第431話 懐かしい声
満が配信を終えた翌日のことだった。
日曜日ということもあってか、満はのんびりと過ごしている。
ただ、今夜も配信を行うということもあり、女性に変身したままだ。
その満のスマートフォンがいきなり鳴り始める。何事かと思ってびっくりした満は、大慌てで着信画面を見る。
『小麦さん』
着信画面にはそう書かれていた。
名前を見てほっとした満は、通話ボタンを押して電話に出る。
「おはようございます、小麦さん。朝早くから……」
『ちょっと、満くん。昨夜の配信はどういうこと? 聞いてない聞いてない、聞いてないわよ!』
満が挨拶をしていると、小麦からものすごい勢いで問い詰められてしまっている。
どうやら、配信を土日に絞て行うことにしたということが気になっているようだ。
「ああ、昨夜の配信を見たんですね」
『見たわよ。アルバイトを終えて見てみたらそんな話してたんだもの。夜遅いから朝まで我慢してたけど、全然気持ちが落ち着かなかったわよーっ!』
かなり小麦は動揺しているようだ。それだけ小麦も光月ルナの配信を楽しみにしているということなのだろう。
耳が痛くなりながらも、満は小麦をどうにか落ち着かせようとして、事情を話すことにした。
「……というわけなんです。僕が男である以上仕方ないのですが、ルナさんの影響で身につけた能力を使うにも、体の痛みが伴う以上は使う頻度を抑えなければなりませんからね」
『なるほど、そういうわけかぁ。だったら、私の方に相談してくれればよかったのに。ほら、そっちには舞お姉ちゃんがいるんだし、私経由で相談できたわよ?』
「あっ、それはそうかも知れませんね。退治屋さんなら、対処法を知っているかも知れませんもんね」
『そうそう。こういう時こそ相談してほしいものだよ、うん』
満が理解したのを確認すると、小麦はとても嬉しそうにしている。
『それにしても声変わりかぁ。満くんの声、低くなっちゃったのか』
「そうなんですよ。バレンタインの頃にはちょっと声が出しづらくなってましたからね。受験目前で配信回数を絞っていたので影響はそうありませんでしたけれど、自分でもびっくりしましたよ」
『どんな風になったのか聞いてみたいなぁ。でも、距離を考えるとほいほいと会えない距離だし、しょうがない、我慢だね』
満の低くなった声を聞きたいと思う小麦だったが、住んでいる場所の距離を考えて諦めたようだった。
「しょうがないですね。それに電話だとまた違った風に聞こえるかもしれませんから、直に会う時を楽しみにしてますよ」
『うんうん。そうだ、私免許を取ったから、いずれ車を運転できるようになるよ。アバ信で稼いだお金もあるし、ママとパパにお願いして今度買ってもらおうっと』
「そうなんですね。免許合宿で無事に取れたんですね、おめでとうございます」
『うん、ありがと~、にししし』
どうやら小麦は春休みに行った免許合宿で無事に自動車免許を取得したらしい。その報告を聞いて、淡々としながらも満はお祝いをしていた。
『で、満くん。私、バイトの関係で夏休みまで帰れそうにないから、帰った時には会ってくれるかな?』
「ええ、いいですよ。小麦さんは現実でもアバ信でも、憧れの人なんですから」
『あはは、嬉しいなぁ。よし、夏休みに会いに行けるように、お姉さん、張り切っちゃうからね』
「もう、無茶はしないで下さいよ?」
『てへへへへ~』
気合いを入れていることを話す小麦のことを、満はつい諭してしまう。満に怒られた小麦は、なぜか照れくさそうに笑っていた。
『それじゃ、私は今日もバイトだから、夜の配信、お互いに頑張ろうね』
「はい、小麦さん」
話をし終えて、満は通話を切る。
新学期になっても、小麦は相変わらず楽しそうに大学生活を送っているみたいだ。
こうやって満を心配して電話をするあたり、小麦にとって満という人物は大切な存在のようである。やはり、一度惚れた相手というものは気になってしまうということなのだろう。
小麦との通話を終えた満は、スマートフォンをテーブルの上に置くと、大きく伸びをする。
「さーって、今日は何をしましょうかね。夜はレニちゃんの配信の一時間前から二十分くらいの予定だし、どんな話をしようかなぁ」
満は配信の内容についていろいろと考え始めたようだ。
せっかくの新学期なので、ちょっと張り切った内容にしてみたいつもりだが、いかんせん満には話題の引き出しが少なかった。
「あっ、そうだ。高校入学して初めての配信だし、ここはひとつ、初心に帰るということであれにしてみようかな」
どうやら満は何かを思いついたらしい。
そう思ったら即行動。満は早速パソコンに向かい始める。
「せっかく利用料を払っているんだし、使わない手はないよね」
満がそう言って起動したのは、他でもないホラーアクションゲームである『SILVER BULLET SOLDIER』だった。
憧れの真家レニがよく実況プレイしていたゲームであり、光月ルナのブレイクのきっかけを作ったゲームだ。
「よーし、今日は久々に実況配信だ」
満は早速、感覚を取り戻すためにゲームを開始するのだった。




