第282話 元日衝撃配信
「あけおめれに~」
『あけおめ~』
『あけおめだよー』
真家レニの挨拶に、テンションの高いリスナーの挨拶を返している。
「いやぁ、あっという間に年が明けちゃったね。ことよろだよ~」
『ことよろー』
『ことよろ~』
挨拶をすれば、さらっと挨拶が返ってくる。なんともテンポのいいことだろうか。
「レニちゃんはいよいよ受験ということで、この元日配信を最後にしばらく休止することになるよ。SNSでも後で伝えるね」
『それはさみしくなるなぁ』
『レニちゃんのハイテンション配信、すっごく楽しみだったのにな』
「うんうん、そう言ってもらえると嬉しいことだね」
真家レニはとても嬉しそうに話をしている。
「さて、今日の元日配信は、なんと共同配信者をお招きしているのだぁっ!」
『な、なんだってー!>Ω ΩΩ』
『一体誰なんだー(棒)』
「おやおや、その様子じゃあ、みんな勘付いてるっぽいな。それじゃ、早速あちらさんを訪問しようかな。えいっ!」
真家レニはなにやらぽちっとボタンを押すような動作をする。
すると、真家レニの配信の背景ががらりと変化を起こす。次の瞬間表示されたのは、なんとも見慣れた光景だった。
『この背景は!』
「あけましておめでとうございますわ、光月ルナでございます」
『やっぱりルナちじゃないかー、やだー』
『てか、ルナちの衣装を見てみろ、振袖だぞ』
『あ、ホントだ』
『おう、俺と妹がやってやったぜ』
『うわっ、でたっ』
画面に現れた光月ルナの服装に、リスナーたちは大盛り上がりである。
それと同時に、やっぱりモデラーである世貴が出没して、リスナーたちは大爆笑である。
「いいなぁ、ルナち。たくさん衣装用意してもらって」
「本当に、パパとママには感謝しておりますわ。このような複雑なものを簡単に作り上げてしまうとは、僕も怖くてたまりませんけれど」
『おーい、真祖に怖がられてるぞー(笑』
『最高の褒め言葉だぜ』
『ダメだ、強すぎるwwwww』
まったく、世貴のメンタルは強すぎるというものである。
「まだお披露目したいものはあるのですが、真家レニ様、構いませんか?」
「どぞどぞ。今日はレニちゃんの話題はほとんどないから、遠慮なんていらなのだ」
「分かりましたわ。では、クロワ、サン、おいで」
光月ルナが声をかけると、クロワとサンが召喚される。その姿を見てリスナーたちはぶったまげている。
『クロワとサンが、着飾っている?!』
『てか、サンって女の子やったん?!』
リスナーたちがサンの姿を見て、とても驚いているようだった。
そりゃまあ、ゴスロリ風の振袖なのだから驚くのも無理はない。
『クロワはかっけえな。柴犬だから余計カッコよい・・・』
『これだけバリエーションの多いアバ信も珍しいよな』
『ホントにな』
「むむむ、レニちゃんも活動再開の際には新衣装を作ってやるんだから」
光月ルナの衣装に、クロワとサンの新しい姿まで見せつけられては、真家レニは対抗心を燃やすしかなかった。
『モデリングの依頼なら受けるよ。分からないことはルナちにツールで聞いてくれ』
『宣伝まがいなこと言うと、俺がBANされちまうから、これ以上はやめとくぜ』
『それが賢明やな』
営業しかけて、世貴はぐっと思いとどまったようである。まったく、危ない橋を渡りかけたものだ。
「それは、真家レニ様」
「なに、ルナち」
「餅つきをしましょう」
「ふえ?!」
『ふぁっ?!』
光月ルナから飛び出た言葉に、真家レニもリスナーもびっくりしている。
「はい、この通りでございます」
光月ルナがぱちんと指を鳴らせば、部屋の中に杵と臼、それと湯気が立ち上るもち米が現れた。
「この通り、お餅でございます」
『ほ ん ま や』
『これも作ったんかぁ・・・、オソロシス』
『まあおまけみたいなもんだけどな』
『おwまwけw』
『いよいよ頭おかしくないか?』
リスナーたちが盛り上がっている間に、光月ルナと真家レニがお餅をつく準備をしている。
「僕がつきますので、真家レニ様は混ぜて頂けますか?」
「おっけー、任せといて」
光月ルナは杵の先を水につけて、思い切り振りかぶり。
「わっとっとっと・・・」
ところが、振り上げた勢いがよくなかった、満の姿勢は大丈夫だというのに、画面内の光月ルナは勢いでよろめいている。
おそろしいものである、世貴の物理演算は。
「おほん、失礼しました。では、気を取り直して、ぺったん」
「はい、ぺったん」
なんともほのぼのした餅つきが始まった。あまりにも奇妙な絵面ではあるが、リスナーたちもこれには思わずほっこりである。
『この画面、永久保存してえ・・・』
『はあ・・・尊い・・・』
『元日からキュンってしたわ』
最後にはついたお餅をきれいに丸く仕上げて、さらには七輪で焼き始めていた。
餅がぷくーっと膨らんでいる様子も再現されており、最後まで衝撃ばかりが走る配信となったのだった。
「それでは、本日はそろそろお開きに致しましょう。みなさま、本年もよろしくお願い致します」
「レニちゃんも無事に再開できるように頑張るので、応援よろしくだよ☆」
「それではみなさま、ごきげんよう」
「おつれに~☆」
『おつれにー』
『おつるな~』
『レニちゃん、ガンバやで!』
こうして、今年の元日の配信も賑やかなうちに終わったのだった。