第371話 大きなイベントに向けて
活動二周年のことを悩んでいる満に、追い打ちをかけるような事態が発生する。
「えっ、文化祭?」
「おう、文化祭だ」
敬老の日の週、二周年記念の配信の内容を決めなければならない満の耳に、文化祭という言葉が耳に飛び込んできた。
満たちの通う中学校では、十月下旬の日曜日に文化祭が行われている。今までまったく話題に上がってこなかったのが不思議なくらいだ。
そのことで、満は風斗と香織の二人と一緒にいつものところで話をしている。
「今までは無難に過ごそうとしてたからな。だが、中学生最後の文化祭だからって、みんなやけに気合いを入れているみたいなんだよ」
「それで、こっちのクラスは何をするつもりなの?」
「喫茶店。しかも、メイド喫茶だ」
「また、ずいぶんとこじらせたものをやるつもりだね」
満はどこか他人事である。
「おいおい、満。今年は参加してもらうぞ。お前、去年は男と女どっちになるか分からないからって、逃げてただろ」
「そりゃそうだよ、僕でコントロールがほぼできないんだから。前みたいに血を吸うわけにもいかないよ。僕は吸血鬼になりたいわけじゃないんだからね」
「……まあそうだな」
満の言い分に、風斗は納得しているようだった。
「でも、当日、満くんがどっちの性別かっていうのは、すっごく重要なことだよ。男の子なら私のクラス、女の子なら村雲くんのクラスなんだからね」
「あっ、そうか……。僕、クラス違ってたんだった」
「そうよ、満。何を忘れてるんだ」
「ちゃんと男の子の時は私のクラスに来てるのに、意外とおっちょこちょいよね、満くんって」
満はなぜか驚いたような顔をしている。ちゃんと男女別に自分のクラスに出向いているのに、なぜこんな反応になるのだろうか。香織がこんな反応になるのも仕方のないことである。
「今年は参加してもらうからな。女子たちがものすごく気合い入ってるし、クラス中がお前の銀髪メイドを見たがっているんだ」
「なんでそうなるんだよ。僕は見世物じゃないぞ」
「アバ信やってそれを言う?」
「アバ信はアバ信だから、別の話でしょ」
「そのアバ信とリアルの姿が一緒だから、まったく説得力がねえんだよな……」
どこまでも否定しようとする満だが、風斗のひと言のせいで完全に論破されてしまっている。そう、光月ルナとルナ・フォルモントの姿が偶然にもほぼ同じなのだ。これを指摘されてしまっては、満はこれ以上の反論ができなくなっていた。
「むうう……。だったらいいよ。メイド喫茶が通ったら、メイドの格好だってしてあげるから」
「よし、約束だぞ、満」
結局、風斗と指切りまでして約束することになってしまった。
これで満は後戻りはできない。クラスの出し物がメイド喫茶に決まれば、風斗のクラスでメイドとして参加することが決定事項となったのだから。
「クラスのやつらも喜ぶぜ。特に、メイド服を作りたがっている女子たちがな」
「そっち?!」
風斗から聞かされた満は、驚きの声を上げてしまう。
「ああ。お前ってば胸がでかいとはいえ、スタイルがいいだろ。それを採寸して衣装を作れるわけだからな。花宮も、そういうの分かるんじゃないのか?」
「えっ、そこで私に振るの?」
風斗から同意を求められて、香織はびっくりしてしまっている。
「うん、まあ。女子たちの気持ちは分かるわよ。きれいな女性にはみんな憧れるものだからね」
「そ、そういうものなんだ……」
「そう、そのくらい女の子の満くんは魅力的なの。少しは自覚してね?」
「う~ん、分からないなぁ……」
香織に言われても、いまいちパッと来ない満である。
腕まで組んで悩み出す満の姿に、風斗と香織は大きなため息をついていた。
このままじゃ話にならないので、風斗は話題を変えることにする。
「それで、二周年記念の配信の内容は決まったのか?」
「う~ん、それがなんともね」
「二周年かぁ。もうそんなに経つのね」
「ああ、それで、何かいつもと違ったことをした方がいいんじゃないかって話をしてたんだ」
「何をするの?」
風斗との話の中で、香織がいきなり目を輝かせ始める。思ってもみなかった状況に、満はものすごく戸惑っている。
「うん、何か歌でも歌おうかなと思ってるんだよね。もう今週なんだけど、まだ決まらなくてね」
満は唸っている。
「だったら、ぴょこまいのを歌って。ね?」
「お、おい、花宮」
決まってないという満に対して、香織がぐいぐい来ている。
もちろん、このぴょこまいというのは、自分が演じるアバター配信者黄花マイカと相棒の鈴峰ぴょこらによるユニットの名前だ。
香織はちょうどいいと言わんばかりに、満に自分たちの歌を歌って欲しいとせがんできたのである。
風斗が止めるのは、そのことを知っているからである。
「ぴょこまいかぁ……。うん、それいいかもしれない。僕、やってみるよ」
「本当っ?!」
満が前向きに検討し始めたので、香織はものすごく笑顔になっている。してやったりという笑顔だった。
その様子を見ていた風斗は、もうどうにでもなれという感じで顔を手で押さえていた。
そんなわけで、この日はふたつのイベントの内容が決まったのであった。
はたして、無事にやり遂げることができるのだろうか。それ、お楽しみなのである。




