第313話 光が彩る中で
ナイトパレードが始まり、光に包まれた乗り物に乗って、テーマパークのマスコットたちが登場する。
周りにも妖精や魔法使いなどを模した衣装に身を包んだたくさんのスタッフたちがいて、実にきらびやかな夜を演出している。
初めて生で見るナイトパレードに、満たちは思わず釘付けになってしまう。
「うわぁ、すごい。テレビで見るのとは全然違う」
満は目をキラキラさせながらナイトパレードに見入っている。
「やるからには、やってくるお客様たちを満足させなきゃいけないからね。こういう場所は本当に私たちにとってもいろいろ勉強になるのよ」
「といいますと?」
イリスの話に、満はつい問い掛けてしまう。
「ほら、私なんてアイドルでしょう。どうやればライブやトークショーにやって来るお客様たちを満足させられるかって、ついつい考えちゃうのよ」
「なるほど~」
イリスの話に、満はすごく感心している。
なんといってもイリスはアイドルである。先日のようなイベントの無料のイベントというのもあるが、基本的にはお金を取って興行を行う。つまり、金額に見合うだけのパフォーマンスを求められるというわけだ。
「でも、こういうのって、満くんたちアバター配信者たちも考えたことない?」
「それはないなぁ」
イリスが聞けば、なぜか答えたのは小麦だった。
「レニちゃんの可愛さと、私の技術を見せつけられればそれでオーケーなのさ、わっはっはっ」
なんとも潔いというか、割り切った姿勢の小麦である。これにはイリスも満も苦笑いをするしかなかった。
「あー、笑ったな?」
「満くんだって、似たようなものでしょ。アバター配信者なんて、ほとんどが自己満足なんだから」
「あー、まー、そうかも?」
満はぽりぽりと頬をかきながら、目を逸らしつつ答えていた。
まったく、満というのは分かりやすいというものだ。
「ほらほら、話はそのくらいにして、今はパレードをしっかり見ようじゃないか」
「そうですよ。せっかく見に来たんですからね」
満たちに両親が話し掛けている。
満たちはこの言葉に、その通りだなと思って、話に区切りをつけていた。
その後ろでは、イリスのマネージャーである環が時々時計に視線を落としている。
「そろそろですかね」
なにやら呟くと、ようやくイリスたちに合流してくる。
「パレードが始まる前に、池の方を正面にして置いた理由が、よく分かると思います。始まりますよ」
目の前をパレードが通過していく中、池にそびえる山の向こう側へと環が指を差して注目を向けさせる。
ひゅるるる~……、どぱーん!
華やかなパレードに、文字通り華を添える花火が上がり始めたのだ。
これには、パレードを見物していた他のお客たちもびっくりである。
しかも、音楽の盛り上がりとタイミングを合わせるかのように花火が次々と上がっていく。花火はただのにぎやかしというわけではなかったのだ。そう、まさしく演出の一環だったのだ。
「すごい、曲とタイミングを合わせてる」
「ここまで来たかいがあるというものですよ。思い出作りと同時に、勉強までできるのですからね」
「環さん、ここまで狙ってたんですか?」
思わず環を見て満は確認をしてしまう。
「さて、どうでしょうかね」
ところが、環は笑ってごまかしていた。
やがて、テーマパーク内をめぐるパレードは通り過ぎてしまう。
だがしかし、ナイトパレード自体は続いているので、花火は上がり続けている。
「ねねっ、満くん。池の方に行こう」
「えっ、小麦さん?」
急に小麦が満の手を引っ張っていく。
「おい、どこに行くんだ」
満の父親が追いかけようとするが、環とイリスが間に入って邪魔をする。
「ふふっ。若い二人なんですから、そっとしておきましょう」
「ええ、そうですよ」
「いや、しかしな……」
環とイリスが顔を見合わせながら言うものの、満の父親は困ったような反応をしている。しかし、母親の方は何かを察したようである。
「お父さん、私たちは疲れましたから、あそこにでも座ってゆっくりしましょう」
「あ、ああ。でも……」
「いいからいいから」
父親は気になるらしいが、母親の強引な誘いに仕方なく付き合うことにしたのだった。
小麦に引っ張られて池の方までやってきた満は、いきなりどうしたんだろうと困惑気味である。
「あの、小麦さん」
「なあに、満くん」
「手を離してもらえますか?」
満はがっちりと手をつかまれていて、なんだか恥ずかしそうにしている。
ところが、小麦はにっこりと話して、話すような雰囲気はない。一体どうしたというのだろうか。
「いやぁ、さっき言ってた話をしたいのよね。そのためには、満くんに逃げられちゃ困るしね」
「ど、どういうことなの?」
思わず満は首を傾げてしまう。
話をするために手を離したくないということや、逃げられては困るという言い回しがまったく理解できないからだ。
「いやあ、正直に言わせてもらうね」
そうかと思えば、小麦はものすごく真剣な表情をしている。
「はっきり分かったんだ、私」
満の目をしっかりと見て、小麦は何かを決意したように話し始める。
「私ってね、満くんのことが好きみたいなんだ」




