第396話 ヴァンパイア・クリスマス
クリスマスイブのクリスマス配信を終えた満は、また夢を見ていた。
「あれ……、ここは?」
満の意識は、夢の中だというのに寝ぼけていた。
「ふむ、目覚めたかの、満」
「あれ? ルナ、さん……?」
聞こえてきた声に、満は目をこすりながら反応している。
少しずつ意識のはっきりしてきた満は、周囲を見回してみる。そこは、なんとなくながら、見覚えのある場所だった。
「ここは、光月ルナの、屋敷……?」
そう。満が配信で使っている、光月ルナの自室の内装だった。
思わぬ状況に、満は首をひねりながらうなっていた。
「おかしなことと思うかの。ここは妾の領域ぞ」
「ルナさんの、領域……?」
ルナ・フォルモントの話す内容をやっぱり満は理解できないようだ。
「やれやれ、まだ夢心地か。まあ、無理もない。今は午前二時過ぎだからな」
満ならバリバリに眠っている時間である。それならば、この眠気も納得いくというものだ。
椅子に座っていたルナは、立ち上がって満を手招きする。
「さあ、ここに座るがよい。客人のもてなしをせんとな」
「あ、お邪魔します」
満は小さく頭を下げて、ルナ・フォルモントが指し示した椅子に腰掛ける。
ルナ・フォルモントは一度部屋を退出し、何かをワゴンに乗せて戻ってきたようだ。
「あ、それ。僕が配信で作ったケーキじゃないですか」
「その通りだな」
満の指摘を、ルナ・フォルモントは肯定している。満がなぜ配信で作ったケーキと特定しているかというと、一部が切り分けられてなくなっていたからだ。
配信の最後で、満はケーキを一部切り分けて画面に向けていた。その部分がきれいになくなっているのである。
「紅茶は、妾のおすすめのものを淹れさせてもらった。ちょっと渋めなだけに、甘いケーキとよく合うだろう」
「あ、ありがとうございます」
満は状況に戸惑っていた。
「まさか、配信で作ったケーキを実際に食べるだなんて、夢の中じゃないとできないですよね」
「そうだな。これも、いんたあねっととやらの世界に封印された妾だからこそできるというものだ。おかげで、妾は現実と夢との境界があいまいな存在になっておるようだ。よって、このような奇妙なこともできるというものだ」
ルナ・フォルモントが淹れた紅茶を口に含みながら、満はおかしそうに笑っている。夢だというのに、確かに紅茶の味がしているのだから、余計におかしく感じてしまっているようだ。
満の目の前には、ルナ・フォルモントが切り分けた、配信で作ったケーキが置かれる。きちんとフォークも添えられている。
「それじゃ、いただきます」
フォークを手に取り、満はケーキを早速口に入れる。
甘い。
夢の中なのに、配信で作ったケーキなのに、しっかりと味が感じられている。驚くとともに、ものすごく感動している。
「よかった。ヴァーチャルな空間での料理だったから、味が心配だったんですよね」
「これも、リアルに作ってくれた世貴とかいう男のおかげだな」
「ですね」
満はにこにこしながら、ケーキを食べ続けている。
ある程度ケーキを食べたところで、ルナ・フォルモントはなにやら真剣な表情を見せていた。
「ルナさん?」
異変に気が付いた満が、どうしたんだろうと何度もまばたきをしている。
「満、妾からのクリスマスプレゼントを受け取ってくれぬか?」
「クリスマスプレゼント?」
「うむ」
満がびっくりしていると、ルナ・フォルモントは首を縦に振っている。
「いよいよ妾は復活できることになった。これで、満は妾に意識を乗っ取られることはなくなる」
「えっ、本当ですか!?」
ルナ・フォルモントの告げた内容に、満は目を丸くして大げさに反応している。
自分の体に入り込んでいた別人の意識が、いよいよ体から出ていくのだ。嬉しい反面、ルナ・フォルモントと離れ離れになることに寂しさも感じているようだ。
「悲しそうな顔をするな。本来、妾が入り込んでおることの方がおかしなことなのだ。とはいえ、満はどうにも目が離せんからな。当面は近くに居座ることにするわい」
「そっか、遠くに行くわけじゃないんですね」
近くにいるという言葉で、満はとても安心した表情を見せている。
満のこの反応には、ルナ・フォルモントはかえって困惑しているようだった。
「ただ、妾が出ていくことによって、満の体にどんな変化があるか分からん。元の男の子に戻るか、今までのように変身能力が残るか、それはまったく分からん」
「あ、それは確かに……」
「目が覚めたら、今の姿のように男に戻っているであろう。それでだが、もし女に変身するようなことがあれば、すぐに連絡を入れてほしい」
「連絡って……。ルナさん、どこに行くのか分からないじゃないですか」
ルナ・フォルモントの告げた言葉に、満は冷静に指摘を入れている。
「心配するな。当分はグラッサのところにおる。夫婦の仲を邪魔するつもりはないが、あやつが一番妾が信用できる相手だからな」
「分かりました。では、そうさせてもらいますね」
当面の居場所を聞いた満は、納得したようにうなずいていた。
「出会いがあれば別れもある。満、強く生きるのじゃぞ」
「はい」
その言葉を最後に、満の意識は再び遠のき始める。
やがて深いまどろみに、満は完全に包まれてしまうのだった。




