第411話 笑顔がいい
三学期が始まる。
学校にやって来た満は、自分の席でボーっと座っていた。
「満くん、どうしたのよ」
「ああ、香織ちゃん……」
香織に話しかけられても、満の反応はどことなくぼけっとしたものだった。
あまりの抜けっぷりに、香織はつい心配になってしまう。
「もう、満くん。もう二か月後には高校受験なんだよ? そんな状況じゃ、受かるものも受からなくなるわよ?」
「あっ……、そうだね……」
香織に思いっきり心配されても、やっぱり満の様子はどことなくおかしかった。
「……もう」
さすがに見ていられないのだが、今の香織にはこれ以上どうしたらいいのか分からない。仕方なく、その場ではそのまま放っておくしかなかったようだった。
始業式を終えると、再び満のところに香織がやってくる。
「満くん」
「なに、香織ちゃん」
香織が声をかけると、やっぱり満はどことなくぼさっとした反応を返してきた。心ここにあらずといった感じだ。
「今日、家にお邪魔してもいいかな。そうだわ、村雲くんにもついてきてもらうわよ」
「あ、うん……。いいよ」
ちょっと鼻息荒くする香織の言葉に、満はやっぱり気の抜けた反応を返していた。
ここまでくるとちょっと重症だなと、香織は少しばかり気が気じゃなくなっているようだった。
そんなわけで、ホームルームも終わって下校の時間となると、香織は満の手を引いて、隣の風斗のクラスへと駆けこんだのだった。
「村雲くん!」
香織は教室の中に向かって、大声で風斗を呼ぶ。
「なんだよ、花宮。でかい声を出して」
さすがの風斗も、ちょっと困惑した表情を見せている。ここまで大きな声を出す香織の姿に慣れていないのである。
「このあと、私たちに付き合って」
「は?」
香織の呼び掛けに困惑する風斗だったが、香織の隣に立つ満の姿を見て、なんとなく察したようだった。
「はあ、分かったよ。んじゃ、満の家だな」
「ええ」
クラスメイトたちがじっと見つめる中、風斗は香織たちと一緒に下校していく。
一緒に下校している間、風斗は改めて満の姿を見る。
確かに元気はないようだが、しっかりと歩いている。風斗としては大丈夫だと思っていたみたいだが、香織からすると、満の状態はかなり異様に映ったようだった。
そうして、満の家に到着する。
満の母親にちょっとからかわれながらも、三人は満の部屋に移動する。
床に置かれたテーブルを囲んで座ると、早速香織が満を問い詰める。
「満くん、元気ないけど、どうしたの?」
心配している表情で、香織ははっきりと満に問いかけている。
「あ、うん……」
どうにも満の歯切れが悪い。これには香織はもちろん、風斗もかなり気になってしまっているようだ。
「どうしたんだよ。話してみろよ、満」
風斗からも真剣な表情を向けられてしまう。
二人からじっと見つめられた満は、仕方なく事情を話すことにしたのだった。
「……なるほどな。そりゃ、満もこんな風になるのは分かるぜ」
「確かに……。それはつらいでしょうね」
風斗も香織も理解したようだ。
「うん。小麦さんは笑顔で見送りできたけど、ルナさんはやっぱりね……」
「まっ、まったく想像できない話だが、一緒の体に二年もいたんだからな。そりゃまあ、喪失感も半端ないだろうぜ」
「そっか、ルナさん、海外に行っちゃったんですね」
二人ともルナ・フォルモントのことはそれなりに知っているので、今の満の気持ちがよく分かるというわけなのだ。
「一応、向こうに着いてからしばらくしたら、連絡をくれるっていう話なんだけど、まだまだ実感としてわかないというかな」
満がこう話せば、風斗も香織も黙り込んでしまう。満と同じ気持ちだからだ。
「ところで、満。ちょっといいか?」
「なに、風斗」
「男に戻ってるけど、もう女に変身することはないってことでいいのかな?」
妙な質問に、満と香織はちょっと固まっている。
だが、これは風斗にとってはとっても重要な問題だった。
それというのも、風斗は女の時の満に対して、惚れてしまっていたからだ。満が男で安定してくれるのなら、その気持ちに今後は悩まされずに済むというわけである。
そう、風斗からすれば初恋バイバイができるというわけだ。
なので、風斗にとってはとっても重要な案件だったのだ。
「う~ん、分からないよ。ルナさんと分離してからも、一度変身しちゃってるからね。ルナさんたちが言うように、僕が両性持ちの怪異になっちゃったとしたら、今後も変身する可能性はあるよ」
「そ、そうか……」
満から返ってきた答えに、風斗はがっかりとしていたようだった。
「まったく。村雲くんってば、女の子の満くんが気になってたからって、デリカシーもなくそんなこと聞かないの!」
「花宮! 今のお前の発言に、そっくりそのまま言葉を返してやるぞ!」
「なによ!」
突然、風斗と香織が口論を始める。
その様子があまりにもおかしかったのか、満はくすくすと笑い始めていた。
「もう、二人ともやめてよ」
満が笑いながら止めてくるので、風斗と香織はにらみ合いをぴたりとやめていた。
「うん、満はやっぱり笑ってないとな」
「うんうん。その方がいいわ」
満の顔を見るなり、二人も同じように笑顔になっていた。
「ありがとう、二人とも。僕のことを心配してくれて」
「当たり前だろ、親友なんだからな」
「そうよ、満くん」
何かを確かめ合うように顔を見合うと、三人は再び笑い始めたのだった。
どうにか満が元気を取り戻したようで、風斗と香織はようやく安心したのであった。
元気が一番なのである。




