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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
327/334

第327話 お見舞い

 放課後のこと、家の呼び鈴が鳴る。

 満は部屋でずっと横になっているので、出たくとも出られない。


「あら、風斗くんと香織ちゃんじゃないの。二人揃って珍しいわね」


「お久しぶりです、おばさん」


「お久しぶりです」


 呼び鈴に対応したのは、満の母親だ。

 どうやら今日の欠席を聞いて、二人で見舞いに来たらしい。


「満なら二階で寝ているわよ。ちょうどよかったわ。私はこれからタイムセールに行かなきゃいけないの。よかったら二人で見ていてくれないかしら」


「ええ、それでしたら頼まれます」


「買い物に行ってきて下さい」


 風斗も香織も、満の母親の頼みを聞き入れたようである。

 二人の返事を聞いた満の母親は、楽しそうに鼻歌を歌いながら買い物へと向かっていく。


 入れ替わりで家に入った二人は玄関のカギをかけると、しばらくの間、玄関で立ち尽くしていた。


「……なんだか気まずいな」


「そうね。昨日の今日だもん。なんだか顔が合わせづらいわ」


 そう、昨日のやり取りのせいで、ここまで来ていながら戸惑っているのである。

 だが、いつまでも人の家の玄関でうだうだもしていられない。二人揃って、覚悟を決めて家に上がっていく。


「お邪魔します」


 二階にいる満に聞こえるように、風斗はわざと大きな声で挨拶をする。

 靴を脱ぐと、二階に続く階段へと進んでいく。この時、風斗が先に行き、香織はその後ろをついていく。まあ、制服だから仕方がないだろう。幼馴染みとはいえ、気を遣うものである。


 満の部屋の前で足音が止まる。

 コンコンという音が響き渡ると、外から呼び掛ける声が聞こえてくる。


「満、お見舞いに来たぞ。入るからな」


「……どうぞ」


 風斗の声に、弱々しいながらも満は返事をする。

 扉が開き、二人が中に入ってくる。


「満、どうだ、調子は」


「こんにちは、満くん。大丈夫かな?」


 二人が心配そうな顔で入ってくる。


「心配かけちゃったね。一応、熱だけで、咳はないよ。昨日雨に打たれたせいみたい」


「まあ、短時間とはいえど雨に打たれればそうもなるだろうな」


「吸血鬼が憑依しているから、雨には弱いのかもしれないわね」


「ああ、ありえるな。流れる水がダメだっていうからな」


 風斗と香織の話に、満は黙り込んでいる。

 せめて普通に出迎えて、簡単に話をして帰ってもらおうと思ってたのだが、どうやら昨日のことを思い出してしまったようだ。


「っと、悪かったな、満」


 満の横に座り込んだ風斗が頭を下げてきた。


「花宮に言われた通り、俺はお前の女の方に惚れちまってたんだ。でも、幼馴染みで友人だから、どう接していいのか分からなくなってな。それで、あんな態度になっちまったんだ」


 風斗が素直に自分の気持ちを打ち明けると、満は言葉がまったく出なかった。


「男の状態なら普通に接することができるだろうと思ってたんだが、どうしてもルナの方の顔が浮かんじまってな。お前に酷いことばっかりをしちまったようだ。この通り謝る、悪かった」


 床に頭を打ち付けそうなくらい、風斗は深く土下座をしている。

 熱のせいで少しぼやぼやしてはいるものの、満はその謝罪を何とか聞くことができたようだ。


「ううん、風斗は悪くないよ」


 満は体を起こそうとする。


「ダメよ、満くん。まだ熱でぼーっとするんでしょ? 寝てなくっちゃ」


 すぐさま香織が反応して、満を止めようとする。

 しかし、なぜか満の力が強く、押し返すことができなかった。

 満は上半身を起こして、風斗の方をじっと見ている。


「僕の方だって悪いんだ。みんなのこと、よく分からなくて、自分勝手に動いちゃって……。僕が、もうちょっと、みんながどう思うか、考えていたら、違ったかも、知れないね」


 満は自分の鈍感さをようやく自覚したようである。

 最初のうちは友人同士のスキンシップのつもりだったのだろうが、途中から起き始めた風斗の心情の変化にまったく気が付かなかった。それゆえに、ここまでややこしい事態になったのだと、こんなことになってはじめて気が付いたのである。


「女の時は、もうちょっと、距離を、取るね。風斗って、優しいからさ……。つい頼りに、しちゃうんだ」


「満……」


 満が体調が悪そうながらも、一生懸命笑顔を見せてくる。そのせいで、風斗も香織もあまり強く言えなくなってしまっているようだ。


「これからは気をつけるよ。今日は来てくれてありがとう。明日には絶対治すから」


 満は言うだけ言うと、再び横になっていた。


「バカやろう、ゆっくり休めよ、こういう時くらい」


「そうよ。無茶はよくないわよ」


「えへ、えへへへへ……」


 満は笑っていたかと思うと、そのまま寝息を立てて眠ってしまった。

 なんともいえない笑顔のまま眠る満に、二人は揃って笑ってしまう。


「まったく、満はどんな時でも変わらねえな」


「ほんと、まったくだわね」


 すーすーと寝息を立てて眠る満の横で、風斗と香織は抑えながらも笑っている。


「私、濡れタオル用意してくるから、村雲くんはそのまま様子を見ていてね」


「ああ、任せておけ」


 風斗と香織はてきぱきと役割分担をして、満の看病をし始める。


 やがて、満の母親が帰ってくる。

 風斗と香織は、学校から渡されたプリント類を母親に渡すと、そのまま帰宅していったのだった。

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