第401話 恥ずかしの大みそか
迎えた大晦日。この日は満たち家族と小麦たちの家族が示し合わせて神社へと出かけることになった。
その前に、小麦の家へと集合することになり、満たちは芝山家を訪問していた。
「こんばんは。もう年の瀬ですね」
「いらっしゃい、空月さん。さあ、上がって下さい。支度はできてますからね」
満の両親が挨拶をすると、小麦の父親が出迎えてくれる。
「やあ、満くん。こんばんは」
「あっ、小麦さん、こんばんは」
少し遅れて小麦が挨拶をしてきたので、ちょっと恥ずかしくしながら満は挨拶を返している。
「おやおや、結局年の瀬はそれかい。やはり、妾の影響が残っておるようだな」
「ルナさん」
さらに遅れて、今度はルナ・フォルモントまで顔を出してきた。満の姿を見て、なぜか笑っているようだ。
それもそうだろう。ルナ・フォルモントが分離したために満は元に戻ったはずだった。だというのに、なぜかまた女の姿になっているのだから。
「ふむ。中から見ておった時も思っておったが、満は何を着ても似合うな。これなら、妾も着てみてもよかったかもしれんな」
「もう、他人事だと思って……」
満は、むすっと頬を膨らませていた。
「しかし、またどうして女になったのやら」
「きっと、小麦ちゃんと会うのが、男のままだと恥ずかしかったのですよ」
「ああ、なるほどな。よく分かったわい」
「ちょっと、お母さん、ルナさん?!」
これだけで通じてしまう二人に、満はつい声を上げてしまう。
「なんだ、騒がしいな。おっ、これは空月さん、いらしてたんですね。そばが茹で上がりますので、手洗ううがいをして待っていて下さい」
「ええ、そうさせていただきますね」
グラッサが顔を出すと、年越しそばの準備ができ上がると告げてきた。なので、満たちは家に上がってご相伴にあずかることにした。
ダイニングキッチンに集まると、そこには、海老天とかき揚げが乗ったそばが用意されていた。
「うわぁ、思った以上に豪華ですね。これって、もしかしてグラッサさんが?」
「いいえ。私は買ってきたそばを湯がいただけよ。天ぷらはダーリンのお手製よ」
「すごい……」
さすが男手ひとつで小麦を育ててきたことはある。料理の腕前はかなりのものだった。
「本当に、グラッサはいい旦那を射止めたもんだな」
「怪異にそんな風に言われるのは予想外ね」
言葉だけならちょっと険悪かもしれないが、グラッサとルナ・フォルモントは笑い合いながら言葉を交わしていた。この二人、思った以上に仲は良好なようである。
「妾もしばらく住んで仕事を手伝うことになるから、料理もできるようにならんとな。グラッサのおる間に、少しでも上達せねば」
「殊勝な心掛けだわ。でも、ダーリンは渡さないからね?」
「誰が取るか。そんなことをすれば、地の果てまでも追ってこられそうだからな。妾とて命が惜しいわい」
グラッサがにこりと微笑みながら言えば、ルナ・フォルモントは本気で言い返していた。やはり、一度封印されたことが影響しているのか、実にグラッサに対して怯えているように見える。
このやり取りには、満たちは思わず笑ってしまう。
年越しそばの準備が整えば、テーブルを囲んで全員が座る。これだけにぎやかな食卓はまあ見ることがない光景だった。
「いただきます」
挨拶をして食事を始める。
「てんぷらの揚げ具合がいい感じだわね」
「さすがダーリンだわ。私も揚げ物はできるけれど、天ぷらだけは敵わないもの」
「ははっ、グラッサにそう言ってもらえると嬉しいな」
小麦の父親は、とても照れくさそうにはにかんでいた。
「ほらほら、満くん。そんな晴れ着を着ているのに慌てて食べないの。汁が飛んでしみになるよ」
「ああ、ごめんなさい、小麦さん」
その横では、満と小麦がなんとも仲睦まじくしている姿があった。これには隣に座るルナ・フォルモントもにっこにこである。
「やれやれ、満は将来尻に敷かれそうだな」
「小麦ちゃん、しっかりしていますよね」
「満、もう少ししっかりしような」
「ちょっと、みんなそろって……」
ルナ・フォルモントだけではなく、自分の両親からもからかわれてしまえば、さすがの満は不満げな表情をしていた。
まったく、年の瀬になんでこんな思いをしなきゃいけないのか。満はそんな風に思っているようである。
家族たちからの視線に耐えきれなくなってきたのか、満は黙々と年越しそばを食べていた。
そんなこんなで満たちは時間ギリギリまで、芝山家で過ごす。
「あら、除夜の鐘が聞こえてきたわね」
満の母親が何かを耳にしたらしい。
ルナ・フォルモントはその声に耳をすますと、確かに鐘の音が聞こえてくる。
「いよいよ年越しか。これだけ大勢と一緒に年を越すなど、妾自身は初めてかな」
「去年までは僕の中でしたもんね」
「うむ。一人ではないが、一人と同じようなものだった。……妾も不思議と高揚しておるかもしれんな」
「問題は起こさないで下さいね、ルナ・フォルモント」
「分かっておる」
どことなく落ち着かない様子を見せたルナ・フォルモントに、グラッサがしっかりと釘を刺している。
時計は既に十一時を回っている。
「それじゃ、そろそろ初詣に向かうとしましょうか」
「分かりました。去年と同じ神社ですよね」
「ええ、ここから一番近い寺社ですからね」
小麦の父親が立ち上がると、満たちも同じように立ち上がって準備を始める。
去年とはちょっと違った感じではあるものの、満たちは今年も外で年越しを迎えることになったのだった。




