表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
326/329

第326話 風邪

 翌日、満は学校を休んだ。


「37.2℃、風邪ね」


 満が横になる隣には、母親が体温計を手に看病している。


「うう、まさか寝込むなんて思ってもみなかったよ……」


 満は顔を真っ赤にしている。熱なのか恥ずかしいのか分からないが、とにかく真っ赤である。


「雨の中、あれだけ濡れればね。吸血鬼の力があるから大丈夫かと思ったけど、こういうところは人間のままなのね」


「みたいだね……」


 熱を測り終えた母親は、額に濡れタオルを乗せながら話をしている。


「咳はないみたいだし、今日のところは風邪薬を飲んでお休みね。連絡はしておいたから、ゆっくり休みなさい」


「うん、ごめんなさい」


 満は口元を隠すように布団をかぶりながら、母親に謝っている。


「いいのよ。子どもを心配しない親なんて普通はいないわ。今日は久しぶりに甘えなさい」


「うん、お母さん……」


 母親は立ち上がって部屋を出ようとする。その時、あることに気が付いた。


「あら、そういえば昨日は男の子だったから、今日は女の子かと思ったんだけど、変身してないわね」


「お母さん。それって今、気にするところ?」


 満は冷静にツッコミを入れている。風邪とは思えないくらい、本当に冷静沈着なツッコミである。

 あまりに的確なツッコミに、母親は思わず笑ってしまう。


「元気はあるみたいだし、ひと晩眠っていれば治りそうね。りんごでもむいてくるから、ゆっくり休んでなさいね。今日はパソコンもスマホも触っちゃダメだからね」


「はーい……」


 母親に注意された満は、不満そうに返事をしておとなしく横になったままになっている。

 誰もいない部屋では、外で降り続く雨の音がかすかに聞こえてくるだけだった。それというのも配信用にカーテンを分厚くしたので、外の音をほとんど遮断してしまうからだ。

 これだけ音が静かだと、満はかえって落ち着かないようである。

 あまりの無音に満が耐え切れそうになくなった時、ちょうど扉が開いて母親が入ってきた。


「はい、りんごをむいてきたわよ。ひとまずこれだけでも食べて落ち着きなさい」


「お、お母さん……」


 満はつぶやくように喋ると、ゆっくりと体を起こしている。

 胸はぺったんこなので、やはり今日の満は男の子のようである。

 額に乗せてあったタオルを自分の脇に置くと、満は母親に手渡されたお皿を持って、ひとつずつ味わうようにりんごを食べている。


「それにしても、満」


「なあに、お母さん」


「なんだか、泣きそうな顔になってるけど、何かあったのかしらね」


 母親に言われて、満の手がパタリと止まる。

 やっぱり親には隠し事はできないようだった。


「うん、実はね……」


 こうも言い当てられてしまっては、満も話してしまいそうになる。

 ところが、母親は黙ったまま、下を向く満の口にりんごを放り込んで黙らせてくる。


「ほ、ほはあはん?」


 りんごを口の中に頬張ったまま、思わず固まってしまう。


「無理に話さなくてもいいわよ。大丈夫、お母さんには分かっているから。今日のところは、まずは風邪を治すことを考えてなさい。話したいことは、治った後でゆっくり聞くから」


 母親はにっこりと微笑んでいる。

 満はその優しそうな顔を見ながら、しゃくしゃくとりんごを食べている。

 ごくんと飲み込むと、母親の顔を見てこくりと頷いていた。


「うん、分かったよ。聞かれたから答えようと思ったけど、お母さんがそう言うのなら、今はそうする」


「うんうん。満がそこまで考えるなんて、だいたい風斗くんや香織ちゃん絡みだもの」


「ぶっ!」


 母親が頬に手を当てながら、反対の手をひらひらさせて言い放っている。まさにその通りなために、満は思い切り吹き出していた。


「お、お、お母さん?! びょ、病人をからかわないでよ!」


 図星な満の顔は、もう耳まで真っ赤である。


「だてに満の倍以上は生きてないわよ。大体、学校から帰ってきた時の様子で、察しがつくわ。朝はなんともなかったのに、帰ってきたらずぶ濡れなのにお風呂にも入ろうとしない。そりゃ風邪ひいて当然だし、持っていた傘もないってことは、ね?」


「ううう……。鋭すぎるよ……」


 満はりんごを自分の横に置くと、そのまま腕を組んで顔を隠すように前かがみになってしまった。


「満ってば、自分の気持ちはそこそこだけど、周りのことなんてほとんど分からなかったでしょ。いずれこういうことが起きるとは思ってたからね」


 母親は、満の肩にタオルケットをかける。


「放課後には二人がお見舞いくるでしょうね。それまでには、気持ちをしっかりと落ち着けておきなさいよね」


 最後にそうとだけいうと、母親は濡れタオルを一度回収していた。


「それじゃ、新しい濡れタオルを持ってくるから、それまでにそのりんご、食べちゃっておいてね。その後はもう一回ちゃんと寝るのよ」


「もう、子ども扱いしないでよ!」


 あれこれ言われて、満は恥ずかしそうに反発している。

 その姿を見て、母親は満足そうに部屋を出ていく。

 再び部屋に一人となった満は、なんともいえない気持ちで、黙々とりんごを頬張るのだった。


 この日の外は、しとしとと雨が降り続いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ