第426話 春の訪れ
バレンタインも過ぎ、高校受験も無事に終わり、卒業式も終える。
四月の入学式まで、満たちは長い春休みに入っていた。
今日は高校入学を前に、三人そろって制服を購入するために街へと出かけていた。
「はあ、高校の制服かぁ。学生服だっけか、僕たちの通う高校」
「だな。詰襟のグレーのやつだ」
「私の方はセーラー服だよ。今の時代でもオーソドックスな格好よね」
学生服を扱っているお店は、駅前の商店街にある。本来は子どもたちだけで来るようなものではないのだが、なぜか三人でやってきていた。
「よく俺たちだけで来れたよな。制服って結構高いんだぞ」
「今日は試着と裾直しの依頼だからだよ。購入するんだったら、お父さんかお母さんに来てもらわないと支払えないって」
風斗の言い分を聞いて、満が答えていた。
「えっと、買うのって何々だったっけ?」
「制服の上下と体操服だね。体育で授業で使う水着は使いまわせるから必要ないしね」
「満くん、よく調べてきてるわね」
「配信している関係か、事前にいろいろ調べる癖がついちゃったからね。知らないことをいきなり話すなんてできないでしょ」
「なるほどなぁ。アバ信やってるのも無駄じゃなかったってわけか。満がこんなに頼もしいのは初めて見たぞ」
「ちょっと、風斗?!」
質問に答えているだけなのに酷い言われようで、満は思わず風斗を食って掛かっている。ここまで言われるとは思っていなかったから、余計に腹が立っているようだ。
その二人の様子を見ながら、香織は思わず笑ってしまう。
「あっ、そろそろ着くみたいよ」
風斗と満が言い合う中、香織が目的のお店を見つけたようだ。
「あっ、本当だね。風斗、着いたからそろそろそういうのはやめよう」
「突っかかってきたのはお前だろ、満」
「風斗が悪口を言うからじゃないか」
「ほらほら、二人とも。そろそろやめましょう。周りからもじろじろ見られているわよ」
満と風斗はまだ続けているようだが、香織から現実を見せつけられるとあっさりと言い合いをやめていた。
やはり、あまり注目されるのはよろしくないらしい。
二人の様子を見て、香織は微笑ましさに笑いが止まらなかった。
「と、とにかく行こう。裾直しにどれだけ日数かかるか分からないし」
「うん、行こっか」
とにかく言い争いが終わり、満たちは学生服のお店へと入っていった。
無事に終わり、店を出てくる。
代金は受け取り時支払いということで話をつけることができたようだ。
ただ、さすがに時期的に忙しいので、五日ほどかかってしまうらしい。
「五日間かかるのかぁ」
「まあ、しょうがないわね。進学の時期だから、私たちに以外からも注文入っているだろうしね」
「そうだな。忙しいのに無理いっちゃ可哀想ってもんだぜ」
三人は時間がかかる理由に納得がいっていた。
ちなみに体操服はその場で購入だったので、代金は全部満が払っていた。二人して持ち合わせがなかったのでしょうがない。
「それにしても悪いわね、体操服の代金を払ってもらっちゃって」
「このくらいはいいよ。光月ルナの配信ですっごく稼いでいるからね」
「だけど、さすがにこの金額をポンッと払えるのはおかしいだろ。満、絶対に返すからな」
「僕は別に構わないんだけどなぁ」
「ダメよ、満くん。ちゃんとこういうのはしっかり貸し借りなしにしなきゃ」
「う、うん、分かったよ。香織ちゃんがそういうのなら」
香織から強く言われて、満は仕方なく納得したようだった。
「よし、今日の本題は俺が持つ」
「お昼の代金は私が持つわ」
満の反応を見て、二人はしっかりと宣言していた。
あまりの気合いの入りように、満は思わず苦笑いである。
制服の注文を終えた満たちは、三人で駅前の商店街を適当にうろついていた。
用事を終わらせたその帰り道の途中だった。
「あっ、あそこの樹を見て」
いきなり香織が声を上げる。
何かと思って満と風斗が視線を向けると、そこには一本の桜の木が生えていた。
「どうしたんだよ、花宮」
「どれどれ……」
自転車を止めて、じっくりと三人は桜の木を見ている。
「あっ、桜が咲いているよ」
「えっ、マジか? まだ咲くのは十日くらい先だろ?」
桜の木の様子に気がついた満が叫ぶと、風斗も驚いてそんな風に言いながら桜の木をじっと見る。
だが、確かにほんの数輪ではあるものの、桜の花が咲いていたのだ。
「最近ちょっと暖かかったから、思わず咲いちゃったのかしらね」
「かもな。まったく、こんなことに驚かされるとは思ってもみなかったぜ」
「ねえ、せっかくだから写真を撮ってかない?」
「撮ってくって……。まあ、いいけどな」
「そうね。せっかくだし撮っていきましょ」
桜の花に感動をしていると、満が写真を撮ろうと言い出す。その言葉にぎょっとしたものだが、風斗も香織もその意見に賛成したようだった。
それぞれスマートフォンを取り出し、一人ずつ順番に自撮りで撮影をしていく。
「ふふっ、いい記念になりそうだわ」
「まったくだな」
早咲きの桜を見ながら、三人は訪れた春にしばらく見入っているのだった。




