第393話 パーティーの主役
急な来客であるグラッサも加わって、満の部屋でクリスマスパーティーが行われる。
満の部屋は八帖間ではあるものの、さすがに四人も入れば狭い。ただでさえ、男女の服があふれかえっているのだから、余計に狭いというものである。
「満くんの部屋って、きれいに片付いているわね」
「今日はこうなるだろうって思ってたから、前もって片付けておいたんだよ。元々散らかすのは嫌いだから、あんまり手間はかからなかったけどね」
「だな。いつ来てもきれいだぞ、満の部屋は」
香織の感想に、満は淡々と答えている。
「とはいっても、今日はちょっと散らかってたんだよね。今日のための準備をしていたから、部屋の整理に手が回らなくてさ」
「あら、そんなに友人同士でのパーティーを楽しみにしていたのかしら」
「そりゃもちろん。年が明ければいよいよ受験の準備だから、こうやって騒げるのも、しばらくお預けかなって思ってたからね」
「なるほど。さすがはドーターの惚れた相手だわ」
「グラッサさん。いちいち小麦さんを出さないで下さいよ。……なんか恥ずかしいですから」
満は顔を真っ赤にしながら、グラッサに文句を言っている。満の方も小麦を意識しているのか、相当に動揺しているようだった。
そこに、扉を叩く音が響いてくる。
「満、チキンを持ってきたけど入っていい?」
「あ、うん。いいよ」
母親が料理を運んできたらしく、満は許可を出しながらも立ち上がって扉を開けに行く。
「お母さん、メインは僕が自分で持ってくるから、みんなの相手をちょっとお願いしてもいいかな」
「あら、そう? それじゃ頼んだわね」
満は母親と入れ替わるように部屋の外へと出ていく。
母親がテーブルを囲むように座ると、グラッサが母親に語りかける。
「今さら改めて聞くのだけど、満くんの今の状況をどうお考えかな?」
グラッサは満の状況をどう思っているのか、母親に聞いているようだ。この質問に、満の母親はにっこりと笑っている。
「突然、娘ができたことに驚いていますよ。でも、娘は欲しかったので、私は受け入れていますよ」
「……それはまた、ずいぶんと変わったことをいうものね。あの姿の原因が吸血鬼という怪異だというのに、そんなに簡単に受け入れられるものかしら」
「可愛いの前にはすべて問題なしですよ」
母親は親指を立てて笑顔を見せている。この答えにはグラッサは面食らい、風斗と香織はおかしくて笑っていた。
「まったく、のんきなものだわ。満くんは実はかなり危険な状態にあるというのにね」
「あら、もしかして、吸血鬼の子にのまれちゃうとかそういうことですかね」
「……分かってらっしゃるので?」
満の母親の反応に、グラッサは驚きを隠しきれなかった。
「母親の勘というものは、時に鋭いものですよ。グラッサさんもよく分かってらっしゃることではないのですか?」
「……まあ、確かにそういうものかもしれないわね」
同じ母親として、満の母親の言葉には納得しかないグラッサだった。
「私は大丈夫だと思うんですよ。ええ、母親の勘がそう告げているんです」
「まったく、本当に変わった人だ。根拠のない自信というのは、時に人を傷つける刃になるというのに」
「そうですね。でも、あの子は大丈夫だと、私は確信していますよ」
グラッサの指摘にも、満の母親はまったく揺らぎがなかった。どこまでも自分の子どものことを信じているのである。
母親同士の会話には、風斗と香織はまったくついていかなかった。何を言っているのか分からないからだ。
「あいかわらず、おばさんの自信はすげえもんだな……」
「本当に。このお母さんだから、満くんはアバター配信者をしていられるんだろうなぁ……」
二人はただただ感心するばかりだった。
「おっと、そろそろ満が部屋に戻ってくるな。足音が聞こえてくるぜ」
ふと部屋の外から、階段を昇ってくる足音が聞こえてくる。足はタイツを穿いているとはいってもスリッパを履いているので、その音が聞こえてくるのだ。
「満が戻ってくるんで、その話はとりあえずそのくらいにしておきましょう」
「あら、そうなのね」
「確かにそうだな。本人に聞かせるようなないようでもあるまい。今日はせっかくのパーティーなのだから、楽しまなければね」
風斗が声をかければ、満の母親とグラッサはぴたりと話をやめていた。
話をしていたせいか、テーブルの上の料理はまったく手つかずである。注いだジュースもそのままだ。
いや、本日の主役の登場を待つために、わざと全員が手つかずで済ませていたのだ。
その主役は、間もなくこの部屋にやってくる。
扉が叩かれる。
「みなさん、お待たせしました」
「ああ、満。楽しみ過ぎて、待ってた気がしねえよ」
「今開けるわね、満」
満の母親が立ち上がり、扉を開ける。
扉が開くと、ケーキを持った満が部屋の中に入ってきた。
「お待ちかねの、クリスマスケーキですよ。今年のケーキは、僕の手作りです。みなさんの口に合うといいのですけれどね」
大きなデコレーションケーキを持って、満は照れ笑いをしながらテーブルへと近付いていく。
静かにテーブルの中央の空いたスペースにケーキが置かれると、満はどこに隠し持っていたのか、クラッカーを取り出していた。
「それでは、ささやかながら、クリスマスパーティーの始まりです!」
パーンというクラッカーの音とともに、空月家でのクリスマスパーティーが始まりを告げたのだった。




