第284話 気になるお年頃
三学期が始まる。
今年はだいぶ冷え込んでいるので、新学期の満はかなり重装備だった。
「ふぅ、新学期の初日を男で迎えるのも、なんだか久しぶりだなぁ」
「はあ、ちょっと残念」
「ちょっと、お母さん?!」
男の制服に身を包んでしみじみとしている満は、母親の言葉に思わずツッコミを入れてしまう。
「もう、僕の本来の姿見ながらそう言うのはやめてよね。それじゃ、行ってくるから」
「うん、行ってらっしゃい」
苦笑いを浮かべる母親に見送られながら、満は学校へと向かっていった。
学校に向かう途中で、満はばったりと風斗と出会う。
「おう、満。なんだかちょっと元気がないな」
「おはよう、風斗。うん、ちょっとお母さんの反応がね……」
風斗の呼びかけに反応する満。その姿を見た風斗はなんとなく察してしまう。
しかし、下手に言っても満が傷つきそうなので、風斗は何も言わずにポンポンと満の背中を数回叩くだけにしておいた。
「それにしても、春には俺たちもいよいよ中学三年生。受験生になるんだな」
「そういえばそうだね。受験生ってどんな感じなんだろうね」
風斗の言葉に、満はふと疑問をぶつけてみた。
「ああ、世貴にぃと羽美ねぇに聞いてみたけど、高校受験の段階だと、普段とあんまり変わらないらしい」
「へえ、そうなんだ」
満は意外だなという顔を向けていた。
「ただ、大学受験はちょっと違ったみたいだな。二人とも希望する大学に行くために無茶苦茶頑張ったらしいからな。興味あること以外ほとんど適当だっただけにさ」
「ああ、なんとなく分かる気がする……」
「おっと、いろいろ聞いた話をしてやりたいとこだが、どうやら学校に着いちまったみたいだな。あとはまた放課後にでも家に行って話をするぜ」
「うん、分かった」
校門をくぐったところで、二人は会話をさっさと打ち切ってしまっていた。
世貴や羽美に関した話だと、おそらくいろいろと秘密にしている部分にも触れてしまうからだろう。特に満がアバター配信者光月ルナだということは知られてはいけないから、しょうがない部分はあるというものだ。
そんなわけで、二人は黙々とそれぞれの教室へと向かっていった。
放課後を迎えると、一度それぞれ家に帰っていく。服を着替えてから満の家に集合となった。
「で、なんで花宮までいるんだ?」
風斗は家に訪れた香織を見て、なぜか嫌そうな顔をしている。
「ダメかな。クラスにちょっと話したら、一緒に聞きたくなったみたいでね」
「もう、幼馴染みなんだから、そういうこと言わないでよね、村雲くん」
嫌そうな反応をしている風斗に、香織は露骨に不快感を露わにしていた。
「しょうがねえな。幼馴染みなんだし、邪険にするのは確かにおかしいか……」
風斗はそう言って、香織が一緒に話を聞くのを認めたようだった。しかし、さっきの風斗の態度は一体何だったのだろうか。
話がまとまったので、満の家に入っていく風斗と香織。
「おばさん、お邪魔します」
「お邪魔しますね」
「あら、風斗くんと香織ちゃん、いらっしゃい。ご飯は食べたの?」
「あ、まだです」
二人を出迎えた母親の質問に風斗がそう答えると、満の母親はにまっとなんとも気持ち悪い笑顔を見せる。
「お母さん、普通のお昼でいいからね? 変に凝ったの作らないでね?」
「分かっているわよ、満。まったく心配性ね」
「いや、だったらさっきの笑顔は何って話なんだけど?」
「うふふふふ」
満が困り顔を見せると、母親は笑ってごまかしながら今に姿を消していった。
何もないといいなと、ちょっと不安に思いながら満は二人を連れて、自分の部屋へと向かっていった。
「まっ、いろいろ思うところはあるけど、高校は順当に市立の高校でいいかな」
「そうだね。私立だとお金はかかるし、三人離れ離れになっちゃうもんね」
「そうよね。高校生だと、あまり友人たちと離れたいって思わないもの。私だって、二人や友だちと離れるのは嫌だと思ってるもの」
どうやら三人の方向性としては、みんなで一緒の高校に行こうねということでまとまったようである。
このくらいの年齢だと、離れ離れになるということがあまり想像できる環境にいないので、ある程度仕方のないことだろう。
「それじゃ、受験の話はこのくらいにしておくか」
「そうね。時期が近付いてきてからまた悩みましょう」
風斗と香織はあっさりと打ち切ってしまったようだった。
「満ー、みんなー。ご飯できたわよー」
「あっ、お母さんの声だ」
下から母親が呼ぶ声が聞こえてくる。時計を見ればちょうどお昼時を指しているようだ。
立ち上がって階段を降りていく三人は、満の母親の用意したお昼ご飯をしっかり堪能していたようである。
これで帰るかと思ったのだが、香織が何を思ったのかもうちょっと話していこうというものだから、結局夕方になるまで三人であれやこれやと話をすることになってしまったのだった。
「あー、久しぶりにたくさん話をしてすっきりしたわ」
「そういえば、ちっちゃい頃はよくこんなことしてたっけかな」
「そうだね。なんだか懐かしかったよ」
話をしながら、互いに笑顔を向け合う三人。
同じ高校に通うことを確認し合うと、それぞれの家へと帰っていったのだった。