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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
304/325

第304話 小さな異変

 その日の夕方、満は目が覚める。

 ゴールデンウィークの夕方は、思ったよりも暖かい。

 目を覚ました満は、体がびっしょり汗をかいていることに気が付いた。


「うっわ、酷い寝汗だなぁ。布団もじんわりと湿気てる。これはたたんでしまえないじゃないか」


 満は全身の気持ち悪さを感じながら、布団の状態を確認する。布団の表面がしっとりとしていて、とてもじゃないがこのままではどうしようもない感じだった。

 仕方なく満はエアコンを動かして、椅子などを使って布団を乾かそうと試みることにした。


「これでよしっと。とりあえずお風呂に入ってこよう。べたべたして気持ち悪いよ……」


 満は着替えとタオルを持つと、お風呂へと向かうことにした。


 一階に降りると、母親に見つかってしまう。


「あら、満。そんなの持ってお風呂かしら」


「うん。どうも寝てる間にたくさん汗かいちゃったみたいでね」


「そうなのね。あら?」


 母親が満の何かに気がつく。


「満、女の子の時って、目は緑色だったわよね?」


「うん、そうだけど?」


 母親の質問に、満は首を傾げている。


「満、充血してるんじゃないのかしら。目が真っ赤よ?」


「えっ?」


 母親の言葉にびっくりして、満は洗面所に急ぐ。

 自分の姿が女の子になっているのは気が付いていたものの、鏡を覗き込んでみると、確かに真っ赤になった目が映っていた。


「なに、これ。まるで吸血鬼みたいな目じゃないか。でも、鏡に映っているから僕は人間で間違いないよね」


 満の鼓動は速くなっていた。

 さすがに目が真っ赤になるというのは予想していなかったので、かなり満は焦っているようである。


(落ち着け、落ち着くんだ)


 満はしっかりと自分に言い聞かせながら、ひとまず汗を洗い流すためにお風呂に入る。

 しっかりと汗を洗い流してさっぱりとした満は、改めて脱衣所で鏡を確認する。


「あ、緑色の目に戻ってる。……なんだったんだろう、さっきのは」


 あまりにもよく分からないことだったので、満は首を捻っている。

 しかし、お風呂上がりのままでいるわけにもいかないので、考え込むのもほどほどにして、服を着て部屋へと戻っていったのだった。


 配信の告知だけ済ませると、満は食事を取ることにする。


「満、よく寝てたな」


「うん、徹夜の反動で寝ちゃってたみたい。見ての通り元気だから心配要らないよ」


「そうかそうか。にしても、満は女になった時の服装が、段々と可愛くなってきてるな」


「えっ、そうかな? こんなものだと思うんだけど」


 父親の指摘に、満はちょっとびっくりしているようだ。

 ノースリーブのブラウスに加え、膝上だけどそれなりの丈のあるスカートである。まだ普通だと思われる格好だ。とはいえ、最初の頃に比べればスカートを平然と穿いているあたり、確かに女性の服装への抵抗はなくなっているようである。


「私が頑張りましたからね」


「ははっ、ははは……」


「もう、お母さんってば。自分の手柄みたいに言わないでよ」


 母親がドヤ顔をすれば、父親は苦笑いをし、満は不満をぶつけていた。


「まあ、満ってば、自分で適応していったのね。ああ素晴らしいわ」


「お、お母さん……」


 さすがに満はドン引きである。

 とはいえど、そういう反応をしながらも、満は自分の適応力の高さには驚かされていた。


(きっと、女性の吸血鬼のアバターを使ってるせいだよね。だから、女の子ってこんな感じなのかなって……って何を思ってるんだ、僕は?!)


 なんだかよく分からなくなってきた満は、顔を真っ赤にして、両手で頬を押さえながら下を向いてしまう。改めて思い直してみると恥ずかしくてたまらないようである。

 母親はその姿を見ながら、おかしそうにくすくすと笑っていた。


「なあ、母さん。満がお出かけに付き合ってくれなくなりそうだから、からかうのはそのくらいにしておいてくれないか?」


「そうですね。せっかくの家族そろってのお出かけですからね。ふふっ、私も楽しみだわ」


 反省の弁を口にしないあたり、本気で反省していなさそうである。困った母親だなと、父親は呆れ返っていた。


「ご、ごちそうさま! 僕、配信があるから、部屋に入ってこないでね!」


「はいはい。頑張ってね、満」


 食器を流し台に持っていった満は、逃げるように食堂を後にしていた。

 父親にほれ見ろという表情をされた母親は、軽く舌を出していた。年齢的に可愛げがないものの、父親は何も言わずにため息をついていた。


 何かといろいろとあったものの、その日の光月ルナの配信では、徹夜で作った動画のことで盛り上がっていた。

 リスナーからのコメントは、やたらと『可愛い』にあふれていた。

 リスナーたちからの反応に嬉しく思いつつも、自分が女性の時はどんどんと可愛い方向に進んでいるのは、この反応のせいかもしれないなと密かに思ってしまう。

 とはいえ、今さらかっこいい真祖を目指せるわけでもないので、満は満足そうに笑って受け入れていた。


 何かとどたばたとした一日ではあったものの、満は充実していたなと満足のうちに配信を終わらせたのだった。

 赤目になっていた現実を、すっかり忘れて……。

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