第430話 変わる環境
その頃の満はというと……。
「えいっ!」
気合いを一発入れると、女の姿に変身していた。
ルナ・フォルモントと体を共有していた時の影響で、満はその気になれば、女にも変身できる体質となってしまっていた。
なんで女に変身をしているかというと、今日は配信日だからである。
このようになってしまった理由は、声変わりで今までの光月ルナの声を出せなくなってしまったからだ。普通ならば何かしらの決断を迫られる状況なのだが、満はこの能力が発現したおかげで問題なくアバター配信者を続けられている。
「女の体になれるのはいいんだけど、やっぱり変身する時に痛みが走るのがちょっとね……。誰かに相談できればいいんだけど、そういうことができないから大変だよ」
変身した後に服を着替えながら、満はそこそこ大きな声で愚痴をこぼしていた。
無事に新学期が始まったこともあり、満は以前ほどではないものの、活動を増やすことにしたのである。
ただ、変身しなければならないという問題が新たに発生したので、配信の曜日は調整が必要になってしまう。
満たちの町では、土曜日も普通に午前中は授業があるので、変身の負担を考えるなら土日に集中した方だいいだろう。
ただ、真家レニは日曜日に配信を行っているので、邪魔にならないようにと満は気を遣っている。
「よし、これからは土日の配信で、レニちゃんの邪魔にならないように気をつけよう」
満は、これからの光月ルナとしての活動方針を固めたようだった。
次に今日の配信内容を決めようとしていると、部屋の外から母親が呼び掛ける声が聞こえてくる。
「満ー。今から買い物行こうと思うんだけど、一緒に来る?」
どうやら買い物のお誘いのようだ。
「えっ、分かったよ。一緒に行くから、ちょっと待ってて」
満は買い物の件を了承したようである。
今は部屋着に着替えただけなので、タンスから外出用の上着を引っ張り出してくる。暖かくなってきたとはいえど、油断は禁物だからだ。
用意ができると、満は一階へと降りていった。
「あら、女の子になっているのね」
「うん、今日は配信をする予定だからね。声変わりでちょっと低くなっちゃったから、男のままだよやりづらいから仕方なしってところだね」
母親がびっくりして確認してきたので、満は堂々と答えていた。
満の答えを聞いて、母親は思わずほろりとしてしまう。
「ちょっと、お母さん?!」
急に涙を見せるものだから、満は思いっきり慌てている。
「あれだけ嫌がっていたのに、自分から女の子になろうだなんて。ああ、母さんは嬉しいわ」
「もう、お母さんってば!」
欲しかった娘が目の前にいるという状況のせいか、母親はそれは本当に嬉しそうに話をしている。
「ふふっ、冗談よ。それじゃ、買い物に行きましょうか。高校に無事に入学したことだし、満の好きなものを買っていいわよ」
「ほんとに?」
「ええ、高校入学祝いよ」
「もう、しょうがないな。早く行こう、お母さん」
好きなものを買ってもいいという言葉で、満はさっきまでの不機嫌がどこかへと吹き飛んでいたようだ。
そんなわけで、母親の運転する車で近くのスーパーまで出かけていった。
母親が約束通り好きなものを買ってくれた上に、夕食も好物が出てきたということもあって、満はかなり機嫌がよくなっていた。
その流れで、この日は高校入学後、初めての配信を行う。
「みなさま、おはようございます。光月ルナでございます」
『おはよるなー』
『おお、ルナちだー』
視聴者からの反応はいつも通りというところである。
「本日の配信は、いつもの通り、『月刊アバター配信者』のご紹介ですわ」
『ktkr』
『やっぱり月初の土曜はこれがないとな』
『もはやカレンダー代わりだよ』
月刊アバター配信者という月刊誌について語る配信は、光月ルナの定番となっていた。
情報が遅れて出てくる月刊誌のため、不人気極まりない雑誌ではある。それでも、光月ルナが取り上げるとだけあって、発行部数は少しだけ上向いたとか。
「というわけですわね。さて、そろそろお時間もよろしいようですし、終わりにしたいと思います」
『えー』
光月ルナが配信を終わろうとすると、リスナーたちからは引き留めようとするコメントが出てくる。
これも定番の反応であるので、光月ルナは気にせず話を進める。
「えっと、それと新しいお知らせがあります」
『おっ、なんだ?』
『なんだろうな』
「僕自身、環境がちょっと変わりましたために、これからの配信は土曜日と日曜日だけに行うことになりました。平日の配信を期待されていた方々は、本当に申し訳ありませんわ」
『な、なんだってーっ!』
『そ、そんな……』
『平日は何を楽しみにすればよいのだ・・・』
配信時間の減少ということで、リスナーたちは一様に驚きを隠せなかったようだ。中には激しく落ち込んでいるコメントも見られる。
「ええ、本当に申し訳ありませんわ。その代わり、余裕があれば月曜日の朝に短く配信をしようと思いますので、それでご容赦いただけるとありがたく思いますわ」
『りょ』
その代わり、朝活を入れる可能性があると伝えると、ちょっとだけリスナーたちは元気が出たようだった。
「それでは、本日はこの辺で失礼致しますわ。ごきげんよう」
『おつるなー』
『次を楽しみにしてるぜ』
こうして、高校入学後、初めての光月ルナの配信は無事に終わった。
ちょっとショッキングな内容を伝えることにはなってしまったものの、自分の事情を考えるとやむを得ないことだった。
リスナーたちもどうにか受け入れてくれたようで、満はちょっとだけほっとしたのであった。




