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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊


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373/398

第373話 終わらない二周年

 やり切った満は、部屋の中でボーっとしていた。

 明日は日曜日でお休みだ。なので、こんなことが許されるのである。


「はぁ~、やり切った……」


 満はモーションキャプチャとヘッドセットを外して、椅子に座ってもたれかかっている。

 活動開始二周年だからというわけじゃない。他人の持ち歌を歌って踊ったために、ここまで疲れているのだ。


「お父さんの地元の夏祭りで神楽を舞ったり、イリスさんに誘われて夏祭りでライブを披露したり、今年はやけに踊ってばかりだなぁ……」


 満は顔に腕を乗せながら、天井を見上げている。

 たまたまとはいえど、本当に不思議な気分だった。

 自分にここまで才能があるのかと、満自身がびっくりしている。ただ、その才能が自分自身のものなのか、ルナ・フォルモントの影響によるものなのかは分からない。

 だけど、実際にやり切ってしまったのだから、満としてはちょっとした自信となっているようだった。


「ふぅ……。服、着替えようかな」


 みんなに見えるわけがないというのに、やけに気合いの入った服装になっていた満。配信が終わって我に返ったことで、その気合いの入ったふりふりの服から地味な部屋着に着替えていた。

 服を着替え終えたところで、部屋の扉が突然ノックされる。


「満、今入っても大丈夫?」


「ああ、お母さん。うん、配信はとっくに終わったから、入って大丈夫だよ」


 返事をすると、扉が開いて母親が入ってくる。


「あら、残念。服着替えちゃってたのか」


「なんだよ、お母さん。もしかして、僕の着飾った格好を見たかったわけ?」


「そりゃそうよ。息子の晴れ舞台なんでしょ? 見たくないという親がいるのかしらね」


「……女の子の格好なんだけど?」


「関係ないわよ」


 母親の言葉に、皮肉たっぷりに返す満。ところが、それに対して母親からは実にあっさりした言葉が返ってきた。母親は強かった。

 即答されてしまったことで、満は思わず固まってしまう。


「しょうがないなぁ……」


 満は一度着替えた服を、もう一度着始める。母親が見たいと言っているので、恥ずかしいながらも叶えてあげようというわけなのだ。


「ああ、満が自分から着替えてみせてくれているわ。こんな嬉しいことってあるかしら」


 なぜか過剰に感動している母親である。

 ふりふりのノースリーブワンピースにサイハイストッキングという可愛い系の服装に身を包んだ満は、とても可愛らしいものだった。


「しゃ、写真。写真に撮らなくっちゃ」


 あまりの可愛さに、母親が取り乱している。


「僕のスマホでよかったら、それで撮るといいよ。あとでメールか何かで送るし」


「そ、そうね。ああ、可愛すぎて手が震えるわ」


「お母さん、大げさ……」


 あまりにも動揺を見せている母親の姿に、満は大きなため息をついている。

 だが、満がこれだけ母親の要望に素直に応じているあたり、かなり珍しいことだ。最初の頃は着せ替え人形にされることをかなり嫌っていたのだから。

 母親は震える手で満の可愛い姿を撮りまくっている。


「お母さん、少しは落ち着いて。僕は動かないんだから。そんなに震えてちゃ、いくら補正があるからといっても手振れでろくな写真にならないよ」


「ああ、そうね。で、でも、興奮しちゃうわ」


「お母さんってば……」


 あまりに見ていられない姿に、満から漏れ出る言葉もワンパターンになってしまっていた。

 どうにかこうにか撮影を終えて、満が写真をチェックする。問題ないと確認すると、母親に話しかけている。


「これから送ってもいいんだけど、僕の方もちょっと落ち着かないんで、明日でもいいかな」


「いいわよ。いつまでも待つわ」


「分かった。明日起きたら送信しておくね」


「約束よ」


 母親は写真を送ってもらう約束をすると、ばたばたと満の部屋から出ていった。


「お母さん、どれだけ女の子の子どもが欲しかったんだろう……」


 思わず呆れてしまう満なのであった。

 ひとまず母親をやり過ごした満は、再び服を着替える。

 パソコンに目を向けると、なにやら新着メッセージが見えたので、満は確認してみることにする。

 どうやら世貴からのメッセージのようだった。


『やあ、満くん。二周年おめでとう

 今日のルナちはいつもよりかなり輝いていたね

 俺の目がまばゆさで焼かれてしまうかと思ったよ

 これからもアバ信の活動、頑張ってくれ。応援している


 P.S.今日のアーカイブを楽しみにしているよ


 波川世貴』


「もう、世貴兄さんってば」


 相変わらずの世貴の反応に、満は思わず笑ってしまっていた。

 さすがに自分がモデリングしたキャラが喋って動くのだから、はしゃぐ気持ちは分からなくはない。

 それだけならまだしも、小さい頃から可愛がっていた人物が中の人を担当しているのだから、知っている身としては興奮せざるを得ないだろう。

 世貴はまだ弁えているので、このような笑い話で済むのである。

 とはいえ、配信は毎回見ているようだし、時折スパチャは投げてくるし、さらには衣装や小道具もたくさん作りまわっている。嬉しい反面、心配になってしまう満なのである。


 世貴のメッセージを確認した満は、今回の配信をアーカイブ化して、自分のチャンネルにアップする。


「ふわぁ……。さすがに緊張してたせいか、いつも以上に眠いな」


 大きなあくびをした満は、パソコンの電源を切る。

 眠気が激しく襲い掛かってくる状況ながら布団を敷くと、そのまま眠ってしまったようだった。

 まったく、お疲れ様である。

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