第354話 無意識の侵食
ピンポーン!
玄関の呼び鈴が鳴る。
「はぁい、どちら様ですか?」
少し眠いのか、あくびが混ざった感じで満がインターフォンに出る。
ところが、次の瞬間、しゃきっと目が覚めてしまう。
「ぐ、グラッサさん?! それに小麦さんも」
そう、グラッサが家にわざわざやって来たのだ。
一体どういう用件なのだろうか。そう思いながらも満は二人を家に上げる。
「どうぞ、麦茶です」
「ええ、ありがとう」
こういう日に限って両親が出かけてしまっている。満は一人で留守番をしているのだ。
しょうがないので、冷蔵庫に入れてあった麦茶を出しておもてなしをしている。
「満くん、ご両親は?」
「町内会の行事らしくて、そろって出かけてます。何もお盆にやらなくてもいいと思うんですけれど」
「そうなんだ。パパもそういえばそんなことを言ってたわね」
「ええ。ダーリンも町内会があると言って出かけていったわ。ジャパンってそんなことがあるのね」
どうやら、小麦の父親も同じ用事で出かけているらしい。だから、小麦とグラッサの二人で来たらしい。
「でも、ちょうどよかったわ。満くん、一人だけの方が好都合ですもの」
「えっ、それはどういうことですか?」
正面に座った満は、グラッサの顔をじっと見ている。
見つめられているグラッサは、隣に座る小麦と一度目を合わせると、満に話を始める。
「満くん、あなたはどうも、ルナ・フォルモントの力を無意識に使っているようだわ」
「えっ?」
グラッサの指摘に、満は驚いてしまう。だけど、一体どういうことなのかが分からない。思わずぐいっと前のめりになってしまう。
「どういうことなのか、教えてもらえますか?」
「そうね。どこから説明すればいいかしらね」
いざ説明に入ろうとするものの、グラッサは困ってしまう。
「ママ、最初から順を追った方がいいと思うよ」
「……それもそうね」
小麦がグラッサの腕を叩きながら訴えると、グラッサはそれを受け入れたようだ。
そんなわけで、ルナ・フォルモントという人物の紹介から入ることにした。
「ルナ・フォルモントは、元々ヨーロッパで猛威を振るっていたヴァンパイアだった。私も、あちらの生まれということで知らず知らずに被害を受けていたらしい。私自身は被害はなかったが、親戚が被害を受けてな。それが私が退治屋となるきっかけだったな」
ルナ・フォルモントの話になるかと思いきや、グラッサの身の上話が始まった。
具体的にいえば、親戚の不審死に関わっていたという話だった。それを聞いた小麦と実は、驚きを隠せずにいた。
「おいおい、妾は人など殺してはおらぬぞ」
そうかと思えば、満の口からいきなりそんな言葉が出てくる。
「ちょっと、ルナさん?!」
「あ……。一瞬、意識が飛んでたみたい」
衝撃的なことに、ルナが思わず口を出してしまったらしい。すぐに満は意識を取り戻したようだ。
「驚いたわね。一瞬でも意識を乗っ取れるのね」
「なじんでいるってことかしらね」
「かも知れないわ」
「わわっ、一体どういうことなの?!」
小麦とグラッサの話が分からない満は、一体どういうことなのかと慌てているようだった。
「話を続けるわよ」
グラッサは混乱する満に強く告げる。話を聞きたいと思っている満は、ぴたりと落ち着きを取り戻してグラッサの顔をじっと見ている。
「私がルナ・フォルモントを封じたのはもうかなり前になるわね。真祖の吸血鬼を倒すだけのすべは持っていなかったので、表に出てこれないようする必要があったの。そこで、部屋の中に転がっていたパソコンに、ルナ・フォルモントを封じたのよ」
「そんなことがあって、ルナさんはインターネットの世界にいたのですか」
「まあ、封印できるとは思っていなかったけれどね。とはいえ、世界からルナ・フォルモントの脅威を排除できたと仲間内では褒め称えられたものだわ」
「そうだったんですね」
満はなんだかよく分からないけれど、すごいなという顔で話を聞いていた。
ところが、グラッサの表情は厳しいままだった。
「ところが、その封印は破られた。反省したのかルナ・フォルモントの脅威は無くなっていたけれど、昨日の配信を見て別の脅威を感じたわ」
「えっ、それってどういうことなんですか?」
満は驚きつつも、グラッサに内容を確認しようと再び前のめりになる。
興奮気味の満を、グラッサはどうにか落ち着かせる。
「実はね。昨日の配信を見ていて、今日なオーラの乱れを感じたのよ。それから察するに、吸血鬼の中でも真祖だけが持つ特殊な力を、満くんが使っているのではないかと推測されるわ」
「それって、どんな力なんですか」
「私はママの娘だから効きにくいんだけど、普通の人間なら、まず抵抗できないでしょうね」
「それって?」
急に小麦が口を挟むので、満の顔はそちらへと向いてしまう。
(すまん、満。ここからは妾が出るぞ)
「うっ……!」
急にルナ・フォルモントの声が頭の中に響いたかと思うと、満が苦しみ出す。
「満くん!」
思わず小麦が駆け寄ろうとするが、グラッサはその肩をつかんで止めている。心配そうにする小麦に、グラッサは首を横に振っている。
「……なるほどのう。妾が使う気のなかった能力が、満を通じて漏れ出しておるということか。のう、グラッサ」
満の口調が変わっていた。
「ええ、そういうことよ、ルナ・フォルモント」
そう、目の前にいるのは満の体を一時的の乗っ取ったルナ・フォルモントだったのだ。




