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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
305/326

第305話 夕暮れに出かけて

 ゴールデンウィークの谷間の平日。憂鬱に思いながらも満は学校にやって来ていた。


「よう、満」


「なんだよ、風斗」


 今日は女子である満は、風斗と話をしていた。

 クラス分けは結局去年と同じ。男の満は香織と同じクラス、女のルナは風斗と同じクラスである。なので、登校してからというもの、満はこうやって風斗と話しているのだった。


「珍しかったな、三日連続配信って」


「ああ、うん。レニちゃんの配信がお休みだったし、作った動画のこともあったから日曜も配信しちゃったんだよね。思えば失敗だったなぁ……」


 満はそう言いながら、ぺたんと机に伏している。

 最初の頃は胸が机に触れるとびっくりしていた満も、もうまったく気にしていない様子だ。ずいぶんと大きくなったというのに、慣れとは恐ろしいものである。


「でもまぁ、徹夜で作った動画の反応がすぐ聞けたから、よかったのかなって思う」


「気になるとすぐ行動するとか、ずいぶんと積極的になったよな、お前も」


「僕もそう思うよ、うん」


 満は机に突っ伏したまま大きくため息をついていた。


「それにしても、意外と寄ってこないな」


「そうだね。僕が光月ルナの中の人だってバレてるのに、みんな遠慮してくれてるのかな」


「かもなぁ。同級生が超人気アバ信なものだから、どう絡んでいいのか分からないのかもな」


 満と風斗が周りを見るが、中の人バレをした年明け以降、誰も女の満に絡んでこようとはしなかった。

 取り囲まれてサインくらいねだられそうだと警戒はしていたのだが、まったくもって静かで特に風斗が拍子抜けしていたようである。


「まあ、僕は静かな方が好きだから、この状況は助かるんだけどね」


「静かな方が好きって……。お前それでよく世界大会参加のオファー受けたな……」


 満の言い分に、風斗は本気で呆れているようだった。


「あれは何ていうか……、僕の腕試しだったのかな。世界にどこまで通じるのかなって思って参加してみたくなったんだよ」


「それで世界チャンピオンになってたら世話ねえぜ……」


「あは、あははははは……」


 今さらながらに配管工レーシングに世界大会のことを思い出して、満はただただ苦笑いをするばかりだった。


 放課後、満と風斗は駅前の商店街へとやって来ていた。

 理由は簡単。『月刊アバター配信者』を買いに来たのである。ゴールデンウィークで発売日が多少前後しているとはいえ、毎日一日の発売だ。日付は律儀に守る満なのである。


「街にやって来ても、意外と声をかけられないな」


「そうだよね。有名人がいたとしても、そっくりさんで済んじゃうんじゃないかな、こういう往来だと」


 平然と歩いていても、道行く人たちは満たちに無関心。ぶつからないように気をつけながら、急ぎ足で歩いている。


「しかし、なんだって今日買うことにしたんだ? 後半に入ればいつでも買いに来れただろうに」


 風斗は頭の後ろで手を組みながら満に問いかけている。


「うん、お父さんがどこかに行こうって言ってるから、予定は空けておきたいんだ。となると、今日買いに来るしかないでしょ?」


「そうか。満んとこは家族旅行に行くのか」


「そうだよ。風斗のところは?」


「俺んとこはダメだった。親父の休みが取れやしないんだよ。サービス業のつらいとこだな」


「そっかぁ。それは大変だね」


 ゴールデンウィークとはいえ、誰もがその日に休みがあるわけではなかった。なんとも世知辛い話である。


「その代わり、来年のゴールデンウィークは出かける約束をしてくれたよ。絶対なにがなんでも休んで旅行だって、今年から気合い入れてるんだぜ。笑えるよな」


「いいじゃないの、風斗。いいお父さんで」


「……まあな」


 笑顔で満に言われてしまうと、笑い話にしようとした風斗は恥ずかしくなって反応に困っていた。相変わらず、満の笑顔の破壊力は凄まじいものだった。


「まったく、なんで赤くなってるんだよ、風斗」


「……うるせえよ」


 まったく、初々しいやり取りである。

 このあとの二人は、無事に書店で目的の本を購入する。

 ただ、二人が購読している漫画の新刊が多かったのか、ちょっと荷物が多そうだった。


「これは……、おとなしく帰った方がよさそうだな」


「そうだね。時間が遅くなっているし、その方がいいよね」


 6時間目までがっつりと授業があった後で買い物に来たのだ。当然ながら時計はもう5時を指そうとしていた。

 あまり遅くなると親が心配するだろうということで、いつもなら本に軽く目を通して帰るところだが、開封しないまま家に帰ることになった。

 いざ帰ろうかとしたその時だった。


「あだっ!」


 満は何かにぶつかってしまい、尻餅をついてしまう。


「大丈夫か?」


「うん、大丈夫」


 風斗が満の手を引いて起こそうとした時だった。


「おいおい、どこ見て歩いてんだよ、ねえちゃんよ?」


 声をかけてきたのは、なんともガラの悪そうな人たちだった。


「おいおい、ぶつかったなら謝れよな?」


「そうそう、詫びをきっちり入れてもらわねえとな」


 ガラの悪そうな人たちが、満に迫っていく。


「あんたら、女の子相手に何やってるんだよ」


「ああっ? ナイト気取りか?」


「ぶつかってきたのはそっちだろうがよ」


 風斗が文句を言うが、こんなことで引いてくれる相手ではなかった。

 じりじりとガラの悪い連中が満たちに迫っていく。


「ちょっと待ちなさい、あなたたち」


 満に男たちの手が伸びる、まさにその時だ。

 颯爽と一人の女性が満たちの前に現れたのだった。

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