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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
329/333

第329話 完治とはいかない

 その日の真夜中、満はむくりと起き上がる。


(なんだか、長く眠っていた気がするな……)


 頭を押さえながら、満は布団から抜け出す。

 ぶるっと震えた満はトイレへと向かう。そこで自分の体を確認するが、どうやら男のままだったようだ。

 部屋に戻ってきた満は、部屋の電気をつける。

 ふと机の上に目を向けると、メモ書きが残っていた。


「あれっ。なんだろう、これは」


 気になった満は、メモ書きに目を向ける。


『満へ

 風斗と香織については、妾が話をつけてきた。

 おぬしが苦しむ必要はない。もっと自分に自信を持っていけ。


 ルナ・フォルモント』


 メモ書きには、ルナ・フォルモントの署名が記されていた。どうやら、自分が寝込んでいる間に、ルナ・フォルモントが動いていたようなのである。

 その事実を知らされた時、満は素直にルナに感謝いていた。

 同時に、自分がどれだけ人に対して迷惑をかけているのかということも自覚せざるを得なかった。


(まったく、ルナさんにまで迷惑をかけてしまうなんて……。僕はもっとしっかりしなきゃいけませんね)


 メモ書きを見た満は、強くそう思った。

 だが、具体的にどうするかというのはまったく考えられないらしく、すぐさま首を捻り出してしまった。

 人間というものは、そう簡単に変われないのである。

 結局何も思い浮かばなかった満は、パソコンを立ち上げて光月ルナのチェックをすることにした。なにせ風邪で配信を休んだのだ。何かしら反応があってもおかしくないだろう。

 エゴサをしてみれば、しっかり心配する書き込みが見つかってしまう。

 そうなれば、つい書き込んでしまいたくなってしまうというのが人の性。

 満はすぐさま光月ルナのアカウントで書き込みを行う。設定が吸血鬼であるために、この時間に書き込んでいても何らおかしくないので、満にはまったくのためらいもなかった。


『こんばんはですわ

 ちょっと気分がすぐれなかったので、配信をお休みさせていただきました

 明日は配信を予定通り行いますので、よろしくお願いいたしますわ』


 満がそう打ち込んだ直後だった。たちまちリポストの嵐である。

 ものすごい勢いで増えていく数値に、満自身がとても困惑している。この光景は、改めて自分という存在がどのようなものであるかということを、まざまざと見せつけられたようである。


「もう、みんなってばなんでこんな時間に起きてるんだよ」


 思わず笑ってしまう満である。

 満はSNSをチェックした後、今度はPASSTREAMERの自分のチャンネルをチェックする。

 こちらは特にメールが飛んでくるとかそういったことはなかったが、アーカイブの再生数がかなり伸びていた。

 配信が一回飛んだことを心配してなのだろう。ひたすら動画を再生して、広告収入で支援しようというリスナーたちの気持ちがよく分かるというものだった。


「んもう。リスナーたちってば、暇人なんですね」


 伸びていく再生数に、満はついおかしくて笑ってしまっていた。


 そうやってひと通りのチェックを終えた満だったが、やはり夜中は本来眠っている時間だ。大きなあくびをしてしまい、とても起きていられそうになかった。


「しょうがない。置き続けていて学校で眠ってしまっては困りますからね」


 敷きっぱなしになっていた布団へとごそごそと潜っていく。


「ふう……」


 安心した様子で横になる満。まだ風邪の影響が残っているのか、少し顔が赤いかもしれない。


「はあ、明日は風斗たちにどんな顔で会おうかな。いや、それ以前に風邪が治っているかどうかかな」


 満は横になりながらあれこれと考えている。

 風邪が本当に治っているのかというのはもちろんだが、いろいろあったせいで風斗たちに顔が合わせづらいのだ。

 あれこれ考えようとする満だったが、考えれば考えるほど恥ずかしくなってきたらしく、頭からすっぽり布団をかぶってしまっていた。


(うん、もう何も考えず寝よう)


 満はそう強く思い、そのまま目をつぶることにした。

 悶々とした気持ちのせいですぐには寝付けなかったものの、満は知らない間に眠れていた様子。


「はっ!」


 起きれば、外は明るくなっていた。


「満、おはよう。今日は元気かしらね」


「お、お母さん……」


 目を覚ませば、母親がカーテンを開けているところだった。

 体を起こそうとする満だったが、母親にそのまま体を押さえつけられてしまう。


「ダメよ。まだ治ったか分からないんだから。今日はお医者さんに行くから、このまま寝てなさい」


「え~……」


 もう元気だよと言わんばかりの、実に不満そうな声である。

 しかし、母親の言うことには逆らいきれず、この日の満は結局学校を休むことになった。


「それじゃ、おとなしく寝ているのよ、満。病院に行くための準備をしてくるからね」


「は~い」


 しっかりと寝汗を拭きとられた満は、不満たっぷりな表情をしながらもおとなしく横になることにした。

 とはいえ、満としてはちょっと助かったかもしれない。

 昨日の今日で、どういう顔で会えばいいんだろうという気持ちが払しょくできずにいたのだから。


 外は晴れ間をのぞかせているというのに、満の気持ちがすっきりするのには、まだまだ時間を要するようである。

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