第294話 復活配信
春休みに入った26日のこと。
スマートフォンを見た満は目を丸くしていた。
『レニちゃんからのお知らせ
本日より活動再開させます
レニちゃんねるに集合だぞ☆
#アバ信 #レニちゃんねる』
真家レニの活動再開を知らせる書き込みを発見したのだ。
すでにリポストやいいねがなどが大量についており、満も遅れてなるものかとポチポチとスマホを操作していた。
活動休止から二か月半少々である。それだけ待ち望んでいた人がいるということなのだろう。満だってその一人だ。なにせ、満がアバター配信者を目指したきっかけが真家レニなのだから。
(ああ、レニちゃんの配信が見られるんだぁ……)
満はスマートフォンを抱きしめたまま、しばらくその場で立ち尽くしていた。
余韻をひしひしと感じながら、満はパソコンを立ち上げる。今日はさっきまで母親と出かけていたので、パソコンの電源は落としてあったのだ。
早速PASSTREAMERのページを表示させると、メッセージがついていた。
『Wルナちへ
お祝いありがとう
今日から配信を再開させるので、ぜひぜひ見てみてよねー☆
それとルナち、あさって金曜日、余裕あるかな
大丈夫だったら金曜日、一緒に配信しようね☆
再開一発目の配信、楽しみに待っててよね、にししし』
真家レニからの返信とお誘いだった。
文面を見ただけで、真家レニが喋っている声が聞こえてくる気がする満である。
「そっかぁ」
ほっと胸を撫で下ろす満だったが、そうもしていられなかった。
真家レニの配信開始まで三時間くらいだ。このあとはお風呂と夕食なので、用事を済ませている間に配信時間になってしまう。なので、満は慌ててメッセージに返信を出すことにしたのだった。
そして、迎えた夜の九時である。
「こんばんれに~。久々のレニちゃんだぞ☆」
『こんばんれにー』
『こんばんれに~』
『ああ、この声、なんかクセになる』
『なんだかんだいってても、やっぱレニちゃんの声はたまらんね』
「にしししし」
真家レニの声に、リスナーの一部がすでに癒されているようだった。
『レニちゃん、結果はどうだったん?』
休止前に受験の話を聞いていたリスナーが心配そうに質問をしているようだ。
『おい、KY』
『そういうデリケートな話はNGぞ』
一部のリスナーからすぐに注意が入る。
『うっ、すまない』
『謝れてえらい』
『うっかりやろうけど、次から気をつけるんやで』
真家レニをよそにリスナーたちだけでひとまず解決してしまったようである。
「にししし、気にしている人が多いみたいだねー?」
ところが、真家レニはあまりに気にした様子ではないようだ。笑って済ませている。
「えっへん、受験なら見事合格したのだよ。本格的に講義が始まったら、また頻度は落ちるけど、レニちゃんの応援は変わらず頼むのだ。わっはっはっはっ!」
なんとも精神が図太いものである。
「でも、これ以上はさすがに個人情報だから、やめてほしいかな。せっかくサプライズ仕掛けようと思ったのにやめなきゃいけなくなるからね」
『なになに、気になる~』
「サプライズだから、教えないのだよ、にししし」
なんとも軽快なやり取りである。
「さて、今回は久しぶりの配信なので、肩慣らし的にイラストを描いていくのだ。何を描いているのか、当てられるかな~?」
真家レニはそういうと、早速お絵かきソフトを立ち上げて、配信画面に映し出す。端っこにはちゃんと真家レニの姿も映ったままだ。
早速描き始めるものの、相変わらずどこから描いているのか分からない。
『だwかwらw描wきw順wwwww』
『休止しててもレニちゃんはレニちゃんだったわwww』
『ブランクなんて関係なかったんや』
『合格祝い ¥10,000』
『この変態技巧、何度見ても惚れ惚れ ¥12,000』
真家レニがイラストを描いている間に、どんどんとスパチャが投げ込まれていく。
「レニちゃんの完成ですよ~☆」
『おお、いきなり自画像からきたか』
『何度見てもうまいな~』
『相変わらずとんでもないところから描き始めるけど、それでちゃんと絵になってるから怖いんよw』
絵を描いているだけだというのに、相変わらずの技術のせいで大盛り上がりである。
今回は特別といわんばかりに、真家レニはさらに二枚ほどイラストを描き上げていた。
「そんなわけでして、復活一発目はこのくらいにしておこうかな」
やり切ったといわんばかりに、真家レニは汗をぬぐう仕草をしている。
『レニちゃんのお絵描きを見られてよかった』
「にししし。描いたイラストはいつものようにPAICHATに上げておくから、またゆっくり見てほしいな☆」
『おk』
『助かる』
『ペイチャットの垢、作るか・・・』
真家レニのイラスト配信の定番のセリフを言うと、珍しい反応も見られた。どうやらご新規さんもいたようだった。
最初にちょっと不穏になりかけたものの、終始和やかな雰囲気なのが真家レニの配信なのである。
「それじゃ、今日はこのくらいで終わり。またれに~」
『おつれに~』
『おつれにー』
こうして、無事に真家レニの再開一発目の配信は終わったのだった。
本当にサプライズらしく、光月ルナとの共同配信について、結局ひと言も触れることはなかった。きっちりするところはきっちりする、それが真家レニなのである。
ひとまずちゃんと配信が終われたことに、満もひと安心したのだった。