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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第43話 満の日曜日

 満は朝起きるとびっくりしていた。

 着替えた覚えがないのに、パジャマと肌着がいつもの自分のものになっていたからだ。

 床を見ると、着替える前のものが丁寧にたたまれて置かれていた。どうやら吸血鬼ルナは几帳面な性格のようだ。なにせ、机の上にはメモ書きまで置かれているのだから。


『血を吸ったから、服を着替えておいた』


 一言ではあるものの、ルナ・フォルモントの性格がにじみ出る文面だった。

 同時に満はふと思った。

 これだけ几帳面で気遣いのできる性格だというのに、どうしてルナ・フォルモントは電脳空間に封じられてしまったのか。

 もしかしたら、吸血鬼というだけで封じられてしまったというのではないのか。

 ルナ・フォルモントとの同調が強くなってきている満は、思わずそんな事を考えてしまった。

 だからといっても、自分に今できることは何かあるわけではなかった。


「考えてもしょうがないな。さて、いつも通りに活動しますか」


 考えることを放棄して、満はパジャマのまま光月ルナのアカウントの状態を確認したのだった。

 さすがに昨日の夜に送ったDMへの返信はきていなかった。ただ、チャンネル登録者とSNSのフォロワーが100ほど数値が増えていた。

 光月ルナは着実にその勢いを増しているといえるだろう。

 とはいえ、まだまだ口コミが中心であり、知名度はそこまでという感じだった。

 これならば昨夜の話を受けてもよかったかもしれないが、まだ新人で中の人が中学生とあってはあの判断でよかったのかもしれない。下手に受けてしまえば、口車に乗せられかねないからだ。

 悩んだところで後の祭り。チェックを終えた満は、部屋を出て顔を洗いに行ったのだった。


 洗濯物を母親に預け、朝食も終えて部屋に戻った満は宿題に取り掛かる。

 今日は風斗との約束もないので暇だった。

 昼を迎えるまでもなく宿題を終えた満は、何をしようか本気で悩み始めた。


「今日はレニちゃんの配信があるし、僕は配信を避けた方がいいな。……せっかくペットが増えたんだし、日常動画でも作ってみるかな」


 配信のために同梱されていたVRのソフトを起動する。これは風斗のいとこがパソコンなどの配信機材一式とともに送ってくれたものだ。

 配信モードにすると各種動画サイトに連動できるし、撮影モードであるならこのソフト単体でも動画の撮影は可能なのだ。

 ただ、動画サイトのアーカイブ機能を備えていないのはちょっともったいなかった。そのために、アーカイブ作成の時だけは別のソフトを立ち上げなければいけなかった。面倒くさいものである。

 途中にお昼ご飯を挟んでの作業だったが、作業自体は実にスムーズに進んでいった。


(本当に世貴兄さんはすごいよ……)


 こうもりの羽のようなものが付いているので空を飛べるという要素はあるものの、本物の犬や猫を相手している気分になる。そのくらいに生き生きとした動きを見せているのだ。

 この日撮影した動画は、真家レニの配信の少し後にでもアップしようと決めた満は、配信までの時間を精一杯使って動画を仕上げていったのだった。

 ど素人の満ですら一本の動画を楽々と仕上げてしまう。それは、機材が届いた時に同梱されていた世貴の説明書のおかげである。映像付きで説明されていたので、視覚的にもとても分かりやすかったのだ。それがどれほどかというと、機械を触り始めてからひと月も経たない満がこれだけできるのだから、効果は実証済みなのだ。

 作業が終わった時にはちょうど夕食の時間だったので、家族そろっての話の席に着く。


「満、結局あの話はどうしたんだ?」


 父親が満に話を振ってくる。


「うん、断ったよ。お父さんたちの言葉もあるけれど、僕にはまだ早いと思ったから」


「そうか」


 父親は短く言うと、黙り込んでしまった。


「私たちとしては満のすることは応援したいけれど、やっぱり満のことが一番だものね」


 母親が頬に手を当てながら言うと、父親は言葉に反応して一度大きく頷いていた。


「大丈夫だよ。少なくとも中学生の間はそんなに無茶をするつもりはないよ。ただ、コラボの打診が来たらちょっと考えちゃうかな」


 満はにへらと笑ってしまう。

 すでに真家レニとのコラボ実績があるからだ。

 あの時は二画面配信とはいえうまくいったという実績がある。そのことが、満にそんな表情をさせているのだ。


「基本的には満の好きなようにやればいい。だが、困ったことがあれば昨日のように相談しなさい、いいな?」


「はい、お父さん」


 父親が力強くいうと、満はこくりと頷いて答えた。

 話を終えた満たち一家は、黙々と夕食を済ませる。食事を終えた満は簡単に手伝いをすると、自分の部屋へと戻っていく。

 時間としては夜の8時前。真家レニの配信予定までは1時間の余裕があった。


(さーて、レニちゃんの配信を楽しむぞ)


 満はうきうきした気分でモニタの前で配信を今か今かと待ち構えている。そのくらいに満は真家レニが好きなのである。

 配信が行われていない状況だというのに、すでにかなりの数が配信の開始を待ちわびるリスナーたちがたくさんチャンネルを開いている。真家レニの人気というのはそれだけすごいのだ。

 そして、夜9時を迎え、真家レニの配信が始まる。

 今日の内容は日常のこぼれ話のような内容だった。それでも、真家レニの話術が光り、そんな日常話ですらも面白おかしく満の耳に聞こえてきたのだった。

 やはり、人気の配信者には人気になるだけの理由がある。満はそれをレニから手に入れようと必死に聞き入っていた。

 あっという間の一時間だった。

 視聴を終えた満は、余韻に浸りながら布団へと転がり込む。いつの間に敷いていたのか。

 そして、それをかみしめるようにしながら、そのまま眠りに落ちていったのだった。

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