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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
323/326

第323話 大きくて小さな変化

 翌朝、列車は無事に最寄り駅に到着する。

 ここから学校までも近いということもあり、駅のコンコースで簡単に終わりの挨拶をして解散となった。

 駅の外には、迎えに来た親たちが待ち構えていた。三年生全員分の家族なので、駅前はちょっとした混雑に見舞われていた。


「ふぅ……。団体行動は多かったけど、結構楽しめたね、風斗」


 背伸びをしながら、満はさり気に風斗の隣に立って話しかけている。


「ああ、そうだな」


 だが、風斗は顔も合わせることもなく、満に対して返事をしている、しかも、どことなく上の空っぽい。


「風斗、顔をちゃんと見てよね」


「……悪い、今はお前の顔を見れなさそうだ」


 満が文句を言うと、風斗は顔を背けたまま答えている。

 ところが、満はこの言葉にカチンときたらしく、風斗の肩をつかんで自分の方を向かせようとする。


「風斗、どうしてだよ。僕の顔をちゃんと見てよ」


「やめろ!」


 満が怒鳴ると、風斗は満の手をパチンと叩いていた。

 思わぬ事態に、満は信じられないという表情を風斗に向けている。


「ああ、そうなんだ。分かったよ、勝手にすればいいんだ。僕はもう帰る」


 満はぷんすかと怒りながら、自分の母親が待っている車へと歩いていく。

 風斗は追いかけようとしたものの、自分がやらかしてしまったがために、ためらってしまった。


「……くそっ」


 風斗は自分の手を見ながら、ただその場に立ち尽くしていた。


 その日の夜、満は久しぶりに配信をする。修学旅行の関係で、実に一週間ぶりの配信である。


『ルナち、どしたん?』


『なんか、今日のルナちって機嫌が悪いな』


「えっ?」


 配信をしていたら、リスナーから指摘されて驚いてしまっている。


「そ、そんなことはございませんわよ。僕は、いつも通りですわよ」


 普段通りに振る舞ってみせる満だが、リスナーたちからの指摘は止まることがなかった。


『うん、無理して笑ってる』


『どしたん、話聞こか?』


『無理はよくない』


『話せる範囲でいいから、相談して』


 さすが光月ルナを見続けてきたリスナーたちである。ちょっとした違和感すら見逃してくれなかった。

 困ってしまった満ではあるが、リスナーたちの優しさに甘えてみようかと、つい相談してみることにしたようだ。もちろん、詳細は伏せつつである。


「実はですね。今日友人とけんかをしてしまったのですわ」


『あらら、珍しい・・・』


『知り合いとケンかはよくあること』


『もう少しだけkwsk』


 リスナーたちの反応はかなり慎重なようだ。


「急によそよそしくなってしまいましてね。それで僕が怒りましたら、手を叩かれてしまいました」


『うーん、ちょっと分からんな』


『なんか原因はあるん?』


「そうですね……」


 満としても思い当たる節はある。自分もあの言葉以降、ちょっと風斗に変な意識を抱いてしまったのだから、間違いなくあれだと思っている。

 だけど、それをどういう風にいったらいいのか。それで考え込んでしまっているようだ。


『ルナちが唸っとる』


『これはちょっとややこしい事態か?』


『いいづらそうやったら別にええんやで』


 光月ルナの異変に、リスナーたちは気遣いの言葉を投げかけている。


「あ、いえ。その知り合いというのが異性の方でして……。仲のいい友人だったのですが、ちょっと他人からからかわれるようなことを言われましてね。それ以降様子がおかしくなってしまったのですわよ」


『なるほど、理解した』


『異性の友人ならありえることよな』


『なるほど、意識し始めたってことか』


『てか、ルナち、彼氏おったん?』


『バ・・・ッ!』


『おい、やめろ』


「か、彼氏?」


 リスナーのひと言で、満はすっかり真っ赤になってしまったようだ。完全に言葉に詰まってしまっている。


『ほら見ろ、ルナちが意識してしまったではないか』


『普段の言動からして、複雑なお年頃なのは分かってただろ』


『わ、悪い・・・』


「わわわっ。僕のためにケンカしないで下さい!」


 満はコメント欄を見て慌てて止めに入る。

 リスナーたちはさすがに光月ルナを困らせるわけにはいかないと、そこでぴたりと言い争いは止まっていた。実にお行儀のいいリスナーたちである。


『悪い、ルナち』


『みんな反省汁』


『ごめんよう・・・』


 リスナーたちは謝れる人たちだったようである。

 すんなりとリスナーたちが反省したことで、どうにか今日の配信は落ち着きを取り戻せたようである。


「本当にリスナーのみなさま、ご心配をおかけいたしましたわ。今はこの通り、落ち着いておりますわ」


『うん、よかったよかった』


『推しの悩む姿はつらたん』


『俺たちでよかったら、いつでも相談乗るぜ』


 頼もしいかぎりのリスナーたちである。


「本当に本日はありがとうございました。多大なる感謝を申し上げまして、ごきげんようですわ」


『おつるなー』


 いつものように配信終了をクリックして、今日の分の配信を終える。

 無事に終えられたことで、満は椅子に座って大きくため息をついている。


 次の瞬間、満のスマホがぶるっと震える。

 何かと思えば、世貴からのメールだった。

 ものすごく長文で、風斗にガツンと言ってやるというようなことが書かれていた。

 さすがは風斗のいとこ。話の内容ですぐに原因が分かったようだった。


「『心配しないで、世貴兄さん。自分でどうにかするよ』っと、送信」


 すぐさま満は返信を送っておいた。

 とはいえ、満の心はまだ傷ついたままだ。あんな態度の風斗は見たことがないのだから。


 出汁天狐のひと言は、本当は銀太とかなみの二人に向けられた言葉だったのかもしれない。

 だけど、満たちも巻き込んでいるのは、状況的に間違いないことだ。

 これから自分たちの関係はどうなっていくんだろう。

 さすがの満も、心配せざるを得ないようだった。

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