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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊


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341/355

第341話 祖父と巡りて

 翌日は家でのんびりして、そのさらに翌日の火曜日。


「満たちや、わしと一緒に出掛けはせんか?」


 何を思ったのか、祖父が満と友人である風斗と香織に声をかけてきた。

 理由を尋ねれば、夏祭りに参加してくれたお礼をしたいのだという。

 念のために両親に相談をする満だったが、両親からはあっさりと許可が出てしまった。祖父なら心配はないとのことのようだ。

 そんなわけで、満たちは祖父の運転する車で出かけることにしたのだった。


「さあ、どこに行きたいかの。今日はお礼だから、わがままくらいは聞いてやるぞ」


 祖父はかなりご機嫌のようである。

 ところが、満たちはこの街に何があるのかはよく分からない。わがままを言おうにも、街にあまり詳しくないので何も要望が出せないようだった。


「どこ行きたいっていうのは難しいだろうから、あれが欲しい、これが食べたいで構わんぞ。わしの知っている範囲でなら、ちゃんと叶えてやるから安心せい」


 悩む満たちに、祖父は笑いながら言い切っている。大した自信である。

 困惑しながらも、満たちは街の中を案内してもらっていた。

 その中には、先日舞を教えてもらった神社も含まれている。急な話だったこともあって、ちゃんとお参りできていなかったからだ。

 きちんとした手順でお参りをして、おみくじとお守りを買い、御朱印まできっちりもらって帰る。

 その際には、神社の職員の人たちからお礼を言われていた。


「本当にありがとうございました。二人が舞に参加して下さったおかげで、今年のお祭りは大盛況でしたからね」


「いえ、そんな……」


「困っている人を、放っておけなかっただけですよ。間違えないかすごく緊張しましたけど、いい経験ができたと思います。こちらこそ、本当にありがとうございました」


 戸惑いながら対応する満に対して、香織の方は実に堂々とした感じで答えている。地味にVブロードキャスト社での経験が役に立っているようである。

 風斗にももちろんお礼はあった。満同様にちょっと照れくさそうにしながら答えていたので、男の二人はどうもこういうのは苦手そうである。


 お昼も済ませて最後にやって来たのは、もちろんあの神社だ。

 山の入口付近にたたずむ、古い小さな神社だ。神楽殿こそあるものの、本当にその様子は静かなものである。

 お祭り前はあまり手入れの行き届いていない状態だったが、お祭りがあったこともあって、今はとてもきれいな状態になっている。

 ただ、あの日の賑わいが嘘かのように、今は静まり返っていて、参拝する人の姿もほとんどないような状態だった。


「信じられないわよね。ここがおとといはものすごい人で埋め尽くされていたんだから」


「そんなにすごかったのかよ」


「すごいも何も、境内からあふれんばかりの人がおったからな」


「この状態の神社にそんなに人がいたとは……。信じられないな」


 目の前の閑散とした状態を見れば、そう思うのも無理もないというものだ。


「だが、ここはこの地域の守り神である山神様を祀っておる神社だからな。山に入る前と戻る時には、皆ここを訪れていったものじゃぞ」


「それだけ信仰はあるということなんですね」


「まあ、そうじゃな。だからこそ、おとといのあの祭りで披露する舞は、みんなで守ろうと必死なのじゃよ」


 祖父はそのように語ると、黙り込んでしまった。どうも感極まってしまったようだ。


「すまんな。年を取ってくると涙もろくなってしまう。孫の舞う姿に見とれてしまう程だったからな。本当に素晴らしかったよ」


「おじいちゃん……」


 涙のあふれる目じりをぬぐう祖父の姿に、満はかける言葉が思いつかなかった。

 しばらく、満たち四人は神社の中をじっと眺めていた。


 ようやく祖父が落ち着くと、改めて神社にお参りする。

 人のいない神社だからか、鐘の音も、賽銭を投入する音も、拍手をする音もすべてがよく響き渡っていた。

 お参りを終えると、祖父は改めて三人に問いかける。


「もう行くところはないかな?」


「はい、これで十分です」


 満からさらっと答えが返ってきた。

 あまりにも清々しい満の答えに、祖父はかえって困ってしまった。


「まったく、満もそうじゃが、お前たちは欲のない子たちじゃな。普通はあれが欲しいこれがしたいと、口うるさく言うものなのだがなぁ」


「いやぁ、言われてもこっちのことは詳しくねえし、あまりわがまま言って困らせるのもな……」


「そうですよ。私たちはよその家の子でもあるんですし。満くんすら言わないのに、私たちがわがまま言えたもんじゃないです」


「まったく、控えめな子たちじゃな」


 言葉とは裏腹に、祖父の口元は緩んでいた。


『また来るといいぞ、稀有な子よ』


「うん?」


「どうしたんじゃ、満」


「今、誰か何か言いましたか?」


 満が確認するものの、誰も首を横に振るばかりである。

 だが、満の耳には、確かに何かが聞こえた気がした。

 気にはなるものの、誰も言っていないというのなら、気のせいだったのかなと思うことにした満である。


 こうして、約一週間にも及ぶ、満の父親の地元での滞在は終わりを迎えた。

 お祭りで舞を舞うという経験をした満や香織は、この体験を活かすことがあるのだろうか。

 今後のアバター配信者としての活動が楽しみである。

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