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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊


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第379話 次から次へと起こるものだ

 文化祭の初日は午後に入り、かなり落ち着きを見せ始めていた。


「ふぅ、一時はどうなるかと思ったけれど、どうにか終われそうね」


 クラスのみんなもひと安心である。

 だが、そういう時に限ってトラブルというものは起きるものである。

 食材も尽きかけてきたことで、そろそろ営業を終えようとしていた頃だった。


「君、可愛いねぇ。どうだい、終わったら俺たちと遊ばないかい?」


 ナンパである。

 しかも、ナンパされているのは満である。

 クラスには十七人女子がいるが、その中でも満は目立って胸が大きい。銀髪も相まってかなり目立つのだ。それでいて美人。ナンパ野郎が見逃すわけがないのである。


「困りますね。ここは学校ですよ、ご主人様。ナンパでしたら、お帰り下さいませ」


 ところが、満はまったく動じていなかった。

 毅然とした態度で、ナンパ男に言い返している。


「まぁ、そんな固いことを言わずにさ。終われば暇なんだろう?」


「困りますね。暇じゃありませんから」


 満はどんな風に言われてもまったく怯む様子はない。強くなったものである。


「まったく、こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって!」


 ナンパ男が立ち上がって、満につかみかかろうとする。


「キャーッ!」


 女子たちの悲鳴が響き渡る。


「おっと、そこまでにしてもらいましょうかね」


「な、なんだぁ……?」


 振り上げた男の手は誰かにつかまれて、びくとも動かなかった。


「脅迫罪ですね。まったく、このような場所でそのような浅学な態度を見せるのはいかがと思いますよ」


「くそっ、離しやがれ!」


 がっちりつかまれた手はまったく動かない。どれだけ力が強いのだろうか。


「環さん」


「大丈夫ですか、ルナさん」


「はい、大丈夫です」


 そう、イリスのマネージャーである環だった。

 マネージャーであるので体力に自信があるのは分かっていたが、力も強いとは思ってもみなかった。これも、退治屋ゆえなのだろうか。


「なんか大きな声が聞こえたんだけど、みんな大丈夫?」


 ひょっこりとイリスが顔を出してくる。


「イリス、大丈夫ですよ。ちょっと育ちの悪い大きな子どもが無礼を働いていただけです。まったく、中学生相手にナンパとは、よほどもてないのでしょうね。情けなくて仕方ないですよ」


 環は手をつかんでいる男の相方をじっと睨みつけている。ヘビに睨まれたカエルのように、男は完全に縮こまってしまっている。


「さあ、警察に突き出されるか、私たちの胸三寸で済ませるか、お好きな方を選んでください」


 環に睨まれた男たちは、すごすごと教室から立ち去っていった。

 ようやく教室の中に平穏が訪れる。


「ふう、怖かったですよ……」


 満は胸に手を当てて、大きく息を吐いていた。

 どうやら、満は実のところ怖かったらしい。その割には、かなり堂々と断りの対応をしていた。これまで大舞台に何度も立ち続けてきたためか、肝がだいぶ据わってきているようだった。


「環さんもありがとうございました。おかげで助かりました」


「いえ、二か月前にお世話になったばかりですし、このくらいは当然ですよ」


 満が頭を下げれば、環は淡々とそのように返していた。

 しばらくすると、外から走ってくる音が聞こえてくる。


「大きな悲鳴が聞こえたが、みんな無事かーっ!」


 声のでかい男性教師が教室にやってきた。


「谷上先生、どうしたんですか?」


 突然現れた教師に、みんなびっくりである。


「どうしたもこうしたも、校内見回り中に悲鳴を聞いたから駆けつけたんだ。何があったんだ、さっさと教えるんだ」


 ずかずかと中に入ってきて、教室内にいる生徒や客たちから事情を聞きとり始める。


「なんだ、もう終わっていたのか」


 すべての聞き取りを終えて、谷上先生はほっとしたような表情を浮かべていた。

 話が終わると、谷上先生はイリスの方へと顔を向ける。


「おう、虹村じゃないか。なんだ、遊びに来ていたのか」


「お久しぶりです、谷上先生」


 イリスはぺこりと頭を下げて挨拶をする。どうやらイリスが在校中にも谷上先生は、この学校で教鞭をとっていたようだ。


「アイドルになったと聞いているが、どうだ、順調か?」


「はい。たまにしかありませんから忙しいわけではないですけれど、生活に困らないくらいには順調ですよ」


 谷上先生の質問に対して、イリスは笑顔で答えている。


「そうかそうか。おっ、そうだ」


 谷上先生は何かを思いついたらしく、イリスへと近付いていく。


「悪いが、虹村」


「はい、なんでしょうか」


「明日の文化祭の締めに、ミニコンサートでもしてくれないか? 目玉にできる」


「はい?」


 突然の話に、さすがのイリスも表情を歪ませる。


「環、大丈夫?」


「別に構いませんよ。どうせ年末まで何もイベントないじゃないですか」


「うぐっ……」


 マネージャーの環から言葉を返されて、イリスは思い切り言葉を詰まらせている。

 マイナーとはいえ、八月から十二月まで仕事がまったくないのもどうなのだろうか。話を聞いていた満は苦笑いである。


「分かりましたよ。ただし、条件をひとついいでしょうか」


「なんだ?」


「そこのルナさんも一緒に舞台に上がってもらう。それでいいなら引き受けますよ?」


「ええっ?!」


 突然に話に満は完全に混乱している。内またになりながら、周りを見回しているあたり、完全に女性の仕草だった。

 唐突に催されることになったイリスのミニコンサート。はたして、文化祭はどうなってしまうのだろうか。

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