第425話 中学最後のバレンタイン
「おはよう、香織ちゃん」
「あっ、おはよう、満くん」
翌日のバレンタイン、学校にやって来た満は香織に声をかけていた。
「今日の昼休み、風斗と一緒にいつものところに来てもらってもいいかな」
「いつもの? ああ、あそこね。いいわよ」
「じゃあ、約束だよ」
満はそうとだけ話すと、自分の席へといってしまった。
あまりにも唐突に笑顔で話してくるので、香織は思わずきょとんとした顔で満の姿を見ていた。
「なんだったのかしら。満くん、すっごく楽しそうな顔をしていたけど」
そうは思いつつも、今日の昼休みを楽しみにする香織なのである。
そして、昼休みを迎える。
校舎にある屋上へと続く階段の最上段、そこが満たちの集合場所である。
隣のクラスから風斗も合流して、三人は屋上の扉の前に集まっていた。
「いよいよ、来週から午前中授業だね」
「そうだね」
「もう受験の時期だもんな。一か月切ってるし、気合い入れねえとな」
三人は思い思いに話をしている。
満たちの地域では三月の頭に高校受験が控えている。満たちが受験するのは、地元の公立高校だ。
同じ高校に進むとはいえ、受験が絡む以上は一緒に通えるとは必ずしもいえない。なので、ちょっとばかり不安なのである。
「とはいえ、この中で一番不安なのは満だろうよ。成績、一番悪いんだからな」
「えっ、僕が……?」
「そうだぞ、満」
「ううっ……」
風斗にまともに指摘されて、満は何も言い返せなかった。満自身も自覚していることだからだ。
「まっ、男女別々で授業を受けていたのも少しは影響してるだろうな。クラスが違えば、進みが違うなんてこともあるだろうしさ」
「でも、言い訳にしかならないわよ、そんなの」
「うぐっ!」
風斗がフォローを入れようとしても、今度は香織から指摘されて満は大ダメージである。
「まっ、心配するな、満。復習を兼ねて、俺たちが勉強を見てやるからさ」
「う、うん。約束だよ」
風斗からの心強い言葉を受けて、満は少しだけ明るさを取り戻していた。
「それはそれとして、なんで私たちをここに集めたのかな、満くん」
雰囲気が和らいだのも束の間、今度は香織が満に詰め寄ってきた。
急に迫られたので、満もちょっとたじたじである。
「ああ、えと、その……。今日ってバレンタインだから、チョコを作ってきたんだよ。人前で渡すのが恥ずかしくて、それでここで渡そうと思ってね」
香織の視線が怖い満は、正直に話していた。
満からの正直な告白に、風斗と香織は思わず顔を見合わせてしまう。
「なんだ、そういうことだったのか」
「前のことを思えば、満くんも配慮できるようになったのね」
「ま、まあ、大勢の前で渡して迷惑はかけちゃったし、男がチョコレートを渡すなんて、なんか恥ずかしいでしょ」
風斗と香織がほっこりした笑顔を見せると、満は恥ずかしそうにもじもじとしながら言い訳をしている。その姿のせいで、二人はさらににこにことしていく。
「もう! とにかく、二人ともこれあげるね!」
恥ずかしくなってきた満は、ポケットにしまい込んでいた包みを二人に押し付けている。
赤茶けた包み紙にリボンの装飾までついた、実にらしいラッピングである。
「昨日、バレンタインの配信を前にして確認のために作ってみたチョコレートだよ。うまくはできているし、試しに食べてみて問題はなかったらね」
チョコレートを渡された二人は、黙り込んだまま満の様子をじっと見ている。なんとも恥ずかしそうに、自分たちを見ないようにしながら話す満の姿を見て、ついには笑いだしてしまっていた。
「もう……。なんで笑うんだよぅ……」
さすがの満も不満気に頬を膨らませて、風斗と香織を睨んでいる。
ところが、二人の笑いはおさまるどころか、しばらくずっと笑い続けていた。なんともな状況だった。
「ねえ、ここで食べてもいい?」
「別にいいけど。学校でそういうことしていいの?」
「持ってきておいてよく言うな」
「うっ、確かに……」
香織の言葉に驚く満だったが、風斗からすかさず指摘されて言い返せなかった。
そんなわけで、二人揃って満の持ってきた包みを開けている。中には四角形の板チョコが何枚か入っていた。
まずは一枚を口に入れる。
「うん、おいしい」
「いい感じの甘さだな。本当にうまいよ」
「えへへ、ありがとう」
二人から褒められて、満は嬉しくて笑っている。
「それじゃ、私からも二人にバレンタインね」
「おっ、サンキューな」
「ありがとう、香織ちゃん」
満のチョコレートを味わったところで、今度は香織がチョコレートを二人に渡している。
男二人はしっかりと受け取っていた。
キーンコーンカーンコーン……。
そのタイミングで予鈴が鳴り響く。
「あらら、もう昼休みが終わりみたい」
「教室に戻るか」
「そうだね」
三人は立ち上がり、階段を降りていく。
「みんなで一緒の高校に行きましょうね」
「ああ」
「うん、一緒に通えるように頑張ろうね」
教室に戻りながら、三人は改めて同じ高校に通うことを誓い合うのであった。




