第281話 チームルナ
ゆっくり寝ていようとしていた満だったが、昼過ぎに予想外な来客を受けてしまう。
「よう、満」
「なんだよ、風斗……って、世貴兄さん、羽美姉さん?!」
「やっ、会うのはアバ信コンテスト以来だな、満くん」
「ちょっと、誰よ、この美少女!」
満の家に風斗に加え、なんと世貴と羽美の二人までやって来ていた。一体どういうことなのか理解が追いつかなかった。
「いやあ、今年は実家に帰ったんだが、両親がいとこに会いたいだろうっていきなり出かけることになってね。今は風斗の家にお邪魔してるところなんだよ」
「そ、そうなんですね……」
「ちなみに、両親は爆睡中さ。まったく年が明けてから酒盛りしてるもんだからさ。起きてたおばさんに追い出されて今に至るってわけだよ」
「ははは……」
世貴の言い分に、満はただただ苦笑いである。
「ちょっと、この美少女は誰かって聞いてるのよ。答えてよ、世貴、風斗」
羽美が騒いでいる。
羽美とルナの状態の満が会うのは、確かに初めてである。
長い銀髪に緑色の目。長袖のタートルネックにもこもこのワンピースを着て黒のタイツを履いた美少女がいたら、それは驚くというものだ。
「羽美姉さん、信じられないと思うけれど、僕が満なんだ。ちょっと理由あって、こんな風に女の子になっちゃうこともあるんだけどね」
「……はあ?」
信じられないといった顔をしている。
「信じられないって顔をしてる……。無理もないとは思うけれど、ちょっとショックだな。今日はレニちゃんとの合同配信で、振袖披露しようと思ったんだけど、やめようっかな」
「むむむっ……。配信、振袖……。本当に満くんなの?!」
驚く羽美に対して、満はこくりと頷く。
「うわぁ、本当にただの美少女ないのよ。これって本物?」
「ひゃう! ど、どこを触ってるんですか!」
羽美が急にとんでもないところを触ってくるものだから、満は思わず変な声を出してしまっていた。
「もう、風斗と世貴兄さんがいる前でそんなことをしないでくださいよ……」
「ごっめーん」
てへぺろと謝る羽美。
「それはそうと、明けましておめでとうございます。昨年は大変お世話になりました、本年もよろしくお願い致します」
羽美の行動に正直言ってまだ気がおさまらない満だが、新年の挨拶をしっかりとしておく。
「おう、あけおめだぜ」
「あけおめ、満くん」
「あけましておめでとう。今年も全力でバックアップするぜ」
「ありがとう、世貴兄さん」
満たちが話をしていると、家の中から満の両親が出てきた。
「おや、風斗くんたちじゃないか。あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます、おじさん、おばさん」
「まあまあ、満と一緒に初詣でも行くつもりかしら」
「そんなところですね。家でのんびりしてたかったんですけど、世貴にぃと羽美ねぇの両親とうちの親父が酔っぱらって寝てしまってましてね。それで追い出されてきたってわけですよ」
「あらあら、それは大変ね」
事情を聞いて、満と同じように苦笑いを浮かべる満の母親である。
「そうだわ、ちょっと待っててね」
満の母親は、バタバタと家の中へと入っていく。
しばらくすると、ポチ袋を持って戻ってきた。
「はい、お年玉よ。うちの満がお世話になっているから、ちょっと色も付けておいたわ」
「ありがとうございます、おばさん」
「あれ、僕には?」
「満は稼いでいるから要らないでしょう?」
「えー……」
母親からの言い分に、満は思い切り不満にあふれた表情をしていた。
しかし、満がアバター配信者で稼いでいる金額は思った以上に多いのだ。それでいてお年玉は、さすがにちょっとと思われるのも無理のない話なのである。
「まっ、しょうがないな、満」
「そうだとも。あのアバ信は俺たちの傑作だからな。そのくらい稼げて当然というものだ。なあ、羽美」
「ええ、その通りよ。満くんが使うからって気合い入れて描かせてもらったんだから、この結果は必然ね」
風斗たちですら、まったく満の味方にならなかった。
こうなれば満はお年玉を諦めるしかなかった。
自分の財布の中身を確認して、出掛けられるだけがあると確認すると、足元をブーツに履き替えて満は風斗たちと初詣に行くことにしたのだった。
「それじゃ、夕方まで出かけてくるね」
「ええ、気を付けて行ってらっしゃいね」
両親に見送られながら、満は風斗たちと一緒に近所の神社へと初詣に向かった。
今日はまさか、神社とお寺と双方に初詣に行くことになるとは思ってなかった満である。
お参りをして、屋台で買い食いをして、満は風斗たちとの初詣を楽しんだのだった。
「そういえば、今日は配信をするのかい?」
「はい、レニちゃんと合同配信の予定です。よかったら見て下さいね。お二人に用意して頂いた衣装と新しいクロワとサンもお披露目ですからね」
「おう、楽しみにさせてもらうよ」
「私も、どんな風に動くのか楽しみにさせてもらうわ。それにしても……」
羽美がいきなり満に近付いてくる。
かと思えば、満の頬をつまんで引っ張り始めた。
「ひゃにふるんれふか!」
「ふふっ、本当に女の子なのね。可愛いから嫉妬しちゃうわ」
「もう、やめて下さいよ」
つままれた頬を擦りながら、満は羽美に文句を言っている。
しかし、風斗たちは笑うだけだった。その様子を見ながら、満は頬を膨らませていた。
「まっ、どういうことがあったのかは聞かないでおくわ。だって、満くんは満くんだもの。応援してるわよ」
「あ、ありがとうございます」
こうして、最後にはすっかり和解した満たちは、気持ちよく家に戻っていったのだった。