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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第291話 香織の新たなる決意

 月曜日、風斗は香織に声をかけていた。


「おう、花宮。ちょっといいか?」


「なによ、村雲くん。何の用なのよ」


 風斗の雰囲気を感じ取ったせいか、香織はちょっと警戒した様子を見せている。

 それというのも、風斗が今まで香織に対して声をかけてきた時というのは大体話題が限られていたからだ。なので、今回も身構えてしまっているのである。


「まだ声をかけただけなのに、なんでそんなに警戒してくれるんだろうな。とりあえず、俺の家に来てくれないか?」


「……分かったわ」


 香織は警戒しつつも、風斗からのお誘いを断らなかった。

 もしあの話だとしても、風斗が相手なら問題のない結果になるだろうと判断したのである。

 そうして、放課後。香織は風斗の家までやって来たのだった。


「で、これのことについて聞いてもいいか?」


 風斗が見せてきたのは『月刊アバター配信者』である。満の買ったものとは別に、風斗もこっそり購入したのである。

 その風斗が開いているのは、Vブロードキャスト社の社長インタビューの紙面だった。風斗に見せられて、香織は驚いている。


「えっ、社長さんってばいつの間に?!」


 香織の驚き具合に、風斗の方が驚いている。

 それもそうだろう。風斗はてっきり香織はこの話を知っていると思っていたからだ。


「なんでお前が驚いているんだ? てっきり知ってると思ったんだがな」


「えっ、これは知るわけないでしょう」


 二人が言い合っているが、なんだか微妙に雰囲気が違っているようだ。


「はあ? アイドル化路線のことを知らないわけないだろう?」


「えっ、それのことを言ってるの? 違うわよ、社長さんが取材を受けていたって話よ、私が言っているのは」


「へっ?」


 香織に突っかかろうとして返ってきた答えに、風斗が困った顔で固まっていた。

 どうやら二人の疑問点が完全にずれていたようである。


「私は、森さんたちからこの話を聞いているわよ。守秘義務があるから細かいことは言えないけれど」


 香織は風斗の疑問に答えられる範囲で答えている。だが、本来ならこの程度でもアウトである。


「そうか、てっきりアバ信たちに内緒で進んでいて、急に発表したのかと思ったぜ。知ってるならいいや。悪かったな、怒鳴っちまってさ」


「ううん、いいよ。謝ってくれたなら、私はこれ以上は怒らないから」


 話に決着がつくと、あっさりと和解してしまう二人である。さすがは幼馴染みの友人といったところだろうか。


「それにしても、アバ信ってのも大変なんだな。こういうこともやらなきゃいけなくなってきたのか」


「個人でもできるし、かなり世の中にあふれているからね。社長って結構アグレッシブな人みたいだから、あれこれ言ってみんな振り回されてるみたい」


「それはまた……大変だなぁ……」


 香織の話を聞いて、風斗は呆れた表情を見せていた。


「と、とにかく今の話はみんな口外しないでね」


「分かってるって。俺も花宮のことは応援している身だ。邪魔する気なんてのはねえよ」


「も、もう。村雲くんったら……」


 思わず照れくさそうになってしまう香織である。


「花宮は、満に負けたくないもんな。これからも頑張れよ」


「もう、村雲くんってば!」


 風斗が白い歯を見せながら、親指を立てていうと、香織はつい風斗のことをぽかぽかと叩いてしまう。

 この時の香織の仕草がおかしくて、風斗はますます笑ってしまっていた。


 風斗の家から解放されて、自分の家に戻った香織は、自分の部屋のベッドに制服のままごろりと転がる。

 うつぶせになったまま、なにやら悶々と考えごとをしているようだ。


「アイドル路線、インタビューで表に出ちゃったのかぁ……。この分だと、近いうちにデビューっていうことになるのかな」


 ごろんと寝返りを打って、今度は天井を見上げている。


「ぴょこらちゃんとのユニットデビューに向けて、練習を重ねているけど、まだまだ自信がないなぁ……。私、アバター配信者としてやっていけるかな」


 香織はずいぶんと思い悩んでいるようである。

 何でもかんでも結構すんなり吸収してしまうぴょこらに対して、あまりのみ込みがよくないことが、香織の中ではかなり引っかかっているようなのだ。


「一応、四月になったらデビューという話にはなっているから、なんとしても頑張らなくっちゃね」


 一度目を閉じて、落ち着かせるように深呼吸をする。

 ガバッと体を起こすと、香織は気合いを入れていた。


「諦めるのはまだ早いわ。なんとしてもぴょこらちゃんと一緒に、このプロジェクトの第一弾として成功を収めなくっちゃ!」


 決意を新たにすると、今度はベッドからも飛び起きる。


「満くんにだって負けないアバター配信者になってやるんだからな。香織ー、ファイト、オー、ファイト、オーッ!」


 ふんすと鼻息荒くして宣誓をした香織は、ようやく落ち着いて服を着替え始めた。


 黄花マイカとしてデビューしてからもう一年以上が経った。

 アバター配信者の新たなステージに、香織はこの春立つことになる。

 はてさて、香織は無事にアイドル路線の初陣を飾ることができるのだろうか。

 あとひと月となった準備期間。香織は今まで以上にレッスンに打ち込んだのであった。

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