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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊


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343/354

第343話 真夏の気分転換

 週末の日曜日、香織が家にやってきた。

 事前にやってくるという連絡があったので、満はすぐさま出迎える。


「香織ちゃん、わざわざ家までどうしたの」


「うん、やっぱり今日は女の子だったわね。これからプールに行こう?」


「え?」


 香織から告げられた言葉に、満は思い切り固まっている。

 反応に困る満の目の前で、香織はにこにこと笑っている。

 確かに、香織は水着を買いに行った時にプールに行きたがっているような様子を見せていた。だが、それは本気ではないと満は思っていたみたいだ。

 困惑する満だったが、諦めて香織にちょっと待ってもらう。

 今年買った水着を引っ張り出して準備を終えると、玄関に戻ってくる。


「お待たせ、行こっか」


「うん、今日は二人きりでデートだよ」


「で、デート?!」


 普段はとにかく鈍い満ではあるが、さすがにこんな単語を堂々と言い放たれては戸惑うしかなかった。

 とはいえ、出掛けると約束してしまった以上は、満は香織に引っ張られて出かけることになった。


 やって来たのは、去年同様の市民プール。さすがに日曜ともなれば人が多いものの、夏の暑さのせいかそれほどといった感じである。

 入場料を払い、まずは更衣室に向かう二人。

 女子での生活が長くなっているとはいえ、女子更衣室の中では目のやり場に困るというもの。満はこそこそと水着に着替えていた。

 プールサイドにやってきた満と香織は、ざっと周りの様子を見渡している。


「やっぱり多いわよね」


「夏休みだからね」


 夏休みの日曜日ということもあって、見渡す限りの親子連れやカップルたちの姿である。わいわいとした雰囲気の中、満はなんとも恥ずかしそうである。


「満くん、私たちも適当に泳ごっか」


「あ、うん、そうだね。プールに来て泳がないのもなんだか変だしね」


「そうそう。さっ、行こう」


「うん」


 香織に手を引かれるようにして、満はプールへと向かっていく。

 今年の満の水着は、上が短いタンクトップ風、下がミニスカートのセパレートタイプだ。胸元にリボンがついているものの、その立派な体型は隠しきれていない。

 こういう可愛い服装だと、ルナが見たら絶対「妾の趣味じゃない」とか言いそうである。

 香織の方はというと、性格的におとなしめかと思ったが、意外と大胆なものだったようだ。ただ、やっぱり恥ずかしかったようでワンピースを上から着ている。


「香織ちゃん」


「ん、なに。満くん」


「ずいぶんと露出多くない?」


「大丈夫だよ。このくらいなら普段着とあんまり変わらないもん。てへっ」


 キャミソールワンピースなら確かにそうだなと、完全に丸め込まれる満である。

 ともかく格好のことは気にすることなく、香織とプールを楽しむ満。

 父親の実家から帰ってきてから、宿題に追われてずっと部屋に閉じこもっていたせいか、満はずいぶんとはしゃいでいたようである。


 ある程度遊んだところで、市民プールに備え付けてある時計に目をやる。


「あっ、そろそろお昼だね。場所を変えよっか」


「そうだね。人が多いと思ったより疲れちゃうもんね」


 人の多さと夏の暑さということもあって、二時間ほどはしゃいだところで疲れてしまったようだ。

 プールから上がって更衣室に戻ろうとするが、その二人の前に変な男たちが現れた。


「やあ、君たち可愛いねえ」


「どうだい、お兄さんたちと一緒に遊ばないかい?」


 どうやらナンパのようである。

 香織は怖がっているようだが、満は険しい顔をして男たちを睨んでいるようだ。


「怖くなんかないよ。なっ、俺たちと遊ぶだけなんだから、付き合っておくれよ」


「嫌だね。プール内での迷惑行為は禁止されてるんですよ。とっととどこか行って下さい、職員を呼びますよ」


「固いこと言わないでさ、なっ?」


 男の手が伸ばされるものの、満はその腕をがっつりとつかむ。


「いい加減にしてください。僕だって怒りますよ」


「銀髪美少女の怒り顔いいねえ」


 腕をつかまれながらも、余裕そうな男。だが、その余裕はだんだんとなくなっていく。


「ちょっと待ってくれ……。あだっ、あだだだだっ!」


「お、おい、どうした」


 満に腕をつかまれた男が突然痛がり始めたのだ。これにはもう一人の男も慌ててしまう。


「なんて力だ。腕が、折れちまう!」


 怒りのあまり、満は吸血鬼の力を発動させてしまっているらしい。その怪力で、男の腕を折りにかかっているのだ。


「なんて力だ。やめてくれ、折れちまう」


「だったら、ナンパなんてしてないでさっさと消えて下さい。それと二度と僕たちの前に現れないで下さい。次は折りますよ」


「わ、分かった。分かったから放してくれ!」


 反省した様子なので、満はパッと手を離す。

 自由になった男たちは、そのままどこかへと走り去ってしまった。


「ふふ、怖かったね、香織ちゃん」


「満くん、かっこよかったよ」


「そ、そうかな?」


「うんうん。ありがとう、満くん」


「うん……」


 この上ない笑顔の香織から放たれた言葉に、満は照れくさそうに頬をかいている。

 なんにしても、何事もなく無事に追い払えてよかったと、満はほっと胸を撫で下ろしていた。


 変なトラブルが起きはしたものの、シャワーを浴びて服を着替えた満と香織は、お昼を食べに行くために市民プールを後にしたのだった。

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