第359話 悩める満
約束をしてしまったので、満は律儀にお菓子を作ることにしたようだ。
ちょうどお盆ということもあるので、お団子か饅頭がいいかなと必死に悩んでいる。
「ん~、どんなお菓子を作ろうかな」
どんなに悩んでも結論が出ない。
しょうがないので、満は光月ルナのSNSに、どんなお菓子が見たいのかアンケートを出してみることにした。
「え~っと、『僕のお菓子作りの腕が見てみたいらしいですけれど、どのようなものよいかしら。本日から三日間、みなさまに募りますわ』っと」
満はぽちっとポストする。
ふうっとため息をついた瞬間、スマートフォンがぶるぶると震え出す。
「わわっ、なんだよ、これ……」
ポストした瞬間、またたく間にリポストやいいねが増えていく。まったくとんでもない拡散力である。
同時にリプライもすごい量がやってくる。
「ちょ、ちょっと待ってよ。いくらなんでも早すぎるってば!」
慌てた満は、設定から通知をオフに切り替えていた。これではいくら電池があっても足りやしないというものだ。それと、振動が地味にうるさいのだからしょうがない。
無事に通知をオフにした満は、ほっとひと安心である。
(このペースじゃ、明日の朝までにはとんでもない数のリプライがありそう……。とりあえず今日はもう遅いから、寝るとしようかな)
配信を終えたあとということもあって、真夏とはいえど外は真っ暗だ。
満は背伸びとあくびをすると、布団を敷いてもう寝ることにしたのだった。
ちなみに時間はまだ午後11時。相変わらず日付が変わる前に寝てしまう、健康的な生活であった。
翌朝、満は朝5時に目を覚ましていた。
「ふわぁ~、よく寝た」
あくびをしながら伸びをしていると、ぷるんとした感触を受ける。
「えっ、昨日の今日でまた?!」
なんともまあ、風斗のおかげで戻っていたからだが、再び女性になっていた。
まったくどうしてなのだろうか。満は頭を抱えていた。
「なんでなんだよう……。これじゃ、風斗にどう言い訳したらいいのか分からないや」
女性化していたことはショックだったが、嘆いていても仕方がないので満は布団から起き抜ける。
顔を洗って歯を磨いた満は、仕方なく女性用の服に身を包む。
露出は控えようということで、あんまり胸元の目立たない服装にしておいた。
「はあ……。なっちゃったものは仕方ないや。とりあえず昨日の反応を確認しておこうかな」
諦めた満は、昨日の作って欲しいお菓子のアンケートを確認することにした。
リポストが数万単位に膨れ上がっていて、リプライもなんだか五千くらいある。一晩でこれだと、さすがに満もぞっとしてしまう。
いくらなんでも反応が良すぎである。
満は表情を引きつらせながら、リプライをじっと確認していく。
ざっと見た感じは、クッキーかケーキという感じだった。やっぱりお菓子といえば洋菓子を思い浮かべてしまうようだ。
もちろん、和菓子派だって存在している。多いのはお団子で、中には串団子とまで書いてあるものもあった。
それにしても、五千を超えるリプライをさらさらと流し読みしていてちゃんと読めているのだろうか。
「う~ん。やっぱりクッキーですか」
まとめ終わった結果、全体の1割ちょっとが指示しているクッキーということになりそうだった。
とはいえ、クッキーとひと言にいっても種類がたくさんある。
満はまだまだ悩むことになりそうだ。
しかし、アンケートはここで終わりではない。
すっかり外が明るくなってしまっているので、吸血鬼設定である光月ルナでは活動ができないのだ。
やむなく、もっと膨れ上がる覚悟で夜まで放置することになったのだった。
「香織ちゃん……にしようかと思ったけど、今日は小麦さんと話をすることにしようかな」
まだ滞在中であるなら、小麦やグラッサに会っておこうと満は考えたようだ。
小麦は大学進学で遠く離れてしまったし、グラッサにいたっては普段は海外だ。どちらも簡単に話ができる相手ではない。
今日のお出かけ先を決めた満は、再び一階に降りて母親の朝食の準備を手伝うことにした。
「あら、今日も可愛い姿ね、満」
「お母さん、本当にやめて。僕は男の子なんだからね」
「ふふふっ、説得力がないわね。その胸の大きさで男の子は無理よ」
「ぐ、ぬぬぬぬ……」
まっとうな指摘に、満は反論ができなかった。
大きなため息をつくと、母親の料理を手伝い始める。
満は黙々と手伝いをしているのだが、母親はとても機嫌よさそうに鼻歌まで歌っている。
「お母さん、なんで鼻歌なんて歌っているんだよ」
「だって、娘と一緒に食事を作るのが夢だったからね」
「僕は息子なんだけど」
「ふふっ。まっ、満ならどっちでもいいかしらね。満以外は結局子どもが生まれなかったけれど、こうして自分の子と一緒に何かできるというのは、母親としてはとても嬉しいわ」
母親が柔らかい笑顔でこんなことを言うものだから、満は何も言い返せなかった。
「もう、お母さん。それは反則だよ」
照れくさそうにしながら、満は食材に包丁を入れていた。
「おっ、朝から二人で作業してるのか。くそっ、私も混ざりたかったな」
ちょっと遅れて父親が台所に姿を見せる。
「ふふっ、あなたはそこで座って新聞でも読んでてちょうだい。今日でお休み終わりなんでしょう?」
「ああ、そうだな。明日からまた仕事だよ、やれやれ」
何気ない家族の会話ではあるけれど、そのおかげかちょっと荒れかかっていた満の心が落ち着きを取り戻したようだった。




