第398話 再会の冬
ひとまず家に戻った満だったが、どうにも気が抜けた表情で机に向かっていた。
ルナ・フォルモントがつに復活したとあって、満はどういうわけか何かを失った気になっていたからだ。なにせ二年と三か月もの間、同居していた存在だ。どことなく自分と一緒になっていた気持ちになっていたのである。
ため息をついてばかりもいられないと、満は気を取り直して、冬休みの宿題に手を付ける。
まさにその瞬間だった。
唐突にスマートフォンが鳴り出す。
何かと思って目を向けると、着信画面には『芝山小麦』の名前が出ていた。
そういえば、前に連絡先を交換したなと、満はおぼろげに思い出す。
「はい、もしもし」
『やあ、ルナち、レニちゃんだぞ☆』
気が抜けていたせいか、電話に出た満は不意打ちを食らっていた。
「れ、レニちゃん?!」
レニちゃんと名乗られたせいで、満はぼーっとしていたせいもあって混乱している。
『あはははは、ママから聞いた通りだわ。どう、私の不意打ちは』
通話の向こう側から、小麦が笑っている声が聞こえてくる。だが、不思議と怒るような気持ちはまったく起きない。むしろ落ち着いた満である。
「もう、いきなりレニちゃんなんていうから、倒れるかと思いましたよ、小麦さん」
『あははは。満くん、元気ないんじゃないかって聞いたから、私なりに元気づけたつもりなんだけどな。そっかそっか』
「いや、元気は出ましたよ、小麦さん」
『うん? そっかそっか。それはよかったわ』
満がつられたように笑いながら返すと、不思議そうに思いながらも、小麦は安心したようだった。
「小麦さん」
『なにかな、満くん』
「こっちには、いつ戻ってこられるんですか?」
『明日の夕方かな。免許を取ろうと思ってるんだけど、春休みの集中合宿で取ろうと思うから、今回は電車で帰宅だよ』
「そっか、小麦さんも車の免許を取るんだ」
『なくてもいいんだけど、ないよりはあった方がいいからね、にししし』
小麦さんが運転する車ってどんな感じになるのだろうか。話を聞きながら、なぜかそんな想像をする満である。
とりあえず、翌日の夕方にはこっちに戻ってくるということで、満は何気に嬉しくなってきていた。
『ママが帰ってきてるんでしょ? はあ、いろいろ話をしたいなぁ。大学のこととかいろいろとね』
「グラッサさんも楽しみにしているみたいだから、きっといろいろと話ができると思うよ」
『そっか。じゃ、すっごく楽しみだ。にししし』
満がグラッサの様子を伝えると、小麦はすっごく楽しそうな声で話をしている。
『それじゃ、そろそろ準備をするから、今日はこのくらいでね。また会えるのを楽しみにしているよ、満くん』
「うん、僕も楽しみにしている。それじゃ、小麦さん」
ぷつっと通話が切れる。
久しぶりの小麦と話をして、満は満足そうに床の上に転がる。冬休みの宿題なんて、もうどうでもいい様子だった。
小麦と会うのが夏休み以来とあって、満は楽しみで仕方がないようなのである。
「はあ、明日が楽しみだな。いや、明日の夕方に到着って言ってるから、僕が会えるのはあさってかな」
その辺に転がっていた座布団を抱きしめながら、満は小麦と会うのが待ちきれない様子である。いつもより多めに床を転がっている。
「あっ、でも……」
満はとあることを思い出して、急に冷静になっていた。
それは何かというと、クリスマスイブの夜に、自分からついに分離して復活したルナ・フォルモントのことである。
グラッサの方はまだ少々敵視しているようだが、小麦はいったいどんな反応をするのだろうか。満はそのことが気にかかっているようだった。
(小麦さんは、まだルナさんに対しては柔軟だから大丈夫だろうけど、僕から分離したことを知らないもんな。僕も電話では伝えなかったし、会ったらどうなるんだろう)
満は、急に心配になり始めてしまった。
満から分離した上、かつての敵対者の家に転がり込んでいるのだ。普通であれば考えられない状況だろう。だからこそ、満が気を揉むというわけである。
思い立った満は、自分のスマートフォンから芝山家に電話を入れる。
『あら、満くんじゃないの。どうしたの?』
「あ、グラッサさん。小麦さんの事、聞いてます?」
電話を掛けるとグラッサが出たので、満は早速、小麦のことを話す。
『ええ、聞いているわよ。明日の夕方ですってね。それで、それがどうかしたのかしら』
「ルナさんと鉢合わせしたら、一体どうなるのかなって、ちょっと気になっちゃって……」
『ああ、そのことね。心配は要らないわよ。そのことは、私たち家族に任せておきなさい』
念のために確認すると、グラッサからはそのように返されてしまった。こう言われてしまっては、まだ部外者である満には何も言い返せなかった。
結局、ルナ・フォルモントに対することは、グラッサたちに任せることになったのである。
「そうだね。僕が気にしても仕方がないや……」
どうにかこうにか自分を説得する満。胸に手を当てて、数回深呼吸をすると、満は机へと向かう。
今は自分にできることをやろう。
そう思った満は、冬休みの宿題を片付けるために気合いを入れるのだった。




