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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
289/321

第289話 超絶技巧のバレンタイン配信

 香織たちとホワイトデーの約束をした日の夜、満は光月ルナの配信を始める。

 一日遅れながらだが、バレンタインの配信を始めるためである。


「おはようですわ、みなさま。光月ルナでございます」


『おはよるな~』


『おはよるなー』


 満がいつものように挨拶をすると、リスナーたちからもいつもの挨拶が返ってくる。

 この一体感には、満も満足しているようである。


「本日の配信は、一日遅れではございますが、バレンタインデーの配信でございますわ」


『ルナチョコたすかる』


『ルナちのチョコほちいっ!』


『またあの変態技術を見られるのか!』


『よせよ、照れるぜ』


 バレンタインのチョコということで、みんなが激しく反応している。

 変態技術というのは、世貴が仕組んだこのヴァーチャル空間の処理のこと。

 湯煎をすればチョコレートは溶けるし、テンパリングに失敗すれば白い斑点の浮き出たチョコレートができ上がる。

 ヴァーチャル空間に突如として出現する、とんでもリアルの世界なのである。


(まったく、世貴兄さんってばまた配信を見に来てる……)


 そして、当然のように出没する世貴。

 技術関連の話となるとすぐに反応するので、世貴を見つけるのは非常に容易なのだ。


「それでは、厨房に移動致しましょう」


 満はそう言って指を鳴らすと、背景はあっという間に光月ルナの屋敷の厨房へと切り替わる。

 まったく、なんて演出を思いついてくれたのだろうか。


『ルナちも粋な演出をするようになったなぁ』


『一年半もやって来て、それだけ慣れたってことなんやな』


『あかん、子どもの成長を見守る親の心境や・・・』


 リスナーたちがいろいろと反応している。そのせいで満はちょっとおかしくて笑ってしまう。


「本当に、みなさまときたら、愉快な方々たちばかりですね。でも、そんなみなさまだからこそ、僕もアバ信を続けられているというものですわ」


『ルナち、ええ子やぁ・・・』


『感動した』


 なんともほっこりするコメント欄である。


「それでは、そんなみなさまのためにチョコレートを作りましょう。材料は冷蔵庫などに入っていますので、取り出しますわね」


 満はごそごそと必要な材料や道具を取り出していく。

 この辺りの演出も実に細かい。本当にリアルの厨房を見ているような感覚になってくる。


 最初にまな板の上に乗せたチョコレートを包丁で細かく刻んでいくのだが、包丁が当たるたびにちゃんとその部分のチョコが切り刻まれていく。


『どうやったら、こんな処理をできるんや?』


『わいだってプログラム習っとるけど、こんなん無理や・・・』


『おう、もっと褒めろ』


『うわっ、出た』


 技術に驚き、世貴が登場して笑いを誘う。相変わらずのリスナーたち。その間も満は真剣にチョコレートの調理を進めている。

 湯煎にかけてチョコを溶かし、あれこれ加えながら混ぜ合わせ、型に流し込んで固める。

 その動作は実に手慣れたもので、見ているリスナーたちは息をのんで見守っていた。


「さあ、あとは冷えて固まるのを待つばかりです。その間、リスナーのみなさまからの質問に答えて参りますわ」


『おっ、ええやん』


『どきどき・・・』


 リスナーたちの間に緊張が走る。


「やはり、配管工レーシングの世界大会を見てらした方が多いようでして、僕のリアルについての質問が少し多かったですね」


『おまいら、自重汁』


『アバ信のリアルは神秘に包まれるべき』


「はい。ですので、リアルについての質問はバッサリお断りでございますわ」


『ですよねー』


 満は前置きをした上で、届いた質問に答えていった。


「……とこんなところでしょうか。そろそろ冷え固まって完成だと思いますので、取り出してみましょう」


『冷却処理まで完備とは、本当に恐れ入る』


『ルナちのパパ、本当に頭おかしい(褒め言葉)』


 リスナーたちが盛り上がる中、満は厨房の冷蔵庫から完成したチョコレートを取り出す。

 そして、よく見えるように傾けて画面に近付ける。


『ふおおおおっ!!』


『これはやばい』


『ルナちの彼氏に生まれたい人生だった・・・』


 チョコレートを見せた瞬間、リスナーたちがバタバタと大ダメージに倒れていく。


『うん、俺の技術もそうだが、それを扱うルナちの技量あってこそだな』


『ホンマにそうな・・・』


『ルナちのパパの技術もそうやけど、確かにそれを使いこなしてるルナちも大したもんよなぁ』


「僕は普通にしてるだけですよ」


 満は思わず反論してしまうが、それが難しいんだとリスナーたちから諭されてしまう始末だった。


「それでは、そろそろお時間もよろしいようですわね」


『うえっ、もうそんなに時間たっとったんか』


『早すぎる・・・』


 時計を見てリスナーたちはびっくり仰天である。

 いつものセリフをワンクッション挟み、満はいつもの挨拶にちょっと変化を入れて動画を締めくくる。


「うふふ、それではみなさまに幸ありますように。それでは、ごきげんよう」


『おつるな~』


『おつるなー』


 こうして、光月ルナの一日遅れのバレンタイン配信は終わりを告げたのだった。

 ただ、直後からポストされた切り抜き画像などがバズリまくり、光月ルナの名はしばらくトレンド上位に居座り続けたのだった。

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