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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊


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321/334

第321話 思春期というものか

 京都から奈良への移動のバスの中、同じクラスである満と風斗はなんとなく気まずかった。

 その理由はものすごく簡単。別れ際に放り込んできた出汁天狐の言葉のせいである。


『恋仲の連中の邪魔をするのも悪かろう』


 すべてはこの言葉が発端だ。

 なるべく意識しないようにしていた風斗も、これのせいで顔が真っ赤である。

 ほとんど意識していなかった満も、珍しく恥ずかしがっている。ただ、天狐の言葉が風斗に対してなのか香織に対してなのかが理解できていなかったようだ。


「ねえ、風斗」


「悪い、今はそっとしておいてくれ」


 こっそりと話しかけようにも、風斗からはつっけんどんに扱われる始末。

 満はどうしたらいいのか分からず、仕方なく一人で黙り込むことにした。

 女子からは話しかけられるのだが、元が男である満はいまいち話題についていけない。取り付く島もないといった感じである。

 そのため、ホテルに到着するまでの時間というものは、満にとっても風斗にとっても、とても長い時間のように感じられたのだった。


 夕食の後のお風呂は大浴場での入浴ではなく、部屋に備え付けのお風呂を使っていた。それというのも、やはり元々は男ということが満の中では譲れなかったのだ。

 いくら今は女性でも、女性と一緒に入浴するのは避けたかったのである。ちなみにこれは了承済みなので、何も問題はなかったようだ。

 ささっとお風呂を済ませた満は、同室の子たちが戻ってくるまでの間、和風の客室の中で転がってくつろいでいた。


 しばらくするとクラスの女子たちが戻ってくる。

 寝間着は体操服ということで昼間とはまた違った感じである。


「もう、ルナちゃんも一緒に入ればよかったのに」


「そうだよ。みんなわいわいとして楽しかったよ?」


「ご、ごめん。僕、人と一緒に入るの、あんまり慣れてなくて……」


 楽しそうに話しかけてくるクラスメイトに、満は申し訳なさそうに答えていた。


「そっかぁ。それじゃ仕方ないわね」


「そうね。お話するのは構わないけれど、そこまではってこと、あるものね」


「でも、残念だったな。ルナちゃんとお風呂でわいわいするの、楽しみにしてた子もいるから」


「うん、ごめんね」


 クラスの女子たちが残念そうな顔をするために、満はひたすら謝っていた。

 しかし、クラスの女子たちはあまり気にした様子ではなかった。


「いいのいいの」


「そうそう、その代わりなんだけど」


「な、なに?」


 クラスの女子たちの様子に、思わずたじろいでしまう。


「今夜はちょっとお話しましょうね」


「え……」


 女子たちの笑顔に、思わず顔を引きつらせてしまう。

 結局、その夜は、満は女子たちのパジャマパーティーならぬ体操着パーティーに巻き込まれてしまったのだった。

 勘弁してよと思いつつも、満はどうにか対応しようとした。だが、繰り出される恋バナについていけず、早めの轟沈となってしまったのだった。


「ありゃりゃ……」


「ルナちゃん、寝ちゃったね」


「こういうの苦手だったのかしらね」


 うつぶせの状態ですぴーと静かな寝息を立てて眠る満の寝顔を見て、女子たちはなぜか微笑ましくなってしまっていた。


「しょうがない。これでお開きね」


「そうね。明日もあるし、私たちも寝よっか」


「ふわぁ……、さんせ~い」


 満の寝顔に影響されたのか、他の女子たちも眠たそうにし始める。

 こうして、満の部屋の女子たちはあっという間に就寝してしまったのだった。


 翌朝、心地よい太陽の光が部屋に差し込む。


「ふわぁ~……。よく寝たなぁ」


 あくびをしてから、満は自分の体を確認する。今日もまだ女の子のようである。

 内に眠るルナ・フォルモントは意外と我慢強いようで、四日間連続で吸血しないということを結構平気でやってのけてきた。そのおかげで、修学旅行中はずっと女性の状態が続いている。

 満はルナに感謝しながらも、早く別々になれるように頑張らなくちゃと改めて気合いを入れていた。


「ふぅ……。胸が揺れるの、まだ時々びっくりしちゃうなぁ……」


 満はそんなことを思いながら、顔を洗って服を着替える。

 そして、まだ夢心地の中にいるクラスメイトたちを起こして回った。


 食堂にやってきたところで、満は思わず固まってしまう。

 前方に、風斗と香織の二人の姿が目に入ったからだ。昨日の出汁天狐の言葉が、いまだに尾を引き続けている。


「おはよう、ルナちゃん」


「お、おはよう、香織ちゃん」


 満に気が付いた香織がやって来て挨拶をするものだから、満はつられるようにしてちょっとびっくりしながらも挨拶を返す。


「今日もいい天気だよ。修学旅行、しっかりと楽しんでから帰ろうね」


「う、うん。そうだね」


 香織の普段と変わらない姿に驚きながらも、満はしっかりと会話を交わしていた。

 一方の風斗とは、今回もまた目が合わなかった。

 合わせようとすると、風斗はすかさず目を外してきたのだ。なんとも変な感じだなと、満は寂しく感じている。

 それでも、そんなことを気にしている場合ではない。基本的に修学旅行は団体行動なので、ちょっとでも遅れてしまえば、その分みんなにも迷惑がかかってしまう。

 風斗のことが気になりながらも、満はなるべく普段通りを心掛けた。


 ちょっとした一言から、満たちの関係に変化が生まれ始めているようだった。

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