第360話 クッキーを作るために
朝食を終えてから少しのんびりとしていた満は、いよいよ芝山家に突撃していた。
道路に面した門の前ですーはーすーはーと呼吸を整えている。
「どうしたの、満くん」
「うわぁっ!?」
いざ呼び鈴を鳴らそうとした満だったが、家の中から小麦が飛び出してきて声をかけてきた。緊張していたがために、満はものすごい声で驚いていた。
「あ……。そんなにびっくりしちゃうんだ」
「こ、小麦さん、驚かせないで下さいよ……。すごく心臓に悪いってば」
「ごめんごめん。その様子だと満くんが来てくれたのね。とりあえず上がって上がって」
「う、うん。お邪魔します」
玄関から出てきた小麦に腕を引っ張られ、恥ずかしそうにしながら満は芝山家の中へと入っていった。
家の中に入ると、居間へと通される。
そこには小麦の父親と母親、両方が揃って話をしているところだった。
「やあ、満くん。どうしたんだい、今日は」
「ハーイ、ボーイ」
「あ、こんにちは」
二人からの挨拶に、満はすごすごと縮こまりながら挨拶をしていた。
「満くん、今日はどうしたのよ。もうしばらく私たちはこっちにいるけど、わざわざ訪ねてくるなんて驚いたわ」
「あ、うん。ちょっとこれを見てもらいたくて」
「うん、どれどれ?」
満が自分のスマートフォンを小麦たちに見せている。
「SNSで見せてもらいたいお菓子のアンケートか。満くんって、料理は得意なのかい?」
「一応、お母さんの手伝いをしていますし、バレンタインのチョコレートを自分で作ったこともありますけど、得意かどうかといわれるとちょっと怪しいですかね」
「てひひ、満くんのチョコはおいしかったよ」
「小麦、いつもらったんだ」
「満くんが答えを言ってるじゃないの。ちゃんと聞いてよね、パパ」
父親の質問を聞いて、小麦はものすごく呆れていた。
「それで、そのアンケートがこのまま進むのなら、クッキーで間違いないっていうことかしら」
「はい。それでどんなクッキーがいいかと思って意見を聞こうと思いましてね」
グラッサが確認をしてくるので、満は正直に答えていた。
「おいおい、小麦粉を使ったお菓子だからって、小麦に聞きに来たのかい?」
「パパ、面白くないから黙って」
「……はい」
小麦からジト目で一刀両断にされて、父親はしゅんと黙り込んでしまった。
うん、親父ギャグにはなんとも厳しい世界だ。
ただ、グラッサはちょっと笑いそうになっていたので、親子とはいえど笑いのツボはちょっと違うらしい。
「よーし、そういうことならレニちゃんが一肌脱いであげるぞっと」
「おい、小麦。アバ信の振る舞いになってるぞ」
「てへっ☆」
父親から指摘されて、舌を出しながらこつんと自分の頭を拳で叩く小麦である。こういうところを見ると、確かに真家レニそのものである。
突然に小麦の行動に、満は喜んだ表情を浮かべるが、グラッサは慣れてないせいか頭を抱えているようだった。
「よし、ならクッキーの材料を買い出しに行こうじゃないか。私も作ってみたくなったし、写真を撮っておいて、夜になったら一緒にSNSにアップしよ?」
「うん、そうしようっかな」
にこやかに話す小麦の姿に、なぜか照れくさそうにしている満である。
「ふぅん、ドーターがボーイフレンドにって考えてたのも頷けるわね。どことなくだけど、人を惹きつける魅力があるわ。もちろん、ルナ・フォルモントを抜きにしても」
「ちょっと、ママ!」
あまり掘り返されたくないのか、小麦はポカポカとグラッサを叩いている。
一方の満は、顔を真っ赤にしながら視線を逸らしていた。どうやら今の話を聞いて自覚してしまったのだろうか。
「まったく、そういうところはまだまだ子どもね」
グラッサは立ち上がると、車のカギを手に取っている。
「出かけるのなら、私がついていくわよ」
「えっと、免許は?」
「国際免許なら持っているわよ。ジャパンでも気兼ねなく運転できるわよ」
「そうなんですね。さすが小麦さんのお母さんです」
満はぐっと拳を握って、グラッサのことをじっと見ている。その目はキラキラと輝いているように見える。
なんといってもいわゆる典型的なキャリアウーマンという姿だからだろうか、満からはカッコよく見えているようだった。
「ダーリン、ドーターとボーイと一緒に出掛けてくるわ。留守番をよろしく頼むわね」
「ああ、任せておいてくれ。どのみち在宅勤務中だから、出かけられんしな」
「相変わらずフリーじゃないのね」
「お堅い企業だからな、しょうがない」
出かけられないことを、小麦の父親は残念がっているようだった。
小麦の父親を一人残し、満はグラッサの運転する車に乗って、小麦と一緒にクッキーの材料の買い出しへと向かう。
結局どんなクッキーを作るのか決めていなかったのだが、小麦がいろんなのを作ろうと言ってきたので、満はそれに乗っかることにした。
SNSにアップするとは言っていたものの、二人はどんなクッキーを作るというのだろうか。
三人は近くのスーパーマーケットへとやって来たのだった。




