第319話 修学旅行での再会
勉強を頑張った結果、中間テストの満は上位4分の1に入れたようである。これで気持ちとしては楽に修学旅行に行けそうだ。
ただ、修学旅行のしおりが、よりにもよって中間テストの前日に配られたのが問題だった。
そわそわした気持ちと緊張した気持ちがせめぎ合って、前日の夜はテスト勉強に集中できなかったのだ。こういうところは遊びたい盛りの中学三年生といったところだ。
それでもどうにか気持ちを落ち着けて、満はこの成績を勝ち取ったのである。
修学旅行当日。
「おはよう、風斗」
「ああ、おはよう」
風斗の前にルナの姿の満が現れた。どうやら女性でいることにしたらしい。
確かにそうかもしれない。
男にであるなら、いつ女性化するか分からない恐怖に怯えなければならないし、男に変装するには満の胸は大きすぎる。だったら、最初からリスクの小さな女性の方がいいだろうということだ。
修学旅行は四泊五日で、京都から奈良へと移動することになっている。
とはいっても、最終日は団体専用列車による移動なので、実質は三泊四日のようだった。
初日は新幹線駅までバスで移動。そこから新幹線を乗り継いで京都へと向かう。
京都駅に到着した満たちは、その空間にびっくりしている。
吹き抜けのコンコースは最近では多いものの、満たちは見慣れていないので、それは感動ものだった。
しかし、この時点で昼は回ってしまっている。
京都市内の観光名所を一か所回れば、その日はもう宿に向かうことになってしまった。
「はあ、余裕がなかった……」
「もっと回れるかと思ってたけどね」
「仕方ないわよ。京都市内の渋滞は有名だから」
「移動でものすごく時間取られたよね。明日は大丈夫かな」
クラスの女子たちと同じ部屋になった満は、思ったよりも気楽に女子たちと話をしている。去年とほぼ同じ顔ぶれのクラスメートなので、少しは女子同士の会話に慣れているということなのだろう。
いやはや、一年半という期間は短いようで長いようだ。
クラスメートの話に適当に混ざりながらも、修学旅行の初日はあっさりと終わってしまった。
二日目もあちこちを見て回る。
そんな中で二つほど施設を巡ったのち、待ちに待った自由時間がやってきた。
お昼ご飯も自由に食べられるので、満たちは何を食べようか迷っているようである。
「やあ、待ち合わせはここでよかったんだな。去年のアバ信コンテスト以来か」
「お久しぶりですね、光月ルナちゃん」
満が風斗と香織の三人になったところに、聞いたことのある声が聞こえてきた。
「わわっ、ここでその名前を呼ばないで下さい」
振り返った満が、慌てて声の主にお願いをしている。
「まったく、僕がアバ信であることは、みんなには秘密なんですよ」
「ああ、そうだったな。悪かった」
「ごめんなさいね。つい懐かしくってそっちの名前で呼んじゃいました」
満と大人の男女が話している中、香織が分からない様子でやり取りを眺めている。
「ああ、花宮、紹介しておくよ。去年のアバ信コンテストで競った人たちで、無法師心眼ってアバ信の中の人とモデラーだ」
「えっ、ええ?!」
突然風斗から紹介されて、香織はとても混乱しているようだった。
「ルナちゃんはだいぶ成長した感じですね。ふふっ、可愛らしさと大人らしさが兼ね備わってて、とてももてそうな感じがします」
「おっ、そうなのか? くっ、私の目ではよく見えないな。顔がかろうじて認識できる程度だからな」
「あっ、だいぶ目が悪くなってらっしゃるんですね」
「ああ、もうほとんど目の前しか見えないよ。そのせいで、かなみについてきてもらわないと、外では活動ができないんだ。ああ、アバ信の活動は続けているよ。まったくいいものだね、目が見えなくてもやりこなせるんだからな」
銀太はどこか寂しそうな表情で笑っていた。
「そういえば、制服姿が似合っているわね。修学旅行でしたっけ」
「はい。これから夕方の5時まで自由行動です。そしたら、奈良の方に向かわなければならなくなりますので、短い間ですけれど、よろしくお願いします」
満が深々と頭を下げている。
銀太とかなみが顔を見合わせて微笑んでいる。
「時間にして6時間くらいか。分かった。こっちに住む人間として、できる限り楽しめるようにしようじゃないか。なあ、かなみ」
「そうですね。それでは、こうやって話をしている時間も惜しいですから、早速移動しましょう」
二人はくるりと振り返って歩き始める。
「あ、歩くんですか?」
「ああ。車だとどうせ渋滞で動けない。歩いた方が早いというものだよ」
「まったくですよね。何年か前までなら、車でも余裕で移動できたのですけど、最近はちょっと混み具合が酷くて、普段の移動でも困るくらいですよ」
「まあ、混んでいなくても駐車場を探すのが手間だしな。それに、歩いた方がいろいろと刺激になるからな」
「は、はあ……」
銀太とかなみの言い分に、いまいちピンとこない満たちである。
しかし、地元に住んでいる彼らがいうのであるのならばと、おとなしく二人の後について歩き始めたのだった。




