第412話 忘れた頃のブイキャス配信
新学期が始まってから最初の日曜日、香織はようやくVブロードキャスト社に顔を出す。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「あら、マイカじゃないの。あけましておめでとう。そっか、年明け初めての配信だっけか」
建物の中に入ると、華樹ミミが出迎えてくれた。
「はい。三月には高校受験を控えていますので、出番を減らしてもらってたんです」
「そっか、そんな時期なのね。でも、そうだったら無理に出てこなくてもいいのよ?」
マイカが今年最初の配信となる理由を話すと、華樹ミミは困ったような顔をしてマイカに語りかけている。
ところが、マイカはなぜか苦笑いをしている。
「受験が終わるまで完全に自粛しようと思ったんですけれど、やっぱりファンがいる以上は休んでいられないかなって。ただ、月一回の配信ですので、そんなに負担にはならないと思うんです」
「そっか。マイカがその様に考えているんだったら、思うようにやればいいわ。だけど、受験の直前はちゃんと時間を取って備えておくことよ?」
「はい、もちろんです。ありがとうございます、ミミ先輩」
元気よくは言葉を交わすと、マイカはスタジオのある階層へと移動していった。
「やれやれ。中学生だからできる無茶というものかしら。……私の高校受験は、何年前だったかしらね」
マイカを見送った華樹ミミは、追いかけるようにしてスタジオのある階へと向かったのだった。
Vブロードキャスト社のスタジオにやって来たマイカは、そこで久しぶりにぴょこらと出会う。
「新年あけましておめでとうございます、本年もよろしくお願い申し上げます」
「あけましておめでとうございます。すっごく堅苦しい挨拶だね、ぴょこらちゃん」
顔を合わせたぴょこらの挨拶に、マイカはつい笑ってしまう。
「親戚が飲食業をしていることもあって、挨拶は丁寧にと言われているのよ。他のみなさんにも同じように挨拶をしたし、一人だけ違う挨拶をするわけにもいかないのよ、マイカ」
「真面目だなぁ、ぴょこらちゃんは」
マイカは思わず笑顔のまま肩をすくめてしまう。だが、ぴょこらも別に悪く感じていないようで、そのまま流していた。
部屋の中には他に蒼龍タクミと腐乱ケン、瀬琉フィルムと泡沫ふぃりあの四人がいた。大体いつものメンバーである。
「今回の配信は七人合同ですか?」
「そうですね。まだ小正月も迎えていませんので、七福神になぞらえて七人で配信をする予定ですよ」
マイカが尋ねると、華樹ミミから答えが返ってきた。
「とはいっても、今回もクイズとゲームをやって騒ぐだけの配信だ。まっ、そんなに難しく構えないでくれよ」
タクミが今回の配信内容と心構えに関してさらって伝えてきた。その声に、四期生の三人がしっかりと返事をしていた。
「そろそろ、犬塚さんがやってくるはずだ」
「柊さんも森さんも、遅れた正月休みらしいから、犬塚さんも大変そうですよね」
「まあ、しょうがない。こういう業種は盆も正月も関係ないからな」
この場にいる男性三人が、いろいろと事情を話していた。
だが、まだ中学生のマイカには、ちょっと理解できないようだった。
「すみません、お待たせしました」
しばらくすると、犬塚が現れる。手には大量の紙が抱えられており、今回の企画のためにずいぶんと用意してきただろうことが見て取れる。
「マイかちゃんとぴょこらちゃんは、大変な時期だと思いますが、わざわざ参加して下さってありがとうございます。そろわなかったらどうしようかと思いましたよ」
「五期生には声をかけたんですか?」
「声はかけましたが、どなたからも参加の答えをいただくことはできませんでした。外がうるさいと、場所の特定にもつながりますから、まあ仕方がないと思います」
「ああ、それは確かに大変だな」
第五期生たちは、社外配信が基本である。そのため、外部の音というのはかなり不確定ながらも不安要素として存在している。時期や時間帯によっては、配信不可能なことだってある。
本社に出向かなくてもいいという利点もあるが、どちらにしても良し悪しがあるというわけだった。
というわけで、一期生から四期生までの七人で、年明けから第二回となる合同配信が行われることになった。
犬塚が持ち込んだ企画書を、一生懸命眺めていく。
「またずいぶんと長丁場になりそうだな」
「二時間で収まるかしらね」
華樹ミミとタクミは、少々ばかり難色を示しているようだ。
「そこは、司会進行を兼任するお二人に任せます。裁量でカットしてもらって構いません」
「おいおい、アバ信に丸投げかよ。まあ、慣れてるからやってやるけどな」
なんということだろうか。犬塚は華樹ミミと蒼龍タクミの二人にすべてを任せるつもりのようだ。
いつもいるはずの森がいないというのが、一番の理由だろう。
困った二人だったが、Vブロードキャスト社を初期の頃から支えているということもあって、やってやろうという気概を見せている。さすが人気のツートップは頼りになるのだ。
話し合いの結果、お昼を挟んだ昼の二時が配信のスタート時間となった。
マイカとぴょこらにとっては、新年一発目の配信だ。
二人は顔を向け合うと、がっしりと手を握って成功を目指す決意を固めたのだった。




