第427話 高校デビュー
「お母さん、これで大丈夫かな」
「学ランなんて、どう着たって間違えないでしょ。大丈夫よ、満」
朝から満はなにやら困っているようだった。
それというのも、今日はいよいよ入学式の日だからだ。
何度も試着したというのに、いざ当日となったら不安に駆られてしまっているというわけである。
「しっかりしなさい、満。今日から高校生なんだからね。通学路を間違えないようにね」
「う、うん。お母さんは送ってくれないの?」
「入学式には参列するわよ。でも、初日だからって親を頼るんじゃないの。高校の場所は知らないわけでもないでしょ?」
「そ、そうだけどさ……」
母親に言われて、満はなんとも自信がなさそうに答えている。
ここまで培われてきた性格というものは、そう簡単に変わらないのだ。
「ほら、風斗くんと香織ちゃんと一緒に登校する約束をしてるんでしょ? そろそろ出ないと遅刻するわよ」
「わ、分かったよ。それじゃ行ってくるね」
満は学生かばんを手に持つと、靴を履いて家を出ていった。
距離があるので自転車通学なのだが、初日からこれでは先が思いやられるというものである。
家を出て自転車にまたがる満を見て、母親は心配そうにその姿を見送っていた。
満たちは香織の家で合流する。三人の中では香織の家が一番高校に近いからだ。
「おはよう、香織ちゃん」
「おはよう、満くん」
「おい、俺もいるぞ」
「おはよう、村雲くん」
「おう、おはよう」
家の前で挨拶を交わす三人である。
「よし、それじゃ行きましょうか」
「おう、そうだな」
挨拶を終えると、そろって自転車をこいで学校へと向かう。
満たちの住む街の公立高校は、駅前から近いところにある。普段から駅前までは自転車で移動しているため、満たちは自転車登校というわけである。
学校に近付くにつれて、あちこちに同じような制服を着た人たちを見かけるようになる。それを見て、ちょっとずつ高校に進学したんだなと実感がわいてきているようだった。
無事に高校に到着した三人は、クラス分けを確認する。
「げっ、なんでまた俺だけ別のクラスなんだよ……」
「風斗、残念だね」
「三人一緒になれるかと思ったんだけどね、残念かな」
「まっ、しゃーねえな……。クラスは隣同士だし、登下校は一緒になるだろうから、贅沢は言わないでおくか」
中学二年と三年の時と同じように一人だけクラスが違ってしまった風斗は、頭をかきながら不満そうな顔をしつつも納得したように喋っていた。この様子には、満たちも苦笑いをするしかなかった。
クラスに移動した満たちは、教室の前で分かれてそれぞれの教室に入っていく。
さすがに高校ともなれば、クラスの何割かは見たことのない顔だ。
最初の席順は五十音順なので、『そ』らつきと『は』なみやということで席が離れてしまう。
「あーあ、席が離れるのはしょうがないか」
「まあしょうがないよね。誕生日にしてもなんにしても、離れちゃうもんね」
「だね。とりあえず我慢しておくわ」
「うん、それじゃね、香織ちゃん」
「ええ、満くん」
お互いの席に移動して、かばんを置いて座る。
その直後にチャイムが鳴って、最初のホームルームが始まることとなる。
がらりと扉が開き、クラスの担任が入って来ることとなる。その姿を見た香織は思わず声を上げてしまう。
「えっ?」
その声に、クラス中の注目が集まってしまう。
さすがにクラス全員の視線を向けられると、香織は恥ずかしくなって小さくなってしまっていた。
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもありません……」
香織は縮こまりながら、担任の声に反応していた。
「みなさん、入学おめでとうございます。私はこの1年3組の担任である打波雲母です。このあと入学式が始まりますので、速やかに体育館への移動をするようにして下さい」
担任が自己紹介をすると、すぐに体育館へと移動するように言われる。それを合図に、全員ががたがたと立ち上がり、一斉に教室の外へと出ていく。
全員が出ていくまでの間、担任はその様子をじっと見守っている。
最後におずおずとした様子で香織がやってくると、担任は香織を呼び止めていた。
「ふふっ、持っていた教員免許で高校教師をしようと申し出て正解だったわね。あなたに会えるとは思ってもみなかったわよ、マイカちゃん」
「ふぃりあさん、先生ができるだなんて知りませんでしたよ」
「それは黙っていたからね。さて、あまり長く話しているとみんなが寄ってきちゃうので、早く体育館に向かうように」
「はい、それでは」
そう、高校一年生となった香織のクラスの担任は、同じVブロードキャスト社の第四期生の一人である泡沫ふぃりあの中の人だったのだ。
この衝撃の事実に、香織は思わず声を上げてしまったというわけなのである。
どっきり成功といわんばかりの笑顔を見せる雲母が見送る中、香織たちの入学式が始まろうとしている。
初日からして、なんとも驚きのスタートとなってしまった。
はたして、満たちの高校生活はどうなるというのだろうか。それは誰にも分からないことなのである。




