第395話 三度目のクリスマス配信
夜九時を迎える。
「メリークリスマスですわ、みなさま。光月ルナでございます」
『メリクリ~』
『メリクリ、ルナち~』
挨拶の段階から、スパチャ交じりでリスナーたちのコメントが流れていく。
いよいよ、緊張の三年目のクリスマス配信が始まった。今まではただしゃべったり、屋敷を見せて回ったりとシンプルな配信だったが、今回はちょっと勝手が違う。
今回は配信中に、クリスマスケーキをこのヴァーチャル空間で作り上げるという企画になっているのだ。ちなみに光月ルナの衣装も、クリスマスの特別バージョンになっている。
「それでは、前置きを省略して、厨房へと移動しますわ」
『ケーキを作るんだっけか』
『wktk』
『チョコレートの前例があるから、期待しかない』
リスナーたちはとても盛り上がっているようである。
そうしている間に、光月ルナの背景が、屋敷の厨房に切り替わる。それと同時に、光月ルナの衣装もエプロンを装着している。こういう細かい変化を持たせるのも、世貴のこだわりならではといったところだ。
「それでは、今日の配信は予告通り、クリスマスケーキを作っていきますわよ」
『ルナちの手作り、楽しみ』
『ワイ、夕食抜いて待ってた』
『食べてから来いwwwww』
リスナーたちのコメントも少々お祭りっぽい盛り上がりを見せている。それにしても食事を抜くのはどうかと思う満である。
それはそれとして、ボウルと泡だて器、小麦粉に卵、砂糖とバターを取り出して、スポンジ生地作りから入る。
湯煎で温めながら材料を混ぜ合わせていく手際の良さに、リスナーたちはため息を漏らしながら見入っている。
型に流し込んで、予熱しておいたオーブンへと放り込むと、その間にトッピングの用意をする。
ホイップクリームを泡立てたり、フルーツをスライスしたり、リスナーたちも思わずコメントを忘れてしまいそうになる。
『ルナち、パティシエにでもなるん?』
『手際良すぎるんよなぁ・・・』
『料理系アバ信でも、ここまでよどみのない動きはそうそうおらんて』
「リアルでも言われましたわ。でも、僕はアバ信を続けていくつもりですので、よくは考えていないのですわよね」
満はリスナーたちの反応にそのように返してしまう。ちょうど数時間前にも言われたばかりというのもあるのだろう。反応せざるを得ないのだ。
『リアルの姿を知ってる身からしたら、いろいろ言いたくなるなぁ』
『ルナちの配信でそれは無粋ってもんぞ』
『せやなぁ』
満の反応を踏まえた上で、リスナーたちはいろいろと話をしているようだ。
「さて、焼き上がりましたわ。デコレーションをして完成ですので、もうしばらくお待ち下さいませ」
『ドキドキ・・・』
『この焼き上がりの瞬間が一番怖いんや』
『生焼けは地獄ぞ』
リスナーたちがコメントでいう通り、この焼き上がりの瞬間は一番緊張する。
いくらヴァーチャルとはいえ、徹底的にこだわる世貴のお手製の空間だ。現実と同じような問題が起きる可能性は十分にある。
間にフルーツを挟み込むために、満はケーキを水平に二つに切り分けていく。
「よかったですわ。きちんと焼けているようですわね」
『きれいな断面!』
『ルナち、やっぱり料理人にならん?』
「……考えておきますわ」
安堵のため息をついた満は、ケーキをデコレーションしていく。クリームを塗ってフルーツを敷き、さらにクリームを塗って挟み込む。周囲をクリームで塗り固め、搾り機から出したクリームとイチゴでトッピングを完成させる。
最後にサンタやトナカイ、チョコプレートを乗せて、クリスマスケーキの完成である。
「できましたわ」
『おおっ!』
『売り物にできるレベル!』
あまりのできばえに、リスナーたちからは驚きの反応がたくさん飛んでくる。もちろんスパチャも。
「これは、ひとえにモデラー様の腕のおかげですわ。リアリティを追求した世界を作って下さったからこそ、このようなケーキを作ることができましたわ」
『いやぁ、単純にルナちの腕がいいからだよ。俺は素材を提供したにすぎん』
『両方あってこそやで ¥12,250』
『まったくだ ¥5,000』
『そう言ってもらえると、技術者冥利に尽きるってもんだな』
リスナーたちのコメントに、世貴も感激しているようである。
最後にケーキを切り分けて、満はそのひとピースにフォークを入れる。
「メリークリスマスですわよ。はい、あーん」
『こ、これは・・・!』
『これはいかん、惚れてまう!』
光月ルナが画面に向けて、ケーキをリスナーに食べさせようとしている。これにはリスナーたちは混乱してしまっているようだ。
ケーキのグラフィックが画面から消え、光月ルナがフォークを戻すと、あったはずのケーキの塊が消えてしまっている。
『ルナちにケーキを食べさせてもらえた・・・』
『今年のクリスマスは最高だな!』
『ああ、今年は思い残すことはない・・・』
光月ルナにケーキを食べさせてもらった錯覚に陥ったリスナーたちは、恍惚としたコメントを残している。
「本日はこれで配信終了ですが、みなさん、いかがでしたでしょうか」
『これだけでも満足』
『思い残すことはない』
まだリスナーたちは夢心地のようである。
「気を抜くのはよろしくありませんわね。今年も残り一週間、無事に年末年始を迎えられますこと、お祈りしておりますわ。それでは、ごきげんよう」
『メリクリ、ルナち』
『おつるな~』
いつもと違った締めにはなったようだが、光月ルナのクリスマス配信は無事に終了できたようだった。




