第361話 クッキーと小麦と
芝山家に戻ってきた満は、よりも寄ってそのままお昼まで食べさせてもらうことになってしまった。
「ふふっ、ドーターのボーイフレンドと一緒の食事というのも、悪くはないわね」
「ぶふーっ!」
グラッサがいきなり爆弾発言を飛ばすものだから、満と小麦が同時に吹き出していた。ちょうど口の中が空っぽだったのは救いである。
「ま、ママッ! 急に何を言い出すのよ。満くんは、その、あの、そんなんじゃないからね? アバ信友だちだよ!」
ゴホゴホとむせ返る満とは対照的に、小麦はグラッサに言い返している。
「わわっ、満くん大丈夫?」
小麦は水を汲んできて満に手渡している。
「あ、ありがとう、小麦さん」
水を飲んで落ち着いた満は、小麦にお礼を言っている。
その満と小麦の様子を、父親とグラッサは微笑ましそうに見ている。
「やっぱり、お似合いな気がするよな」
「ええ。年齢差はあるけれど、私たちもそうだものね、ダーリン」
「だな」
「えっ!? パパとママも年の差あったの?」
二人の話を聞いていた小麦がものすごく驚いている。娘であるというのに知らなかったらしい。なんとも意外な話だった。
「そうだぞ。これでもグラッサの方が六つも若いんだからな」
「うふふふ。出会いは偶然だったけれどね」
「ふえ~……。知らなかったよ、そんなこと」
もったいぶっているようではあるが、知らなかったというだけで、小麦は詳しい話を聞こうとはしなかった。正直どうでもいいと思ったようである。
「そっかぁ。私も満くんのことは諦めなくていいんだ」
「えっと、小麦さん?!」
小麦のひとりごとに、満が驚き戸惑っている。
花見の時の頬にキスといい、テーマパークでの告白といい、満にとってはびっくりなことがたくさんあった。それらが頭によぎったために、満はこれほど慌てているというわけである。
「満くんは接していて楽しい相手だもん。大学に入って勉強やバイトもしてるけど、ついつい思い出しちゃうんだよね。弟みたいって言ったら怒られるかもしれないけれど、放っておけないし、気になっちゃう相手なんだよね」
「小麦さん……」
「でも、満くんの気持ちを優先するよ。一度自分から身を引いたんだもの。今さら強引に迫っても、なんか情けないじゃない」
小麦はにっこりと笑っている。
どうやら、すっかりと気持ちを切り替えているようだった。
小麦の本心を目の前で見せられて、父親はちょっとむず痒いのか、ごほごほと咳払いをしていた。
「よ~し、小難しいことは後回しにして、クッキーを作ろう。せっかく材料を買ってきたんだしね」
「うん、そうだね」
満たちは約束をすると、さくさくと食事を済ませてしまう。
父親とグラッサはそれぞれ部屋に移動して、机に向かって仕事を始める。
台所に残った満と小麦は、早速クッキーを作る支度に入る。
「満くん、どんなクッキーにするの?」
「もうどれを作ったらいいのか分からないから、作れるものを全部って感じですかね」
「ああ、それでこんなにたくさん材料を買ってきたのね」
台所に並べられたクッキーの材料を見つめる小麦。かなり種類があるのは結局決められなかったからということのようだ。
「無糖チョコレートにバニラエッセンス、薄力粉に砂糖、紅茶……。何を作るつもりなのかなって思うよね、これ」
「幼馴染みの香織ちゃんが話していたのをちょっと参考にしてみたんですよね」
「ああ、ちょっとおとなしい感じのあの子かぁ。なるほど、親しげなのは幼馴染みだからか」
小麦がぶつぶつと何かを言い始める。
「小麦さん?」
「いやぁ、ライバルとして強力だなぁって思ってね」
「ちょっと、何の話ですか?!」
小麦の言葉に、満はものすごく驚いている。
満の反応を見て、小麦もびっくりしている。
(満くん、鈍いにもほどがあると思うんだけどなぁ……)
さすがに小麦は呆れてしまう。
とはいえ、これが満のすごいところでもある。小さく微笑むと、小麦は早速クッキー作りに取り掛かる。
「よーし、ママに私の手作りクッキーを食べてもらわなきゃね。頑張りましょう、満くん」
「う、うん」
夏服を着ているのでまくるような袖はないというのに、腕まくりをするような仕草をして小麦が早速作業に取り掛かる。
少しぼーっとしていた満も、遅れて作業に取り掛かる。
「満くん、クッキーの作りかがは分かってるの?」
「一応調べてくることはしたよ。小麦粉と卵を混ぜるんだよね」
「そうだけど、正確には卵黄だけだよ。卵白も卵白で使い道があるから、捨てないでね」
「うん、了解」
満は一応調べてきたようだが、こういうことには慣れている小麦の指示に従う格好で、クッキー作りを進めていった。
全部で二時間くらいかけて、いろんなクッキーを作り上げていた。
「うん、いい感じだね」
「チョコレートの時も思ったけど、お菓子作りって大変だ……」
小麦はやり切った顔をしているが、満はものすごく疲れているようである。この辺りは経験の差だろう。
写真映えをするように飾り付けていくと、二人はそろってスマートフォンのカメラでできたてのクッキーを撮影していた。
「にししし、これはいい記念になりそうだな」
「まったく、小麦さんってば……」
満足げに笑う小麦に、満は困惑しているようだった。
クッキー作りを終えてエプロンを外した二人は、できたてのクッキーを食べながら、ゆっくりと談笑しながら休憩をしたのだった。




