第423話 なるようになるしかない
女になったついでだからと、満はその日は配信予定だったこともあって、配信をすることにした。
男の方だと声に不安があったので、これはこれでありがたいことではある。
しかし、改めて自分の体を見ると、その体型には少々ばかり不満があるようだった。
「はあ、なんでこんなに胸が大きいんだよ。足元が見づらいや……」
満はかなり大きな自分の胸にとても不満があるようだった。
ひとまず遅れながらも配信告知をして、夜の九時の配信時間まで試験勉強をして過ごしていた。
なにせ、高校入試までもう一か月だ。平均程度の学力しかない満では、少し不安があるというものである。なので、試験勉強はどうしても欠かせないというわけだ。
(自分の夢に向かって進む小麦さんに負けてられないからね。僕も将来的には大きな仕事をしてみたいから、頑張ろう)
七時から八時まで一時間、満はしっかりと試験勉強をする。
それが終わると、ひとまずお風呂に入ってすっきりして、配信時間を迎えていた。
女性の用の服に着替えて、モーションキャプチャを着けると、いよいよ配信時間だ。
「おはようですわ、みなさま。光月ルナでございます」
『おはよるなー』
満がいつものように配信を始めると、リスナーからはいつもの挨拶が返ってくる。これを聞くと、満は少し気持ちが落ち着く気がした。
『あれ、ルナち。なんか元気なさそうだな』
『うん、少し声に元気を感じない』
ところが、リスナーたちは満の様子をすぐに言い当ててくる。本当に鋭いリスナーたちである。
「酷いですね。僕は元気ですよ、いつもの通りです」
指摘された満は、慌てることなく落ち着いて全力否定である。
両腕を持ち上げて、力こぶを作るような動作をして、上下に数回動かしている。
『やっぱり元気ないやん』
『どしたん、話聞こか?』
「なんでそうなるんですか!?」
普段通りをアピールしても、リスナーたちから心配されてしまう満である。あまりの一体感についつい叫んでしまっている。
本当に光月ルナのリスナーたちには謎の一体感がある。いい方向での一体感であるので配信が盛り上がるのだが、満としては困ってしまうのが現実である。
「どこをどう聞いたら、元気がないように聞こえるんですか。もう、みなさん、酷いですね!」
リスナーたちのあまりな反応に、満はついほぼ素の状態になってしまう。
『ルナち可愛い』
『うーん、癒されるなぁ』
『やっぱルナちは最高だよ』
リスナーたちはまったくこたえていなかった。
『そういえばルナち』
「なんでしょうか」
『もうバレンタインだけど、今年もチョコは作るの?』
「あー、そうですわね」
満は、ちょっと考え込んでしまった。
それというのも、今年は受験生であるからだ。受験が終わるまでは、配信を控えるつもりでいるので、今週二度目となる配信をするかどうかは悩みどころである。
しかし、リスナーからは期待するコメントが次々と送られてきており、満はさらに悩むことになってしまった。
「はあ、分かりましたわ。今年はちょっと忙しいのですが、みなさまのご希望があるのでしたら、チョコレートを作る配信を致しましょう」
『おおっ!』
『これは助かる』
『よかった、今年もチョコは0じゃないんだ!』
『切実なのは草』
チョコレートがもらえると喜んでいるリスナーのコメントには、満もついくすりと笑ってしまう。
「それでは、チョコレートに関しては、木曜日の配信をお楽しみにしていて下さい。三日後ですね」
『りょ!』
『わくわく』
『できれば本物のチョコが欲しいけど、ぜいたくは言えんよね』
『うんうん』
リスナーたちは、本当に満からのチョコを期待しているようである。
さすがにどこにいるか分からない相手に、本物を送れるわけがない。世貴の作ったヴァーチャル空間ではあるものの、その雰囲気だけはしっかりと味わってもらいたいものである。
リスナーたちの反応は、満のやる気に火をつけていた。再び女の体になってしまった憂鬱などどこかに吹き飛んでしまったようだ。
「それでは、今日はこのくらいにしておきますね。多分、四月になるまでは配信の頻度が減ると思いますが、変わらず僕のチャンネルをよろしくお願いします」
『了解~』
『見られる頻度が減るのは寂しいが、次回のチョコ配信で心満たしとく』
『おつるな~』
「それではみなさん、ごきげんよう」
僕は配信終了のボタンをクリックして、配信を終わらせる。
ボタンの表示が『配信』に変わっているので、無事に終了できたようだ。
「はあ、とりあえず次の配信はこっちの姿になるかな。変な心配をしなくて済むのは助かるし……」
モーションキャプチャを外した満は、部屋の中でごろりと転がる。
久しぶりだったので胸の感触に驚いてはいたが、それもすぐに気にならなくなっていた。
「本当に僕はどうなっちゃうんだろうなぁ……。でも、うまく使っていかなきゃね。光月ルナを続けるためにも……」
寝転がったままため息をつくと、満は起き上がって今日の分のアーカイブを作っていた。
それが終わった満は、翌日の準備を済ませておく。もちろん、男の方の時間割でだ。
「起きてから元に戻ろう。それじゃ、今日はもう寝ようっと」
大きなあくびをした満は、布団を敷いて、そのままいつものように潜り込んで眠ったのだった。




