第322話 夜行列車
修学旅行自体は問題なくすべての日程が終了する。
夜中に発車する団体夜行列車に乗れば、満たちは地元に戻ることになる。
修学旅行最後の食事を済ませた満たちは、駅へと移動して列車に乗り込んでいく。
車両は一クラス一両ずつに分かれているため、満と風斗は同じ車両だが、香織は別の車両になってしまった。
(ふぅ、風斗とはなんだか顔が合わせづらいから、香織ちゃんと同じ車両の中だったよかったのに……)
満は自分の席につきながら、大きくため息をついていた。
「どうしたのよ、ルナちゃん。ため息なんかついちゃって」
「うんうん。なんか気になるなぁ」
すぐさまクラスの女子が寄ってくる。
去年から一緒という女子も多いので、女性となった時の満とはそれなりに仲のいい子が多いのだ。
「いや、なんでもないよ。今日で修学旅行が終わっちゃうから、なんだか寂しいなあって思っただけだよ」
「確かにそうだね」
「本当よね、早いよね」
クラスメイトの女子たちがうんうんと頷いている。
女子たちと話しながら、満はちらりと風斗の方を見る。
満は「ふ」、風斗は「む」なので、ちょっと座席が離れているので、ちらりと視線を向けても気付かれにくい距離である。
ところが、満がちらりと見た瞬間、たまたま風斗と視線が合ってしまう。慌てて顔ごと逸らしてしまったので、目の前の女子たちが騒ぎ始める。
「ど、どうしたのルナちゃん」
「あー、村雲くんかぁ。目が合っちゃったんだね」
「二人って結構一緒にいるもんね。やっぱ、意識しちゃう?」
すぐさま原因を特定してしまう女子たちである。何気に怖いと思う満である。
「ち、違うってば。み、満くんと仲がいい関係でたまたま一緒にいることが多くなるだけだもん。べ、別に意識なんて……」
言い訳をしながら、なぜかどもり始める満である。
そんな満を見ながら、女子たちがにやにやとした表情を見せている。
「ルナちゃん、顔真っ赤だよ~?」
「そっかぁ、ルナちゃんってそうだったんだ」
「ふふっ、可愛いなぁ」
「えっ、ええっ?!」
顔が真っ赤だと言われて、満はとても困惑している。
(ああ、もう。普段ならこんなことないのに。絶対天狐さんのせいだ~っ!)
クラスの女子たちにからかわれて、満はその場で頭を抱え込んでしまった。
さすがにここまで満が反応してしまうと、女子たちも悪かったかなと反省の表情を見せている。
「ご、ごめん、ルナちゃん。ちょっとからかい過ぎたちゃったね」
「ごめんね」
「でも、こういう手の話はどうしても気になっちゃうからね」
「ねー」
満を前にしながらも、にこやかに言い切ってしまう女子三人である。
呆れた顔をしつつも、満はまったくもうといった感じで笑っていた。
すっかり囲まれてしまい、動けそうにないので、満はそのまま女子たちと話しを続けることにしたのだった。
一方の風斗の方も、ちらちらと満の方に視線を送っている。
「どこ見てんだよ、村雲」
「分かった、ルナのことだろ。お前ら仲いいからな」
「べ、別にどこだっていいだろ。進行方向見てて何が悪いんだ」
風斗も風斗で、クラスの男子たちに絡まれていた。満が女子たちにからかわれているように、風斗も満のことを見ていたことを、男子たちにからかわれているようである。
安直な思考で話をされているせいで、風斗はとてもウザそうに感じているようだ。
(まったく、みんなの知ってるルナ・フォルモントは実は満なんだぞ言ってやりたいが、それはそれであいつの迷惑になるしな……。はあ、どうしたらいいんだろうかな)
風斗はなまじルナの事情を知っているだけに、頭を悩ませているようだ。
普段から一緒にいるのも、満と一緒にいる感覚だったから平然としていたところがあった。
ところが、最近はだんだんと女性の時の満に惹かれつつあった。
そこに、昨日の出汁天狐の発言である。そのせいで今の風斗は、女性となっている時の満のことを、完全に意識してしまっているようなのだ。
どうもさっきからちらちらと見てしまっているらしく、そこを目の前のクラスメイトたちに指摘されてからかわれているのである。
「まったく、時には素直になった方がいいですよ」
「だなあ。クラスの他の連中もいよいよカップル成立かって、楽しみにしているやつもいるんだからよ」
「お前らなぁ……。満っていう共通の知り合いがいるから仲良しなだけだ。お前らの期待しているようなことなんかねえよ」
「そうかそうか。なら、そういうことにしておいてやるよ」
いらいらとした表情で文句を言う風斗だが、クラスメイトたちはにやにやとしながら反応を返していた。
なんとも複雑な気持ちを抱きながら、満と風斗はそれぞれクラスメイトたちといろいろと話し込んでいる。
時間も10時を回ると、教師たちが見回りに来て、早く寝るようにと指示して回っている。
11時には照明も落とされて暗くなる。満たちははしゃぎすぎたせいか、急にあくびをするようになっていた。
「ふわぁ……。さすがにもう寝なきゃいけないかな」
「うん、私も眠い……」
「みんな、お休みなさい」
さすがに疲れたらしく、自分の座席に戻って眠りにつく。
満たちを乗せた列車は満たちの地元へと向けて、闇夜の中を休まず走り続けていた。




