第298話 ぴょこまい、重大発表
デビューを前にした三月三十一日のこと、黄花マイカと鈴峰ぴょこらは合同で配信を行うこととなった。
「こ、こんばんは、みなさん。黄花マイカです」
「こんばんにゃ~、鈴峰ぴょこらだよ」
『こんばんは~』
『おっ、待ってました』
『SNSにポストにあった重大発表ってなんだ?』
マイカとぴょこらが配信開始に挨拶をすると、普通の挨拶が返ってくる中、一部のリスナーからはなんだなんだといった感じの反応があった。
アバター配信者の動向を気にしている勢は、こういった発表にもかなり神経質になるようなのだ。
「えっとですね。それについてはちょっとお待ち下さいね」
「せっかちのなのは嫌われるにゃよ? 素数でも数えて落ち着くのにゃ」
『素ww数ww』
『ぴょこらちゃん、なんでそんなの知ってんのwww』
マイカは普通に対処しているのだが、ぴょこらは相変わらずちょっとひねくれた反応を見せてくれている。
「明日からはいよいよ新年度ということで、なにかと緊張されている方もいるかと思います」
「そんな人たちのために、あたしたちが少しでも元気になれるようにと、楽しい配信を行わせてもらっているにゃ。みんな感謝するのにゃ」
『ぴょこらちゃん、相変わらずツンツンしてるなぁ』
『でも、なんだか妙に癖になってくる』
『それなー』
二人のトークに、リスナーたちはいちいち反応している。ただ、ぴょこらに対しての反応の方が多そうだ。
「今日は私たちの住む妖精の谷からお送りしております」
「マイカたちがきちんと仕事してるから、今日もお花が満開にゃ。花粉症の人には厳しそうにゃ」
「私たち妖精には花粉症は関係ないじゃないのよ、ぴょこらちゃん」
『裏山す』
『ああ、鼻がむずむずするんじゃー』
花粉症の話となると、リスナーたちの反応はかなりシビアなようだった。
実際杉だのヒノキだの、春先は結構な人たちが苦しめられているのだからしょうがない。
「もう、変にリアル話を持ち込むから、ややこしくなるじゃないの」
「しょうがないのにゃ。現実は厳しいのにゃ」
「せっかくお弁当作ってきたのに、ぴょこらちゃんにはあげませんよ?」
「それは困るのにゃ」
『ペースはぴょこらちゃんが握っているけど、胃袋はマイカちゃんが握ってるのは草』
『ああ、このやり取りが幸せだ』
リスナーたちは花粉症の話で殺伐するかと思われたが、意外とほんわかとしているようだった。
画面にはマイカが作ってきたとされるお弁当が登場する。
小道具の登場に、リスナーたちはちょっとびっくりしているようだ。
『おおう、また気合いの入ったモデルだな』
『ブイキャスも小道具に力を入れてきたなー』
お弁当の画像が出てきて、リスナーたちはなんだか真剣になっているようである。
「ちなみに、本当にリアルにマイカの差し入れはあるのにゃ。バレンタインの頃には、みんなにチョコレートを配っていたのにゃ」
「ちょっと、ぴょこらちゃん!」
リアルな話をばらされて、マイカは慌てた反応を見せている。
『裏山す』
『ああ~、てえてえ』
『マイカちゃんは家庭的か~』
リスナーたちはなぜかさらにほのぼのとし始めていた。
「おほん。のんびりピクニックをしながらですが、本日、私たちからは重大な発表があります」
「告知していた通りの重大発表をするのにゃ」
『なんだなんだ』
『なんか流れ変わったな』
前置きが面倒なことになりそうだったので、マイカは話を切り替えることにしたようだ。
「リスナーのみなさまは、私たちVブロードキャスト社のアバター配信者のアイドル路線のことはご存じかと思います」
「この間、雑誌に載ってたからにゃ」
マイカの振りに、リスナーたちはぴょこらと同じ反応をしている。
「実はこのアイドル路線、私たちが選ばれまして、明日四月一日にデビューすることとなりました」
「今日の配信は、実はその告知のための配信なのにゃ。ユニット名はひねりがないにゃ」
『ふおおおおっ!!』
『mjk』
『ついにアイドル路線が始動したのか』
『新時代突入やな』
リスナーたちのコメントが急に活発化する。
どうやらリスナーたちは、あの雑誌発表があってからだいたい予想はしていたようなのだ。その通りにマイカとぴょこらの二人がデビューと聞いて、ついつい舞い上がっているようなのである。
「はい。つきましては、日付が変わりましてすぐに、歌唱とMVの発売が始まります。どのようなものかは実際に配信が始まってからのお楽しみですね」
「MVに関してはVブロードキャスト社のPASSTREAMERのページにアップされるのにゃ。そこでしっかりと見てほしいのにゃ」
『了解にゃ!』
『うおお、楽しみだぜ!』
『ぴょこまい万歳』
「ユニット名は『ぴょこまい』なのにゃ。見つからない時はそれで検索してほしいにゃ」
短い前置きから衝撃のアイドル活動の発表である。リスナーたちのコメント欄はしばらくの間お祭り騒ぎになっていた。
「ふふん、購入者特典もたっぷり用意したにゃ。あたしたちは頑張ったにゃ」
「はい、頑張りましたよ、本当に」
むふんと胸を張るぴょこらに対して、マイカはほっとした表情で胸を撫で下ろしていた。
ずいぶんと大きな発表だったわけだが、意外なほどにいつもの配信くらい落ち着いた雰囲気で終わることができた。
アバター配信者アイドルユニット『ぴょこまい』はどのくらいの数値をたたき出せるのだろうか。
デビュー曲の配信まで、すでに半日を切っていたのであった。