第434話 連休が始まって
満たちが高校生になってから、あっという間に四月を駆け抜けてしまう。
新しい環境に戸惑いながらというのもあったが、気がつけばゴールデンウィークに突入である。
そのゴールデンウィークの後半の始まる5月3日を翌日に迎えた日の夜だった。
「うん~、ようやく4連休かぁ。この連休どうしようかなぁ……」
配信日ではないために、満は部屋でのんびりと過ごしている。
その満のスマートフォンに、なにやらメールが届いたようだ。
「あれ、誰からだろう……」
満はメールを確認する。
「あっ、ルナさんからだ」
差出人はルナ・フォルモントだった。
去年のクリスマスの後に満から分離して現世に復活したルナ・フォルモントは、今はフランスでグラッサの手伝いをしているらしい。
真祖の吸血鬼であるルナ・フォルモントは、日中でも平気で動くことができる。少々体が小さいことを除けば、外国であるならルナ・フォルモントは普通に働けるのである。
「えっと……。えっ、日本に来るの?」
メールの内容を確認した満はびっくりしていた。
そこに書かれていたのは、久しぶりに日本でゆっくりするという旨の内容だったからだ。
「グラッサさんと一緒に海外に行っちゃってから、もう四か月も経つんだなぁ。ルナさん、元気にしてるのか心配だったから、これは楽しみだ」
スマートフォンを握ったまま、満はなんとも楽しそうに笑っている。なんといってもかつては自分と一緒にいた人物なのだから当然ともいえる反応だろう。
ルナ・フォルモントが帰ってくると知った満は、その夜はそれは楽しそうににやついていた。
そのせいもあってか、満はこの日の異変に気が付いていなかった。
そのままの状況で、日付は5月3日となった。
朝を迎えて、満は朝食を済ませて部屋で宿題に取り掛かっていた。ただ、その表情はなんともにこやかだった。
なにせ、四か月ぶりにルナ・フォルモントと出会うのだから、それは気持ちが浮ついてしまうというものである。
浮ついた状態のまま、お昼前の時間を迎える。
ピーンポーン。
突然、家の呼び鈴が鳴らされた。
「はーい、どちらさまでしょうか」
呼び鈴に気が付いて一階に降りてきた満の前で、母親がインターホンで話をしている。
『おお、満の母親か、久しいのう。妾だ、ルナ・フォルモントだ』
「あら、ルナさん? あれ、フランスに渡られたんじゃなかったんですか?」
ルナ・フォルモントの名前を聞いてその質問が出るあたり、満の母親もなかなか冷静である。
『うむ。グラッサから頼まれてな、グラッサの夫の様子を見に来たというわけだ。だが、妾としてはもう一つ気になるのがあるのでな、家に向かう前にこっちに立ち寄ったというわけだ』
母親からの質問に、ルナ・フォルモントも淡々と答えている。
そもそも真祖の吸血鬼であるので、本来はあんまり感情というものがないのだから、それは当然といえるだろう。
この反応にも母親は動じていないので、満の母親も母親で大したものだ。
「まあ、そうなんですね。ということは、満に会っていくのですね」
『その通りだ。邪魔しても構わんか?』
「はい、なんなら、お昼もご一緒にどうですか。これから支度をするところですし」
『分かった。馳走になっていこう』
「分かりました。では、満を向かわせるので、ちょっと待っていて下さいね」
そういって、母親はルナ・フォルモントとのやり取りを終わらせていた。
「というわけで、満、玄関に行って出迎えてきた」
「うん、分かったよ」
満はにこやかにしている母親の表情にちょっと引きながらも、玄関へと向かっていく。
なんといっても四か月ぶりの再会ゆえに、満としても積もった気持ちがあるというものだ。どういう顔で会ったらいいのか、ちょっと困っているようである。
玄関までやって来た満は、ドアノブに手をかける。
カギを開けて一気に扉を開くと、そこにはルナ・フォルモントともう一人の姿があった。
「え……?」
思わず満の顔は目が点である。
「やっ、満くん、久しぶりだね」
「こ、小麦さん?!」
そう、玄関を開けて立っていたのはルナ・フォルモントだけではなかった。なぜか小麦までいたのである。
「驚かせてしまったかな。ここまでやってくるのに足がなくてな。ちょうど近くにグラッサの娘が住んでおることを思い出してな、それで呼び出したというわけだ」
「いやぁ、びっくりしたなぁ。というか、ルナ・フォルモントって車の運転もできたんですね」
「妾にかかれば造作もないことよ。だが、すんなり応じてくれて助かったぞ、小麦」
「えっへん!」
ルナ・フォルモントに褒められれば、小麦は胸を張って誇らしそうにしていた。
なんにしても、こちらもまた四か月ぶりの再会となる小麦である。
「満くんの驚く顔が見られて安心したよ。昨夜の配信を急遽お休みしたから、気がつかれるか心配したからね」
「あっ!」
「おやおや~? その様子だと気が付いてなかったな? へへっ、どっきり成功だ」
満の驚く反応を見て、小麦は満足そうに白い歯を見せて笑っていた。
ルナ・フォルモントと小麦。久しぶりの再会に、満の時間はしばらく止まっていたようである。




