第407話 バッドコミュニケーション
「私に正直な気持ちをぶつけて」
小麦から突きつけられた言葉に、満は戸惑いを感じてしまう。
満からしてみれば、小麦は年上の頼りになる人という感じだからだ。それに、アバター配信者仲間として尊敬と憧れを抱き続けている。
その小麦から迫られた決断に、満はどうしたらいいのかまったく分からないでいる。
しかし、小麦の表情は見るからに真剣で、満はまったくもって目が逸らせないでいる。
それに、心のぶれが性別のブレにも影響していると言われたら、それは本気で困ってしまうというものだった。
(僕がどちらでいたいのか……。そのための決断が必要っていうこと……?)
満の心は揺れ続ける。
その時、満は大みそかの時のことを思い出していた。
あの時、ルナ・フォルモントが自分の体から抜け出したことで男に戻っていたのに、いざ小麦と会うとなると、どういうわけか再び女になってしまっていた。
それに加えて、どういうわけか体が元に戻らない。
このままで、女のままで高校に通わなくてはいけなくなってくる。
さらに満の心には、別なことも浮かんできているようだ。
それは、幼馴染みである風斗と香織の存在だ。
風斗は親友であるし、香織も一緒にいてそんなに気を遣わないで済む相手となっている。
だが、二人は満にとってはただの幼馴染みでしかない。
(小麦さんは、一緒にいて楽しい人ではあるけれど……)
満の頭の中は、いろんな思いがぐるぐるとめぐっているようだ。
小麦と満の間に、長い沈黙が漂う。
しばらく考え抜いた末、満が出した結論は……。
「小麦さん、ごめんなさい」
まさかの謝罪の言葉だった。
「僕にはまだ決められないです」
満から出てきた言葉に、小麦は頭が真っ白になりかける。
自分としては覚悟を決めて告白をしたというのに、満が受け止められなかったのだから。
「小麦さんのことは、確かに好きなんですよ」
そうかと思えば、満はフォローを始める。
「小麦さんは、アバ信としては僕の先輩だし、憧れではあるんですよ」
「そ、そう……」
ショックからか、小麦は簡単な言葉しか返せないでいる。
それにもかかわらず、満はさらに言葉を続ける。
「だけど、僕のその好きは、小麦さんの言う好きとは違う気がするんですよね。うまく言えないけれど、僕の心はそんな感じなんです。ごめんなさい、よく分からない感じで……」
満は申し訳なさそうに、小麦の顔を見ている。
「そっか……。そうだよね。私こそ、ごめん。変なこと言っちゃったみたいで……」
満の答えを聞いて、小麦は困ったような顔をして満に謝罪をしている。だが、その表情は今にも泣きそうな感じだった。
しかし、満は持ち前の鈍さで、その時の小麦の様子が理解できていない。
「うん、ごめんね」
小麦は、涙をこらえるようにして、歯を食いしばっているようだ。
「大学の講義が始まるから、私は明日帰らなきゃいけないの。それじゃ、しばらくお別れだね、満くん。またね」
そう言い残すと、小麦は満の前から走り去っていってしまった。
「えと……」
小麦の反応がよく分からない満は、その場に取り残されるように立ち尽くしている。
「このうつけ者が!」
「わっ、ルナさん?!」
大声とともに、満はげんこつを食らわされる。
誰かと思えば、一部始終をずっと見ていたルナ・フォルモントだった。
「まったく、小麦が決心して一大告白をしたというのに、相変わらず鈍い奴だな……。妾は小麦を追うから、満は一人で家まで帰ることだな。なに、妾の力が宿っているのなら、何も心配あるまい」
ルナ・フォルモントは満にそうとだけ吐き捨てると、走り去っていった小麦を追いかけていった。
再び、満はその場に呆然と立ち尽くしてしまう。
「あれ、満くん?」
「本当だ。どこかに出かけていたと思ったら、こんなところにいたのか」
そこへ、風斗と香織が通りがかる。
三人で出かけようと思っていたのに、満が不在で仕方なく二人で出かけていたようだ。
通りかかったのはたまたまだが、姿を見かけたので風斗は声をかける。
「おーい、満ーっ!」
ところが、満はその声に反応しない。
今は女なのだから、満ではなくルナなので当然だろうが、風斗たちからすればどことなく様子がおかしく感じられた。
「ちょっと気になるわ。行ってみましょう」
「そうだな」
様子がおかしいと感じた二人は、立ち尽くす満に対して駆け寄っていく。
「おい、満。どうしたんだよ」
「ねえ、満くんってば!」
二人が声をかけるも、満は呆然としたままだ。
明らかに変である。
風斗は満の前に回って、肩に手を置いて前後に揺らす。
「おい、どうしたんだ。しっかりしろよ」
最初はグラグラとただ振るわれるだけだった満だったが、さすがに揺れがきつくなってきたのか、ようやく我に返ったようだ。
「はっ! ……風斗?」
「私もいるわよ」
「……香織ちゃん? えと、あれ……、僕は一体……」
あまりに放心していたせいか、満は今自分がどんな状況なのかを思い出せないようだった。
「それは俺たちの方が聞きたいことだな。ここじゃ寒いし、ちょっと場所を変えようぜ」
「賛成。なるべく閉じた空間の方がいいわね」
「じゃ、こいつの家だな」
風斗たちは、満から事情を聞くべく、満を連れて家へと向かうことになった。
あまりにもおかしな満の様子に、香織はとても心配そうな表情を向けている。
一体何があったのだろうか。
風斗と香織は、満の家で、満から詳しく話を聞くことになったのだった。




