表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
296/321

第296話 別れと旅立ちの春

 翌日の夜、光月ルナと真家レニの配信は無事に終わることができた。

 いつものように『SILVER BULLET SOLDIER』を一緒にプレイしたり、いろいろとトークをしたりと、配信はかなり盛り上がったようである。


『いやあ、今日のルナちは普段通りやな』


『せやな、昨日はなんかおかしかったから、心配になってもうたで』


『風邪でも引いたかと心配になっちゃった』


『まあ、可愛かったから満足だったけどね』


 配信も終わりに近づいてきた時には、リスナーたちからはこんなことを言われる始末である。

 自分の配信だというのに、話題が光月ルナばかりなものだから、真家レニはちょっとリスナーたちにお小言を言うこともあった。

 それでも終始ほんわかだったのは、二人だからこそだろう。

 最後の最後には、真家レニと光月ルナのツーショットイラストを描き上げて締めくくられたのだった。


 ―――


 配信の翌日、小麦は段ボールにパソコンを詰め込んで、緩衝材でガッチガチに固めて封をしていた。

 三年間付き合ってきたパソコンも、大学生活で過ごすマンションに連れていくためだ。


「なんだかんだで、この家と離れるのは寂しいかな。大学卒業したら、また戻って来れるかな?」


 小麦は自分の部屋の中を、しみじみとした様子で眺めている。

 なんといっても、自分が育ってきた部屋なのだ。長年連れ添った相棒との別れというものは、普段明るく振る舞っている小麦にとってもつらいようだった。


「小麦、そろそろ業者が来るぞ。運ぶものは全部玄関に持ってきてくれ」


「はーい、パパ」


 父親に呼ばれた小麦は、パソコンの入った段ボールを抱えて一階へと降りていく。

 結構重たそうな箱ではあるものの、小麦は根性で一人で運び終えていた。さすがは退治屋の娘といったところだろうか。かなり怪力のようである。


「お前、一人で運んだのか。言ってくれれば手伝ったのに」


「にししっ、コンビニバイトで鍛えてるから、このくらいへーきへーき」


 父親が困ったように話しても、小麦はただ笑うだけだった。

 しばらく待っていると、引越業者がやって来る。


「お邪魔します。ご依頼を承りましたハチさんマークです。引っ越しの荷物をお預かりに来ました」


「ああ、ご苦労さまです。玄関まで運んでありますので、よろしくお願いします」


「畏まりました」


 段々と荷物がドラックに積み込まれていく。パソコンに服など、たくさんの荷物が積み込まれ、あっという間に玄関はすっからかんになってしまった。


「それでは、指定頂いた場所にご希望の時間にお届けに上がります」


「はい、お願いします」


 荷物を積み込んだトラックは、小麦の家から走り去っていった。

 それが終わると、今度は自分たちの番である。


「さて、私たちも出るとしようか」


「そうだね、パパ」


 トラックに同乗しなかった小麦たちは、貴重品などだけを持って車に乗り込もうとする。

 ところが、そこに思わぬ来客がやってきた。


「小麦……さん!」


「へっ、ルナち?」


 やって来たのは満だった。今日は女性の姿で現れている。


「おや、確か空月さんのところの満くんだったね。小麦とは仲良くしてくれてありがとう」


 父親はすぐに誰か分かって言葉をかけている。


「お世話になったのは僕の方ですよ。小麦さんがいたから、僕はアバ信になる決心をしたんですから」


「そうなのかい、小麦」


「うん、そうだよ。満くんは元々レニちゃんのファンなのだよ」


「なるほどね」


 受け答えで納得する父親である。


「それで、憧れの真家レニの中の人である小麦が引っ越すから、わざわざお見送りに来てくれたんだね。そこまでしてくれるとは、よっぽどなんだね」


「はい、僕の憧れですから。新しい門出の出発は、きちんとお見送りしなきゃと思ったんです」


「ありがとう、満くん」


 体の後ろで手を組んで、嬉しそうに小麦ははにかんでいる。


「ルナちが言っていた通り、気軽に会えなくなるのは寂しいけど、だからといって永遠の別れってわけじゃないんだ。また、レニちゃんと交流しようね」


「はいっ」


 小麦の言葉に満が返事をすると、小麦は満に近付いて、きゅっと抱き締めていた。


「わわっ、小麦さん?!」


 おとといの花見の散歩の時に続いて、いきなりの行動に驚かされる満である。

 小麦の思わぬ行動に、父親も気が気でないようだ。


「ちょっと小麦、やめなさい」


「いいのよ、今は女の子同士なんだから」


 小麦は父親にこう言って舌まで出して反抗している。これには父親もやれやれである。


「それじゃ、満くん、ルナち。私たちはそろそろ出かけるね。長期休み、戻って来れるようだったら戻ってくるから、その時を楽しみにしててよね」


「はい、分かりました。また会える時を楽しみにしてます」


「うんうん、よしよし」


 満の返事に、小麦は満足そうに笑っていた。

 そうして、満が見送る中、小麦は父親の運転する車で新しい住居へと向かうことになる。

 最後にもう少しだけ言葉を交わすと、車は細い道を走り去っていった。


 かなり進んで高速道路に入ると、小麦はつい下を向いてしまう。


「……思ったよりつらいなぁ。私に憧れてくれた子と別れるのって、こんなにつらいんだね……」


「小麦も、彼にはだいぶ惹かれてたんじゃないのかな。パパがママに惹かれたようにね」


「そっかなぁ……。その辺はよく分からないかな。満くんはルナちでもあるし、どっちに惹かれてるんだろうな」


 小麦は腕を組んで悩み始めてしまった。


「まあ、いずれ二人は分離するだろうし、その時になったら答えは出るかもしれないな」


「うん。そうだといいな」


 どうもすっきりしない気持ちを抱えた小麦ではあるものの、今すぐ答えは出なさそうだった。

 父親の言う通り、時が経てば解決するだろうと、新生活に向けてひとまず気持ちを切り替えることにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ