンウィークは僕の方もお休みが続きますので、実のところ配信を増やそうと思ったのですわ」
『なんだと(がたっ)』
『ガタガタッ』
『おまいらもちつけ』
光月ルナが配信を増やそうとしていたと話すと、リスナーたちが即座に反応をしている。こういうところは相変わらずといったところだ。
「ですが、急に予定が入ってきてしまいまして……。残念ですが、今日と明日の二日間のみと、いつも通りになってしまいました」
『ガーーン』
『な、なんだってー!』
『ショックや・・・』
配信がいつも通りと知ると、リスナーたちはことごとくショックを受けていたようだった。
「あ、夜の配信は増えませんが、朝の短時間配信はさせていただきます。なので安心して下さい」
『モーニングコール助かる』
『それなら一日頑張れそうや』
手のひらくるっくるなリスナーたちである。
結局朝活を増やすということで、リスナーたちは落ち着いてくれたようだった。
この日の光月ルナの配信は、月初の最初の土曜日の配信なので、いつもの通り『月刊アバター配信者』を読んでの感想を言う配信となっていた。
本自体は前日に購入していたので、予定外の事態があったとはいえど、配信には何の影響もなかった。本当に先んじて買いに行っておいて正解だったわけだ。
「それでは、『月刊アバター配信者』のお話はこのくらいでしょうか」
『今月はめぼしい情報がなかったもんな』
『だな』
『それに今の時代SNS発信が当たり前だから、雑誌の情報は古くて役に立たないものが多いしな』
『それなー』
いつものトークを終えると、リスナーたちからは雑誌に対してかなり厳しい声が出ている。これも時代の流れというものだろう。
「それは確かにそうかも知れませんわね」
光月ルナもリスナーたちの意見には賛同するようだ。
「ですが、雑誌でありますと、いつまでも手元に様々な情報が残りますので、僕はこれはこれでありだと思っています。電子の時代になったとはいっても、やっぱりこういうのもいいと思うんですよね」
『わかるー』
『かさばるのは大変だけど、手元に残る安心感ってのは確かにあるな』
『ネットのはサ終で消えるなんてのはざらだもんな』
『そうなると、アナログも案外バカにできんよな』
光月ルナが自分の意見を言うと、リスナーたちも同意してくれている。やっぱり、思うところはあるのだろう。
そんなこんなで、光月ルナの配信は三十分を経過していた。不人気な月刊雑誌のレビューでありがなら、これだけ喋っていられるというのはある意味才能だろう。
「それでは、そろそろお時間もよろしいようですわね」
『げげっ、もうそんなに経ってるのか』
『うわっ、30分経ってるぞ』
『時間たつの早え』
締めに入った光月ルナの言葉で時間を確認したリスナーたちは、実にびっくりしているようだった。
「本当にそうですね。時間というものは意外と早く過ぎて行ってしまいます。僕の配信歴も、あと四か月半ほどでまるっと三年になりますからね」
『うわぁ、マジだー』
『三周年は盛大に祝わねばな』
『禿同』
光月ルナの配信三周年の話が出ると、リスナーたちは結束したかのように盛り上がっている。
このリスナーたちの一体感は、光月ルナは毎度不思議に感じているものだ。
「それでは、本日のところはここまでと致しましょう。次回は明日の夜8時ですわ。またお会いできることを楽しみにしております」
『おつおつ』
『淡々と話しているだけでも、ルナちならなぜか満足できる』
『わかるマン』
「ふふっ、ありがとうございます。それでは、また次の配信で。みなさま、ごきげんよう」
『おつるなー』
『おつるな~』
こうして今日も、無事に光月ルナの配信は終わったのであった。
配信終了のボタンを押した満は、モーションキャプチャを外しながら考え事をしてしまう。なにせ、配信の中で三周年に言及してしまったからだ。
「三周年、何をしようかなぁ……」
部屋着になった満は、そんなことをつぶやきながら、部屋の真ん中でごろりと転がったのだった。




