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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
330/332

第330話 優しさと

 診察の結果、満の状態は問題ないようだった。

 雨に打たれたことで一時的に体調を崩したようだが、もうすでに完治しているとのことだった。


「よかったぁ、これで明日からまた学校に行ける」


 診察を終えた満はほっとした様子だった。


「本当にね。急に熱を出されたこっちにもなってちょうだいよね。どれだけ心配したと思っているのよ」


「うん、それはごめんなさい」


 母親に叱られて、満は素直に謝っている。

 なんにしても、これでひと安心である。


「明日、学校に行ったら、風斗くんと香織ちゃんにも謝っておくのよ。心配してわざわざお見舞いにも来てくれたんだから」


「も、もちろんだよ」


 無事に診察を終えて病院を出た二人は、そのまま家に帰宅したのだった。


 翌日、満は久しぶりに女の姿で活動している。

 相変わらず吸血衝動で変身してしまう体質は改善されていないようである。

 とはいえ、自分自身で学校に行くのは、実に四日ぶりだ。それだけに喜びは大きかった。


「それじゃ、お母さん。行ってくるね」


「ええ、行ってらっしゃい。いろいろボロを出さないように気をつけなさいよ」


「はーい」


 母親からのお小言を聞かされつつも、満は嬉しそうに学校へと向かっていった。


 途中で、風斗と合流する。


「おはよう、風斗」


「よ、よう、満。もう体調はいいのか?」


 満が挨拶をすると、風斗は照れくさそうに挨拶と質問を返してくる。


「うん、もう平気だよ。ごめんね、心配かけちゃったね」


「まあ、いいさ。やっぱりお前がいないと、どことなく学校がつまんないからさ」


「ちょ、ちょっと風斗?!」


 風斗が返してきた言葉に、満は思わず大慌てである。


「いやぁ、誰も男女の話はしてないぜ。俺とお前は幼馴染みだし、結構一緒にいるだろ。やっぱりお前と話をしてないと調子が狂うって言ってるんだよ」


「あ、ああ。そうだよね。うん、そうだよね」


 満は胸に手を当てながら、スーハーと一生懸命に呼吸を整えている。

 満の姿を見ながら、風斗はつい笑ってしまう。


「よし、急ぐとするか。このままだと遅れちまうからな」


「あっ、そうだね。それじゃ急ごっか、風斗」


「ああ」


 満と風斗は、二人で横並びになりながら学校へと向かっていく。

 久しぶりのこの感じに、満はとても嬉しそうな顔をしたのだった。


 ―――


 その夜のこと、満は機嫌よく配信を行う。


「みなさま、おはようですわ。光月ルナでございます」


『おはよるな~』


『うおおん、久しぶりのルナちじゃ!』


 挨拶をするだけでリスナーたちは大盛り上がりである。


『くう、やっぱりルナちの配信がないと一日が閉まらん』


『うむ。このどことなく中性的な声が、ワイらに最高の癒しを届けてくれるのだ』


 リスナーたちのコメントに、満はついつい笑ってします。


「なんとも嬉しいかぎりですわね」


『それにしても、なんで今日は一時間早いん?』


 嬉しそうに笑う満に、リスナーからの質問が飛んでくる。


『確かに、いつもは21時やな』


『今日は20時やん、どしたん?』


「いえ、少し間が空いてしまったので、ちょっと早めにしただけですわ。特に意味はございません」


『なるほ』


『早くなっても、事前に告知くれるから助かる』


『それな』


 リスナーたちとのやり取りも、ちょっと空いただけで不思議と新鮮に感じてしまう満なのである。


「まったく、雨というものも油断なりませんので、みなさまも濡れた時は早く乾かして温まるようにして下さいな」


『せやなぁ』


『本当にシャレにならんよな』


 そんな感じで、この日の配信は世間話に終始することにした満。

 当然ながら、この間の配信のこともしっかりと確認されてしまう。


『せや、ケンカしたっていう友だちとはどうなったん?』


『触れんようにしとったけど、ワイも気になるな』


 最初こそ咎めるようなコメントもあったものの、リスナーたちもすっかり気になっているようだ。

 満は一度咳払いをすると、改まって話を始める。


「それでしたら、無事に解決いたしましたわ。別の友人が仲裁に入って下さいまして、それでどうにか和解できましたの」


『そっか』


『それはよかったなぁ』


『不機嫌なルナちは、見ていて心配やったからな』


『ひと安心だべ』


 リスナーたちの反応から察するに、満のことを自分のことのように心配してくれているようだった。

 優しいリスナーたちのコメントに、満は画面を直視できなくなりそうになってしまう。


「ありがとうございます、みなさん」


『ええんやで』


『やっぱ、ゲームの超絶技巧もええけど、こういう何気ないルナちもいいよな』


『わかるマン』


『……ルナち?』


 急に音声が途切れたことに、リスナーたちに動揺が走る。


「ご、ごめんなさい。僕、なんだか嬉しくって……」


『ルナち、泣いてるんか?』


「……はい。みなさんの優しさが、嬉しくて、嬉しくて……」


『泣きたい時は泣けばええんやで』


『そうそう、無理するんはよくない』


「ありが、とう、ございます……」


 そこからしばらくの間、満の鳴き声だけが配信音声に乗り続けた。


 一、二分ほどして、満はようやく落ち着く。


「大変失礼しました。今日の配信はここまでにしておきますね」


『おつかれさんやで』


「はい。それではごきげんよう」


『おつるな~』


 光月ルナが涙を流したこの配信は思わぬ反響を呼び、ひとつの伝説を残すことになったのは、また別のお話。

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