第368話 夏の終わりの大騒ぎ
郊外都市ということもあり、今年もお祭りにはそれなりに人が集まっている。
その中を満たち四人はあちこちと歩いている。
「いやぁ、こういうお祭りもたまには来てみるものだね、にしししし」
「小麦さん……。普段からその笑いなんですね。前から気になってましたけど」
「ん~、本当はキャラ付けでやってたんだけど、いつの間にか癖になってたかな」
「もう、リアルとアバターの差がなくなってきてるよ、小麦さん」
「にしししし」
満に呆れられたように言われる小麦だが、どういうわけか笑ってごまかすばかりである。
「めちゃくちゃ特徴的な笑い声だよな」
「だよね。風斗もそう思うでしょ」
風斗がツッコミを入れると、満が思わず反応してしまう。
「この笑い方をするアバ信って……」
風斗が考え始めると、何かを見つけたのか、小麦が大きな声で叫んでいる。
「あっ、配管工レーシングの遊戯スペースがあるよ。ちょっとやってこうか、満くん」
「ちょっと、小麦さん?!」
満の腕を引っ張って小麦が走り出す。
「おい、ちょっと何やってるんだよ」
「いきなり走らないでよ」
急なことだったので、風斗と香織の二人は慌てて走って追いかけていく。
たどり着いた場所には、去年と同じく配管工レーシングを遊べるコーナーが設置してあった。
それを見つけた満は、ついくすりと笑ってしまう。
「小麦さん、僕と勝負するつもりなんですか?」
「いやぁ、満くんに敵うとは思ってないよ。でも、お外でこういうのも、たまには悪くないでしょ?」
「まったく、小麦さんってば」
小麦がはにかみながら話すと、満はちょっと困ったように笑っていた。
追いついた風斗と香織の見ている前で、小麦と満が配管工レーシングの真剣勝負を始めていた。
満が選んだのは、得意のハッカンだ。小麦は意外にもゴーリーを選んでいた。
「うおおおっ、力こそパワー!」
「まったく、何を言ってるんですか、小麦さんは」
カウントダウンが始まると同時に言い放たれた小麦の言葉に、満は思いっきり笑ってしまう。
そのせいで、満はスタートダッシュに失敗する。
「お先に~っ!」
「あっ、小麦さんってば何をしてるんですか!」
華麗にスタートダッシュを決めて、小麦は飛び出していってしまう。
だが、コースはシンプルな虹色の道ラークルートだ。
このコースとハッカンアイランドは、満にとって庭のようなもの。仕掛けられて遅れたとはいえ、満は負ける気などなかった。
「うわぁー、一周ですごい差がついてる」
「これは白い毛のお姉ちゃん、負けちゃうんじゃないの?」
後ろには子どもたちがわらわらと集まっている。
「大丈夫だ。このお姉ちゃんはとっても上手なんだ。ここから逆転あるぞ」
「嘘だぁ。ハッカンでゴーリーに追いつけるわけないんだ」
「まあ、見てなって」
一周が過ぎて、二周目の最初の方にある内側に凹んだコーナーに差し掛かった時だった。
「えいっ!」
満はコーナーとは逆方向にハンドルを切る。
「出るぞ、伝説のショートカット!」
見物していた子どもの一人が叫ぶ。
勢いよくコースの外に吹き飛んだハッカンだったが、なんと向こう正面のストレートコースに見事に着地を決めていた。
年末からほとんど遊んでいなかった配管工レーシングだが、満の腕前はまだまだ健在だったのだ。
「よっしゃ、さすがはルナ様だな。世界大会見てましたよ」
「へへへっ、ありがとう」
レースに集中しながらも、一応お礼を言う満である。律儀すぎる。
「うっそでしょ?! 満くん、なんてことしてくれてるのよ」
「だから、いったじゃないですか。勝負するつもりなんですかって」
「そんなの知らないわよ!」
小麦が騒ぐも、時すでに遅し。結果、三周目もショートカットを決められ、他の参加者がいる中でも満の圧勝で終わったのだった。
「ぐぬぬぬ、もう一回!」
「やめましょうよ、小麦さん。さすがにおとなげないですよ」
「だってぇ……」
満がやめさせようとするが、小麦は食い下がろうとしている。
「いや、そろそろイリスさんの参加するイベントの時間だから、見に行った方がいいんじゃないかな」
「あっ、舞お姉ちゃんか。忘れてた」
「小麦さん、それはあまりにも酷いですって」
風斗から言われた小麦の反応に、満はついツッコミを入れざるを得なかった。
もう一回と渋る小麦だったが、満たちはどうにか説得をしてその場を離れていく。ちなみに空いた席には、すぐに次の子どもが座っていた。
まったく、大学生にもなったというのにどこか子どもっぽいところがある小麦だ。それだからこそ、真家レニみたいなキャラができるんだなと、満は改めて納得している。
そんなこんなで暑い日にもかかわらず、朝から夕方まではしゃぎまわった満たち。
帰る前にはイリスに挨拶をするが、そのまま一緒に夕食をごちそうになることになってしまった。
その後、家にイリスを招こうとだだをこねる小麦だったが、宿を取ってしまっているから断られていた。本気で落ち込む小麦だったが、翌日は車に乗せて送ってあげるからといわれて、すぐに機嫌をよくしていた。
小麦はイリスのことを相当慕っているらしい。
なんとも騒がしい一日だったものの、楽しいうちに中学三年生の夏休みが終わろうとしているのだった。




